第31話 エボリュード、引退
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「物件の下見ですか?」
俺は後ろにいた老人から声をかけられた。この人……どこかで見たことがある。いつも黒い帽子を被っている、腰の曲がったご老人。
「……ここはもう空き家ですので、勝手に来られると迷惑なので……」
分かったぞ、彼はこの家の大家さんだ。借家の手続きはレドルラがやっていたから詳しくは分からないけど、どこかで見たことがあると思ったら。名前は確かコンラート……だったか。それで、空き家……って何だ。
「エボリュードの皆はどうしたんですか?」
「……いや、既に売り払われて、とにかくここは空き家ですので……お帰りください」
大家さんは俺のことが分からなかったのか、俺のことを無理やり外に追い出した。仮にも俺はエボリュードの元メンバーなのに。大家さんと直接話したことはないけど、何度か出会っている。レドルラが手続きしている横で見ていたから。なのに、どうして。もう蚊帳の外だから関係ないって感じか。
エボリュードの3人は、物件から引っ越したのか。たまたまか、拠点を家にしていた邪魔者の俺がいなくなったことを機に変えたのか。それとも俺が来ないようにするため……それは考え過ぎか。なら、どこに移動したのか考えよう。
「……エボリュード、もういないぞ」
そうやって口を開いたのはジャッカルだった。体の制御権を渡すと、ジャッカルは真っ先に新聞屋の方へ向かっていった。何をするつもりなんだ。
「……この新聞を見ろ」
ジャッカルの持っている新聞を鏡越しに見てみると、そこには討伐パーティーの週間討伐数ランキングが載っていた。まず、エボリュードはそのランキングに入っていなかった。バルパーの中で最も知られている討伐パーティーである、あのエボリュードが。
いつも、討伐パーティーのランキングで上位を独占していたのに。それなのに討伐しても金はあまり入らない……って文句を彼らは言い合っていたな。「生活するのもやっとだ」とか「誰のために汗水垂らして討伐してんだ」とか。
過去の新聞のバックナンバー欄を見てみると、そこには大々的に一面で、とある衝撃的なことが書かれていた。
『エボリュード、引退か』
『先日確認したところ、エボリュードの拠点は空き家となっており----討伐パーティーは解散の可能性あり----メンバーの現在の職業は不明であ----』
エボリュードが、俺の知らないところで引退していたのか。不思議なことに、俺が彼らに追放されてから3日後に空き家になっていることが書かれていた。「お前は必要ない」と言って、彼らは俺のことを追放した。なのに、今なんで活動してないんだよ。
他にも追放する時にこんなことも言っていたな。「人数を増やしつつ、邪魔者は消す」と。これを言っていたシルバの表情は今でも忘れられない。誰よりも冷酷で、誰よりも悲しい目をしていた。人数を増やす代わりに俺を追放した、それなのに何で引退してるんだよ。
俺はどうしても、彼ら3人と話がしたくなった。
確か、3人はバルパーに暮らしていたはず。でも、実家に帰っている可能性もあるな。となると、リーダーのガイドはサーカル村、シルバはハミナル村、レドルラはナディーム村にいるはず。ここから近いのはサーカル村とハミナル村か。
色々と聞きたいことがある。何で俺を追放したのか、理由は分かっているけども、なら何で引退したんだ。俺を追放する意味なんてないじゃないか。追放支援金も貰えないんだし、俺を追放したところで何も生まれない。彼らは何がしたかったんだ。
「……お前の装備は森に捨てた」
ジャッカルが突然、口を開いた。俺のモンスター討伐のための装備、対モンスター用の鎧と対モンスター用の剣と盾。それらはどこに行ったんだ……と思ったが、ジャッカルが勝手に捨てていたのか。
だから今は、ジャッカルの着ていた黒いローブを、怪しまれないように着こなしているつもりだが……どうして急にそんなことを彼は言ったんだ。
「……ここ近辺でモンスター討伐用の装備を買える場所はあるか?」
ここはバルパー、仮にも都市だからモンスター討伐用の装備はいくらでも売っている。エボリュード時代には何回も近くの店で買っていた。エボリュードは優秀な討伐パーティーだったから、近辺の武器屋で購入すると割引してくれた。
ちょうどここの新聞屋の近くにも、プリズマという名前の武器屋がある。フォギーという精肉店の前にも、ペイジという名前の武器屋があって、そっちには投擲武器がたくさん置いてあったはず。
「……制御権を渡すから、今すぐにでも武器を購入しろ!」
ジャッカルは厳しい口調でそう言い放ち、俺に体を渡してくれた。何でそんなに厳しい目をしているのかは教えてくれなかった。それに武器を購入しろって……どういった物を購入すればいいんだ。ゴブリンと戦うなら安くてもいいが、ゴブリンの王と戦うなら高い武器の方がいい。
それにしても、ジャッカルは金を持っていない。これじゃ、1番安い剣くらいしか買えないな。これだと上級モンスターには歯が立たない。そもそも俺たちは金欠だから、金を稼ぐ必要がある……それで、どうして彼はこんなに急かすんだ。
その理由は、俺が彼に尋ねる前に判明した。
「グオオオオオオッッ!」
遠くの方から、大地を震わす程の巨大な咆哮が聞こえた。咆哮の威力は凄まじく、衝撃波で店の近くに置いてあった旗が全て吹き飛んだ。これくらいの咆哮を出せる生き物なんて大体予想がつく、普通の生き物とかじゃない、モンスターだ。
「……ショッキングな内容だが、バルパーの周りをモンスターが囲っている」
そうか、だからジャッカルは俺に早く武器を購入するようにと急かしてきたのか。バルパーにも他の討伐パーティーはいるはずだが、さっきの新聞で見た討伐パーティーのランキングから察するに、そこまで強くない。それもそのはず、みんな新入りだから。結成日が最近だったから。
「それで、どのモンスターがいるか分かるか?」
「……言うぞ、スルトだ」
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