第37話 残された道
----------
こうしている間にも、スルトはもうバルパーから500mも離れていない場所まで来ていた。奴の体は灼熱の炎で包まれており、歩いた場所全てが燃えていった。だから大剣を地面に突き刺すあの行為、俺から全てを奪った攻撃をバルパーで行う前に、スルトを倒す必要がある。
「エルド、剣を失ったがいけるか?」
ジャッカルから体の制御権を受け取り、いざ戦おうとしたものの、対スルト用の剣が無い。サーターを助ける過程で置いてきたから。今持っているのは、サーターが持っていた安っぽい剣。これでスルトを倒すのは難しいな。
「"ラグナロク"を起こされる前に討伐しないと」
博識なハルによるとスルトは、とある神話の巨人から名前が取られたらしい。ある神話の国・アスガーディアルを襲ったエピソードで知られているとか。アスガーディアルを崩壊させた、剣を地面に突き刺して炎を起こすあの攻撃には名前が付いていることも、今知った。
名前はラグナロク、これを起こされると.......アスガーディアルと同じように滅んでしまう。どうにかして阻止しないとな。
武器屋に戻る暇があるか、体力的には大丈夫だが、そのラグナロクが起こる前に戻ってこれるかどうかが気になるな。まぁ、悩んでいる暇があったら行動を起こした方がいい。
「スルトは歩きながらエネルギーを貯めている。再度ラグナロクを起こすまで、少しくらいなら時間を有しそうだけど」
俺は残されたワイヤーを巧みに使って、武器屋に戻った。スルトは現在、バルパーの端にある家から400mしか離れていない。一応は17mの大きさを持つ巨人だ。大剣が重いからゆっくり歩いているだけかもしれない、大剣を置いて走ってきたら、その時は対処しきれない。
さっきと同じような剣を手にし、ジャッカルとハルと作戦を話し合った。今はスルトの討伐が最優先事項だ、自分の体はどうなってもいいけど、とにかくスルトだけは討伐しないと。エボリュードの3人もいないんだ、俺だけしか事態に対処できる人間はいない。
「ワイヤーは防火仕様、足止めになら有効だ」
残りのワイヤーは2つ、射程範囲は50mと非常に長い。スルトも図体のデカい巨人だ、足にワイヤーを絡めればバランスを崩して転倒してくれるかも。
幸い、スルトの弱点は分かっている。巨人の弱点は背中、緑の巨人・ハロークの弱点は首元で、海の巨人・シーハロークの弱点は股関節。スルト、南の一部地域ではムスルと呼ばれている炎の巨人の弱点は.......心臓だ。モンスターにも心臓が存在する。人間と同じく胸にある。
スルトの心臓を貫くには、特殊な槍が必要だが.......ここには無い。ブルトゥスの槍とか呼ばれる、神の力が宿った槍を使って討伐しないと倒せないとか言われているが、それは神話の世界でのお話。少なくとも、心臓を貫けば倒せる。
「炎に金属を加えると吸収する、だから岩とか燃えない物を選んだ方がいい」
金属とか水蒸気とかよく分からないけど、とにかく燃えない物を武器にしたらいいんだな。武器屋に置いてある特殊な剣は耐火の効果が付いているからいいとしても、心臓を貫けるような武器が欲しい。
そこら辺にある街灯は鉄だから溶けてしまう、家の破片も木材だから溶けてなくなる。耐火の効果が付与されている剣は、武器屋には1本しか置いてない。というか、さっき草原に置いてきた剣にも効果が付与されていたはずだが.......あれは消滅した。もしかしたら、耐火の効果も意味ないのかも。
「今は早く討伐することだけを考えろ。下手なことは考えなくていい」
それもそうだ、用意は必要だが、下手に考えすぎると行動もできない。俺はワイヤーを片手に、特殊な剣・ゴライアスを片手に持ち、スルトの元へ向かった。
「グアアアァッッ!」
スルトは大地を揺るがす程の咆哮を上げた。そしてそのまま、大剣を俺に向かって振り下ろしてきた。かかった、今がチャンスだ。俺はワイヤーを、スルトの足めがけて発射した。防火仕様のワイヤーは溶けることなく、スルトの足にくっついたまま離れなかった。
ワイヤーの強度は驚異的で、これ1本でも船を引っ張ることができるらしい。要は、力があれば何にでもなる。俺はワイヤーの発射装置を持ったまま、スルトの周りを駆け回った。スルトは俺を止めようと必死に踏み潰そうとするが、足は動かない。
何故なら、ワイヤーで足止めしたから。動けば動くほどワイヤーは絡まっていく。しかもこいつは巨人だ、少しでもバランスを崩せば.......倒れる。腰のベルトに隠しておいた残りのワイヤーを持って、それを奴の顔面目掛けて発射する。
足に発射したワイヤーと、頭に発射したワイヤーを別々に固定して、それらを思いっきり真逆の方向に引っ張る。足は後ろに、頭は前に、そうすると巨人じゃなくても間違いなくバランスを崩して転倒する。
ドンッ.......!
派手な音を立てて、スルトは前に倒れた。うつ伏せの状態で、剣は手から離れている。これならラグナロクも起こせない。スルトの背中の上に乗り、俺は持っていたゴライアスという剣を、思いっきり奴の心臓に向かって突き刺した。不思議なことに、スルトの背中は熱くなく、普通に立っていられる。
長い剣を突き刺しても、討伐した手応えが感じられない。ゴブリンやオークなら白い液体を口から吹き出すから分かるけど、スルトの場合は分からない。過去にリザードとジオンガルムを討伐した時、特にジオンガルムを倒した時は、心臓に剣が達する感覚を手で感じ取れた。それが、今はない。
もしかして、届いてないのか。
「グオオオオオ.......!」
奴はうつ伏せの状態から起き上がり、背中に立っている俺を振り落とそうとしてきた。俺は何とか剣にしがみついているが.......もう少しで取れてしまいそうだ。奴が立ったからか、背中が少しずつ熱くなってきた。下に降りようにも、地面は燃えている。
「エルド.......逃げて」
そんなこと言ったって、どうしよう.......もない。スルトの熱で剣の持ち手が溶けてきた。ここから落ちれば、スルトの熱に焼かれて死ぬ。でもしがみついていても、スルトの体の熱に照らされて死ぬ。ワイヤーはもう残されていない。エアークッションも使い切った。
残された道は.......
----------




