第34話 お前の番だ
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「スルト用の武器は置いてきたが大丈夫か?」
ジャッカルは素早く動くために、スルト討伐用の武器を全て武器屋の屋根の所に置いて行った。しかし、大丈夫だ。この城の前の大通りにある別の武器屋に、ゴブリン討伐に特化した剣が売られていることを知っているから。
俺はジャッカルから体の制御権を貰い、屋根の上を伝って東の燃え盛る方へ向かった。爆発のせいで煙が上がっているが、お陰で場所が分かりやすくなった。早く行かないと、次なる犠牲者が出てしまう。それを何とか避けないとな。
武器屋から適当な対モンスター用の剣だけ奪い、屋根の上を走った。障害物があったら飛び越え、また別の障害物があったらくぐり抜ける。前よりも体が素早く動かせるようになったな。これも謎の力のお陰か。
狭い路地に引っかかっているロープを伝って、振り子の要領で、観察塔の上に乗る。この塔はモンスターの様子を観察するために作られた塔で、城に次いで2番目に高い建物だ。
ここからワイヤーを垂らして、振り子の要領で高く飛ぶことができる。これが、俺たちにしかできない時短の移動方法だ。体力を消耗してしまうが、そこは気合いで何とかする。俺の体力なんてどうだっていい、後で休めばどうにでもなる。
落下の衝撃を抑えるために前転したところで、女性の悲鳴が聞こえた。ここで感覚を研ぎ澄ますことで、周囲の状況が見えなくても分かる。目の前の燃える建物の中には誰もいない。その隣の建物には立てない老人と女性がいる。そしてその建物の前にゴブリンがいる……ということか。
しかも……この女性の声、聞いたことがある。今はどうだっていいか。ゴブリンは4体、遠くにスケルトンが2体いるのが気になるが……今は目の前のことだけに集中しておこう。ゴブリンを倒してから、スケルトンを倒す。
とりあえず、まずは家の前に立ち塞がっているゴブリンを討伐しよう。
剣を右手に持ち、左手で落ちてきたレンガを拾い、それをゴブリンの頭に投げ付ける。大体の角度は予想できる、能力のお陰で。どんなに重いものだろうと、俺の手にかかれば投擲武器にだってなる。
「グアッ!」
レンガを頭にぶつけられたゴブリンは鳴き声を上げ、投げてきた犯人を探すようにキョロキョロとしている。しかし、俺は路地裏に隠れているため、そう簡単には見つからない。でも、あえて見つかりに行く。無防備な彼らを巻き添えにはしたくないから。
「ギャアッ!」
「グラァッ!」
俺を見つけたゴブリンらは咆哮を上げている。目の前にいるゴブリンは4体、遠くにいたスケルトンが中心部にある城に向かって移動しているな。それに、スルトがもうすぐそこまで近付いてきている。大剣を持っているから動きは遅いが、それでもあと2kmというところか。
なら、早めに討伐しないとな。
俺は右手に持っていた剣を左手に持ち替えて、逆さまに持ったまま上から下に振り下ろした。1番近くにいたゴブリンは脳天を貫かれ、そのままバタッ……と倒れた。よし、適当に手に取った剣だけど、思った以上に強いな。
急いで剣を抜き、近付いてきた片方のゴブリンから棍棒を無理やり奪い取り、二刀流にして戦う。右手には剣、左手にはゴブリンの持っていた棍棒。レンガよりも重くて扱いにくいが、頑張れば何とかなる。
棍棒を奪われたゴブリンは、味方であるはずの別のゴブリンの棍棒を奪おうとして喧嘩している。戦いの最中なのに、だがこちらとしては好都合だ。俺はそのまま3体まとめて、剣で突き刺した。モンスターの返り血が黒いローブにブシャッ……と飛び散ったが、それは気にしないでおこう。
そのまま足を怪我していて動けない老人の元へ向かった。ワイヤーを使って窓を突き破り、中で動けなくなっている老人を助けようとした時、知っている女性の声がした。
「……助けてくれてありがとうございます」
目の前にいる女性はルイさんだった。彼女もまた逃げ遅れた1人で、動けなくなっていた老人の背中をさすって、どうにか一緒に避難しようとしていた。彼女に老人を見捨てるという選択肢は無かった様子。ゴブリンに襲われそうになっても、老人を置いて行こうとはしなかった。
俺は何も言わずに仮面を取り、その場に投げ捨てた。彼女は過去にモンスターに襲われたことがある。それもバルパーで、その時は俺が助けた。それに、バーンズ村が襲われた時も彼女は現地にはいなかったけど、その惨状は見てきたはず。
なのに、彼女はモンスターに立ち向かった。老人を見捨てずに、モンスターから逃げずにここにいた。すごい、トラウマになっていても仕方ないはずなのに。
「……何でここにいるんですか」
「助けに来た。バーンズ村を襲ったモンスター達が、バルパーに。だから早く逃げて」
そうやって彼女に説明していると、急にジャッカルが割り込んできた。俺の体の制御権を勝手に奪って、彼女の肩を掴んで何かを話し始めた。
「ルイ、前は申し訳ない。夜のことだ……久々に酷いことをした。女と子供に迷惑をかけるつもりは無かったが、つい----」
前の夜のことを謝っているのか分からないが、急にまた人が変わった。次はハルだ、ジャッカルが何をするのか分からず、止めに入ったんだろう。彼はルイさんから手を離し、老人の足を触り始めた。
「どうやら骨が折れているみたい。急いで固定できる棒みたいなものを持ってきて、応急処置をするから」
ルイさんは人格の急激的な変化に戸惑っていたが、すぐに添え木を探しに行った。初めて見たら戸惑うよな、そりゃ。俺でさえ、何がどうなったかよく分からないんだから。
「待て、スケルトンが近付いてきた。ルイさんはおじいさんの足に棒を固定して。ボクは少しの間いなくなる」
ハルは剣を持ったまま窓を突き破り、地面に着地した。その瞬間から、彼の顔つきが変わった。次はジャッカルになったのか。どうやらハルが自ら制御権を彼に渡したみたい。「スケルトンが近付いてきた」と言っていたし、ここからはスケルトンと戦うんだな。俺も準備しなければ。
「スケルトンのブーメランが2秒後に来る」
ハルの声を頼りに、ジャッカルはスケルトンの作り出したブーメランを片手でキャッチした。白い骨で出来た、投げると手元に戻る武器。本来はスケルトンの武器で強固な素材で出来ている、だからスケルトンにも有効だ。
「エルド、次はお前の番だ」
ジャッカルは俺に体を渡してきた。体の制御権を無理やり人に渡すこともできるんだな。無意識のうちに体に感覚が戻ってきていたから違和感があったが、遠距離戦闘なら俺に任せてほしい。
姿は見えないが、隣の通りにスケルトンが2体いる。姿は別に見えなくていい、ブーメランは遠くから当てればいいのだから。感覚から察するに、片方のスケルトンはブーメランを生成し、投げてきたから武器を作るまでに時間がかかる。
もう片方のスケルトンは新たなブーメランを作っているが、完成するまでに時間がかかるだろう。つまり、両方ともブーメランを投げることはできない。この場は俺が支配したようなものだ。
深呼吸して、右に向かってブーメランを投げる。ブーメランは窓を突き破って、隣の通りに並んでいたスケルトンの首を綺麗に割っていき、また手元に戻ってきた。2体のスケルトンの頭は外れ、地面にコロン……と落ちた、これで討伐完了。
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