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第36話 ここから去れ

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「もう少しで、変な巨人を討伐できるぞ。これでランキング上位間違いないな!」

「他の討伐パーティーは来ない!だから焦らずゆっくり倒すぞ!」

「.......誰か来た、追い払うか」


 スルトを討伐しようと奮闘している彼らは、近付いてくる俺の存在に気が付いたようで、追い払うかどうかを話し合っている。それも全部聞こえているんだがな。


 家族を失った事件を思い出す。スルトは剣を地面に突き刺して、辺りを燃やしていた。それで父親は巻き込まれた。母親は弟を助けようとして、そんな弟は父親を助けようとして、火が連鎖して燃え移った。俺はそれを遠くからただ見ているだけだった。


 で、目の前にいるスルトは何故か剣を使おうとせずに、ただ近くにいる人間を踏み潰そうとしている。剣を地面に突き刺せば一発で死ぬのは分かっているはずなのに。バーンズ村の人たちもそれで殺したんだろ。なのに、何故。


「ここはゴアブッチャーの縄張りだ。巨人を討伐するのは俺たち、邪魔するんだったらこっちも容赦しないぜ」


 彼らは事の重大さを理解していないようで、スルトを7人で討伐できると本当に信じている。7人が討伐してくれるのなら良い、復讐にこだわっている訳じゃなく、ただバルパーを守りたいだけだから。でも、そんな簡単に事が進む訳がない。


「.......スルトは簡単に倒せるモンスターじゃない。最近だって北の村がスルトのせいで消滅した。普通に倒せるのなら俺も苦労していない」


「.......なるほど、俺たちの邪魔をするってことか。言質は取った、つまりここからはどんなに俺に殴られても言い訳できないぞ」


 不思議だ、こんなにも話が通じない人がいるなんて。自身の持つ力を過信しすぎている。彼らはスルトを攻撃する手を止め、邪魔者の俺に向かって拳を向けてきた。スルトの重要性を理解していない、若者とはいえ俺と同じくらいの年齢だろ。


「ここで争っても意味ない、早くここから逃げろ!」


 何を言っても、彼らは聞く耳を持たない。ただ俺に拳を振るい続けるのみ。とにかく、反射神経で四方八方から次々に飛んでくる拳を受け止め、それを軽く横に流す。それを繰り返すしか方法はない。こんなところで体力は使いたくなかったのに。


「.......エルド、周りの温度が上昇している。ジャッカルに身を任せて」


 ハルは殴られている俺をよそ目に、ジャッカルと交代するように言ってきた。今この状態でジャッカルと交代したら、目の前にいる7人を殴ってしまいそうだ。俺じゃなくて、彼が。最悪、帰らぬ人になる。温度が高くなった……の意味が分からないけど、とりあえずジャッカルと交代しよう。


 交代するや否や、ジャッカルは持っていた剣を地面に突き刺し、近くにいた人の手首を片手でへし折った。リーダーとして俺の前に立ち塞がっていた奴の手だ。彼はもがき苦しんでいるが、他の6人は彼を助けようとはせずに、彼を置いてバルパーの方へ逃げて行った。


「待て、俺を置いていくな!」


 彼の言葉は、6人には届いていない。誰も彼を助ける気は無いようで、もう丘を越えて遠くの方へ行った。手首を折られた赤髪の男はもがいているが、ジャッカルはそこに追い討ちをかけるように耳打ちした。


「ここから去れ、でなければ殺す」


 赤髪の男は逃げようとしたが、右手の痛みに耐えられずにもがき苦しんでいる。仕方ないからジャッカルが遠くに運んで逃がそうと決意したその瞬間、ハルが温度の激しい上昇を感じ取った。


「.......スルトから水蒸気が放出されている! 今すぐそこから逃げろ!」


 ハルの命令を聞き取ったジャッカルは、地面に突き刺した剣を回収し、地面に倒れ込んでいた赤髪の男を片手で持ち上げてその場から走って逃げた。炎の巨人から水蒸気が放出されているとなると……どうなるんだ。


 スルトは炎に包まれた大剣を持ち上げ、それをそのまま地面に思いっきり突き刺した。


 まずい! あの攻撃だ!


「ジャッカル、早く!」


 ゴゴゴゴゴ.......!


 スルトの突き刺した燃え盛る大剣の火が地面を伝って、周りを燃やしていく。地面に生えていた緑色の草は一瞬にして燃え散った。スルトの剣から放射線状に炎が広がっていく、まさにあの時と同じだ。


 激しい轟音と共に地面も割れていった。剣が入った場所からゆっくりと、土が穴に吸い込まれていく。ジャッカルは持っていた剣を捨て、両手で赤髪の男を運んでいる。少しすると、地面に落ちた剣も炎に包まれた。


 とんでもないスピードで、辺りを燃やしていくスルトの炎から逃れる術はあるのか。しかも今は不利な状況だ、赤髪の男が1人じゃ動けないせいで、ジャッカルがどうにかするしかない。置いていく訳にはいかないから。


「温度が下がった。半径123mの円が範囲と推測する」


 と、ここで突然、炎の広がりが止まった。スルトは大剣を地面から抜き、またゆっくりと都市に向かって進み始めたのだ。温度の推移を感知していたハルによれば、炎の円はちょうど半径123mで収まったそう。


 今後もそれくらいの範囲になるのか.......どちらにせよ、一発でも食らえばバルパーは滅びそうだ。木材建築の多いバルパーは消し炭になることが予測される。王の城はレンガ造りだが、それでも広場が火の海になれば、皆が巻き込まれる事態に発展する。


 しかし、対スルト用に持っていた剣は、スルトの生み出した炎に巻き込まれて溶けた。盾は持っているけど、剣がないからどうしようもない。ジャッカルは、赤髪の男から剣を奪い、森の中に入ってから応急処置を始めた。


「お前、名前は何だ?」


「.......俺は、サーター・シンモラ.......ゴアブッチャーのリーダーで、バルパーの討伐者をやってい--」


 サーターが自己紹介をしている間に、ジャッカルは力技でへし折れた彼の手首を治していた。といっても、折れた骨を無理やりくっつける作業。ジャッカルは医療免許なんて持ってないのに、ハルに任せる訳でもなく自分でやっている。


 サーターの体には激痛が走っているようで、何も言えずにただもがいて苦しんでいる。が、自業自得だからか、ジャッカルは彼の頭を押さえつけて動かないようにするだけ、何も言わずに静かに作業をしている。


 やがて、骨がくっついた段階で、ジャッカルは彼の顔面を一発殴ってから、あることを伝えた。


「東の方角にある森に入れ、湖の中は安全だ。モンスターもいない」


 サーターは顔を押さえながら、何も言わずに森の方へ走っていった。何がともあれ、ゴアブッチャーの問題は解決した。さて、ここからはスルトのターンだ。スルトをどう討伐するか、自分たちでどうにかしなきゃいけない。


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