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第35話 人を助ける理由

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「ルイさん……どうして逃げなかったんですか?」


 おじいさんの足に添え木を固定している彼女に対して、俺はずっと気になっていたことを質問した。他の住民は逃げていた、近くにある武器屋にも人はいなかった。なのに、何で。


「どうしてって……動けない人を置いて逃げられる訳ないでしょ。目の前で『助けて』って言われたら、助けないと」


 彼女は当たり前のように人を助けていた。そこに特別な理由なんてものは無かった。彼女だって辛い経験をしているのに。モンスターのせいで家族を失って、それに自身もモンスターのせいで怪我を負ったことがあるのに、人を助けた。


「……あと1分くらいで討伐者がここに来ます。その時におじいさんと一緒に城へ戻ってください。城は一般開放していて、市民でも入れるようになっていますから」


「そう、ありがとう」


 俺は床に落ちていた仮面を拾い、それを被った。仮面の模様は気にしていなかったが、よくよく見てみると不思議な模様をしている。これはジャッカルが適当に仮面屋から取ったものだけど、模様が口角を下げて泣いているように見える。


 モンスターの返り血のせいで、殺しながらも泣いている狂人のようにも見えてしまう。しかし、仮面を変えている暇はない。正体を見られなければ何とかなる。


「このおじいさんを城に運んで、彼女も連れて行って。ここら辺のモンスターは俺が討伐しておく」


 モンスターを討伐しに来た討伐者に、また帰ってもらうようお願いした。彼らは新聞の討伐数ランキングに載っていたパーティーの一員だ。名前はソレノイド、確か2位だったか。不安がってはいたが、俺の指示を素直に聞いてくれた。


 それで、彼女を呼び止めて、もう少しだけ話しをしてみた。仮面も外して、誠意を持った状態で。


「……バーンズ村のこと、本当にごめんなさい。いくらジャッカルとか多重人格とかあっても、絶対にやってはいけないことだった。本当に--」


「これ以上謝ってもキリがないし、それに私だって謝っておく。貴方と出会って助けられて、なのに『私があのまま死んでおけば』なんて、酷い言葉をかけた。助けてくれたのは貴方なのに、その行為を蔑ろにした。本当に、ごめんなさい」


 そう言って、彼女は深々と頭を下げた。


 俺がルイさんと出会い、バーンズ村で討伐者をやるキッカケになったのは、バルパーでのゴブリン襲来の一件。ゴブリンに襲われているルイさんを俺が助けなかったから、今こうやって一緒にいることはなかった。


 そうか、だから彼女も人を助けたんだ。


 普通の人は、ゴブリンに襲われている人がいても助けない。というか、助けられない。余裕が無いから。そもそも余裕を持っている人間の方が限られている。でも彼女は助けた、余裕がなくても助けた。その理由が、何となく分かった気がする。


「貴方は早く行って、バーンズ村のみんなも、バルパーのみんなも、貴方のことを応援している」


 俺は彼女を片手でハグした。彼女も断らずに受け入れてくれた。バーンズ村は助けられなかった。だから、バルパーは助ける。そうして、彼女の心も助ける。それが、今の俺にできる唯一の謝罪だ。彼女の頬を伝う涙を拭い、別れを告げた。


「行ってきます」


 それだけ呟いて、仮面を被る。口角が下がっていて泣いているように見える仮面を身に着けて、これから戦う。


 残されたワイヤーを上手く使って、その場から駆け上がる。観察塔の先にワイヤーが付くように発射し、そこから振り子の要領で走って高く飛び跳ねる。新たなワイヤーを地面に向けて発射し、逆さまの振り子の要領でまた高く飛ぶ。そうして、一旦ジャッカルに人格を渡す。


「随分と無茶しやがって」


 ジャッカルはワイヤーやガジェットの扱いに慣れている。腰のベルトにはワイヤー以外のガジェットが付いており、俺やハルはその仕組みが分からないから使わないようにしている。だから、使えるのはジャッカルだけ。


「着地に困った時には、エアークッションだ。地面に投げると、衝撃で大きく膨らむ。他には対人間用のナイフが2つ、小規模威力型の時限爆弾もある.......開発したのは、俺じゃなくて治安兵士だ」


 彼は空中で説明しながらも、エアークッションを地面に投げ付けてから着地した。クッションに包まれた彼は無傷、巨人よりも高い場所から落下したのに傷1つ付いていない。こんな素晴らしい技術があったなんて。


「同感だ、この技術を独り占めしなければ、モンスター討伐も楽になるだろうな。まぁ、モンスターがいることで儲けられる組織も存在するんだから、治安兵士の奴らはそんな無駄なことしないだろうな」


 さっきの武器屋に到着し、スルト対策のために奪った武器を回収した。そこら辺でジャッカルから制御権を受け取ったところで、一旦スルトの状況を確認してみた。


 思った以上に、スルトは進んでいない。それもそのはず、調子に乗った討伐パーティーが単独でスルトの討伐に挑んでいたから。奴は最悪の上級モンスターだってことを知っていながらも『討伐のチャンス』と思ったんだろうな。


 ここから800m近く離れた草原で、彼らは戦っている。討伐パーティーのメンバーは7人、これだけの大所帯となると.......名前も特定できる。確か新聞に載っていたゴアブッチャー。男性だけで構成されたパーティーで、順位は15位だった。どうにかして助けに行かないと。


 スルトは何故か彼らを刺し殺したりはせずに、踏み潰そうとしている。前の徘徊していた巨人と同じように、変な習性を持っているのかもしれない。だとしたら厄介だが、それでも倒すしかない。幸い、まだ7人は殺されていない。


 対スルト用の剣を右手に、盾を左手に持った状態で奴の元に向かった。鎧は着ない、素早く動くためには鎧は必要ない.......とジャッカルが言った。ジャッカルの言葉を信じて、今は着ないでおく。


「エルド、健闘を祈る」


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