第4話 君は救世主だ
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この白髪混じりの老人は、どうやら都市・ガーディアの近くにあるバーンズ村の村長らしい。ガーディアとはセントリー内で最も北にある小さな都市。とても栄えているという訳ではなく、貧しめの街。残念ながら俺は1回もそこに行ったことがない。
で、貧しい都市と村なのだが、そこにはモンスターが大量に出没するみたい。それで手を打とうにも金がなくて何も出来ない。討伐者を雇おうにも、パーティーを結成しようにも金が必要だから。セントリーは特に手を打つ訳でもなくて、実質見放されているとか。
だからこそ、彼は俺を勧誘したい訳か。
「君は素晴らしい、武器を持たずにゴブリンに立ち向かって行った。それに討伐パーティーと違って君は……怪我した者を助けた。他の人は違う、討伐するのが仕事だと言って見捨てる」
……その通りだ。討伐パーティー及び討伐者は、モンスターを討伐することが仕事である。被害が広がらないようにするため、人を助けるよりもモンスターの討伐を優先することがある。
でも、今の俺は討伐パーティーでも討伐者でも何でもない。それに、俺はモンスターによって被害を受ける人達のことを救いたい。だから彼女を助けた。
「君がルイを助けなかったら、ルイはもう死んでいた。君が職に困っているというなら……君がいいのなら私は君を討伐者として雇うことにする」
もう俺の周りを囲んでいた群衆たちは飽きたのか居なくなっており、近くにはバーンズ村の村長と足の怪我の手当てを受けたルイと呼ばれる女性しか居ない。彼女から渡された布で手に付いた血を拭いつつも、話を聞いているという状況だ。
それで彼は、俺を討伐者として雇いたい。俺は討伐者になりたい。目的が一致している。僻地とか栄えていないとかそういうのは関係ない。俺はモンスターを討伐して行きたいだけだが、それをするには討伐者になる必要がある。タダで討伐していくだけじゃ食べていけないから。
「本当に俺でいいんですか?」
「君は救世主だ。私の村はモンスターの出没地に囲まれている。それにも関わらず国は対策してくれない。自身で対策しようにも高額な資金が必要になる。そこで君にお願いしたい」
セントリーという国は広く、南の方は栄えているが北の方はそこまで栄えていない。だからか、力の入れようが違う。南にある都市、ポリスタットとシティストとツェッペリンは追放支援金を貰えるが、北だと貰えない。南はモンスター対策がキチンとしてあるが、北だと疎かになっている。
「俺もちょうど職を失っていて、金もなくて困っていました。力になれるようなら……お願いします」
説明しがたい、不思議な縁で俺は討伐者になった。未だに頭の中で考えても考えても整理できない。俺のことを導く頭の中の声は全く聞こえなくなったし、俺は気絶している間に無意識にゴブリンを討伐していたし。もう意味が分からない。とりあえず、とりあえずだ。一旦、彼らの村に行こう。
どうやら村長はバルパーで、安く雇うことのできる討伐者や討伐パーティーを探していたみたいだ。言ってしまえば、弱点とか剣の使い方を学べば誰でもできる職業。しかし命懸けで戦うため、危険は伴う。恐らくだが、あの村には討伐者になれるような若い人材は少ないんだろうな。
女性でもなることはできるし、男性と同じようにモンスターを討伐したりパーティーを組むことができる。実際にエボリュードでも、2人の女性がいた。シルバとレドルラ、今は何をしているんだろうな。
というか、エボリュードはバルパーの大部分を管轄しているはずだ。どうしてゴブリンの騒ぎの時に来なかったんだ。人に「必要ない」とか言う割には、自分たちだって正しい行動をできていないじゃないか。
今すべきなのは、バーンズ村に村長とルイさんと共に行くこと。ルイさんは足を怪我しており、手当ては受けているものの1人で歩ける状態ではなかった。だから俺が肩を貸して、支えながら歩くことにした。といっても徒歩で村に向かう訳じゃなく、車で行く。
車……というのは、既に調教されたモンスターが車輪の付いた台を引っ張ることで動く物。それに荷物とか人を乗せれば、歩かずとも遠くに行くことができる。調教されたとは言えども、一応はモンスターだ。いつ襲ってくるか分からないから、俺は今まで乗ってこなかった。
いくら人のことを襲うモンスターと襲わないモンスターがいると説明されても、モンスターは全て怖い。しかし今は乗るしかない、怪我している彼女に「徒歩で行け」なんて言えないから。
と、ここでまた脳内に声が響き渡ってきた。
「優しいんだな、君は」
……大きなお世話だ。大体何なんだ、これって。病気なのか、職をなくしてストレスがかかって、幻聴でも聞こえるようになったのか。しかし、幻聴にしては……凄いんだ。何かとは説明しがたい、でも俺のことをサポートしてくれている。俺は無視していたが。
そう考えていると……「ありがとう」と、また声が聞こえる。ここで確信した、これはただの幻聴じゃないな。しっかりと意思を持っている、不思議な何かだ。だって俺が考えていることに対して、返事をしてきたのだから。人に感謝を述べてくる幻聴があるか? まぁありそうだな。
とりあえず、色々と試してみることにしよう。「名前はなんだ?」と、口には出さないが心の中でそう考えてみた。今、口に出したら、隣にいる彼女から変な人という評価を受ける。
「名前は……ネオル。君は、エルドだよね」
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