第38話 黒ずくめの勇者
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《同時刻 ディブル城内》
スルトに立ち向かった黒ずくめの勇者は敗れた。それはディブル城から肉眼で確認できた、もうすぐそこまで来ていたから。
黒ずくめの勇者は、王を脅し市民を城の中へ入れた。私は王の側近を勤めているが、はっきり言って王は危機管理能力が乏しかった。前に何者かにディブル城を爆破された時も、何事も無かったかのように食事していた。今回も、巨人が現れたというのに別の側近の娘と遊んでいた。
みんな、ここにいたみんなが彼のことを応援していた。黒ずくめの勇者は王を脅すという最低な行為をしたが、結果的に言えば市民の統制を取り、市民の命を救った。その上、西の方で爆発が起こった際には我先に助けに行き、取り残されていた女性と老人を救った。
その彼は、単身でスルトに挑み、敗れた。謎の攻撃でスルトの体勢を崩すことには成功したが、すぐに復活し、彼は握り潰された。遺体が投げ捨てられる場面までここから見えてしまった。
「.......決めた。私たちだけでも逃げようではないか」
さっきまで休んでいた王は、急に慌てながら荷物の整理を始めた。黒ずくめの勇者に脅されたとはいえ、少し前まで寝転んでいた王が急に立ち上がったと思えば、何を。
「市民を置いて逃げるつもりですか!」
私は無意識のうちに、王に向かって盾突いてしまった。王は王の意見に反対した私を捕らえるよう、周りの兵士に指示したが彼らは1歩も動かない。私の首が飛ぶのは覚悟、続けて王に向かって盾突く発言をした。
「私たちの仕事は王を守るだけではありません。市民を守ることも仕事です」
「.......民を犠牲にすれば、私たちは救われるぞ? 城に閉じ込めれば、あのモンスターは彼らを狙うだろう。君も助かりたくないのかね!」
王はまたしても兵士に指示を出すが、彼らは1歩も動かずに、持っていた槍を壁に立てかけて無視した。彼らも職務を放棄したのだ、この横暴な王の命令を聞くよりも、市民を助けることを選んだ。これは過去の行いが原因だ、王の過去の行いが。
「東地区の討伐者が負傷、ゴブリンが城にやってきます」
東地区のモンスター観察官が汗を流しながら報告しに来た。やはり、新米者の討伐者では太刀打ちできなかったか。バルパーで最も有名な討伐者パーティー・エボリュードが最近、引退した。私たちも討伐者の育成に勤しんでいるが、やはりお手本となる存在がいなくなったことは大きい。
東地区の市民の避難は完了したとの報告があった。そもそも、ゴブリンが真っ先に城を狙って来ているということは.......ここはもう危ない。王を逃がす必要はもちろんあるが、市民を犠牲にすることもできない.......どの手段を取るべきか。
「.......東地区にゴブリン討伐隊を送れ」
王を守る兵士に指示を出したのは、他でもない。ドズラ・オンリー、王自身であった。王はまとめていた荷物を全て床の上に置き、残された兵士に対して指揮を執った。
「広場を封鎖し、ゴブリンの進入を防げ。病人や子供は広場でなく、会議室を開放してそこに入れるんだ。東地区に兵士を送れ、市民には傷1つ付けるな」
王の要請を下にいる兵士に伝えつつ、他の都市に支援を要請した。幸い、エボリュードのお陰でできた縁がある。彼らがいたからこそ救われた場所がある。スルトが都市を襲うなんて前代未聞の事態、対処するには他の都市の助けが必要だ。
「ガーディア、バビロン、ハルマーナ、ツェッペリン、アルビオン、レガリア、または都市に準ずる村・集落に防衛出動を要請してくれ。また、東地区から市民を逃がす準備をしろ。万が一、ここを捨てて逃げる必要がある」
黒ずくめの勇者に頼りすぎていた部分もあった。バルパーを守るのは、バルパーに暮らす私たち。私たちが行動を起こさないことにはどうしようもない。王に続いて、私たちもバルパーを守る盾とならなければ。
スルトは既に南地区に到達していた。慣れ親しんだ街並みが、スルトの燃え盛る大剣によって破壊されていく。炎の巨人が踏み荒らした場所は消し炭になって消滅した。私が子供の頃によく遊んでいた公園も、スルトによって壊されてしまった。
他の都市からの応援を待つか、バルパーの討伐者を向かわせるか、それしか方法がない。しかし応援を待っている間にも、スルトは街並みを破壊していく。それなら討伐者を向かわせるしかない。
しかし、ゴブリンの動向も気になる。知性があるのか、東地区のゴブリン以外は動いていない。市民が城にいるのは分かっているはずなのに。知性があって動いているのなら、私たちは嵌められたのか。モンスターが人間より強いことが証明されてしまったのか。
いいや、この都市はまだやれる。今すぐに討伐者を向かわせよう。そう考えていた時だった。
「見ろ、スルトが!」
スルトは持っていた剣を逆さに持ち、それを自身の心臓に突き刺していた。燃え盛る大剣が、スルトの心臓を貫いていく。何だ、何が起こっているんだ。モンスターが、自害の道を選んだのか。スルトの方が優勢だったのに。
自身の胸に剣を突き刺したスルトは、その場に倒れた。黄色く光っていた目の輝きは消え、マグマのように燃えていた体は徐々に消えていった。遠くからで見えにくいが、灰になったのだろう。一体、何がどうなっているんだ。
「上級モンスター・スルトの討伐を確認。討伐者は不明。繰り返す、討伐者は不明。討伐者の確認と状況の把握を頼む」
これにて、スルトの討伐が完了したとの報告があった。確かにスルトは死んだが.......これは何があったんだ。言葉で説明するのが難しい。だが、ここで考えていても仕方がない。
火の海になるのを避けるため、南地区に消防隊を派遣した。また、都市を囲むゴブリンを討伐するために、新たに他の都市に応援を要請した。これで、一安心だ。諦めず、最後までバルパーを見捨てずにやってきたが.......神が助けてくれたのか。
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