第30話 炎の巨人
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「ほら、俺の言った通りだろ」
ジャッカルの指さす方には、ぽっかりと空いた巨大な穴があった。森の中で、穴は細く空いている。恐ろしいのはそれだけじゃない、穴の終わりが見えないんだ。この穴がどこまで続いているのか分からない。
体の制御権を受け取り、試しに近くに落ちていた木の枝を投げて入れてみたが、地面に落ちた音が聞こえない。それくらい深い穴だ。こんなの普通の人間は掘れないだろう、目視だが30m以上の穴が空いていると考えられる。
「……根が散っている?」と、ネオルが口にした。
穴の断面に生えていた植物の根っこを見てみると、それらの大部分が燃えて散っていた。中には焦げているものもある。穴の断面にある植物に燃えた形跡がある……というと思い浮かぶのは、アイツしかいない。
俺がこの世の中で1番嫌いなモンスター、スルトだ。俺の家族の命を奪った、最低最悪のモンスター。炎の巨人と呼ばれる上級モンスターで、赤く剣を持っている個体が多い。俺の家族はその剣を持っている個体に殺された。
奴が剣を軽く振るだけで家は燃え、俺は外に出れなくなった。家族は目の前で燃えて息絶えた。でも俺は何故か生き残った。ちょうど洗濯場にいて、水が近くにあったから。いくら上級モンスターといえど、水が大量にある場所には近付けない。だから奴は俺を襲えなかった。
でも、当時はそんなこと分からなかった。とにかく水の中でうずくまっているしかなかった。呼吸して沈んで、また呼吸するために浮き上がって沈んで。それを繰り返していると大人が来た、都市の役人だった。村が襲われて2日が経っていた……ってことはその時知った。
あれからスルトに出会ったことはない。
奴は上級モンスターの中でも珍しく、出現率が他のモンスターと比べて圧倒的に低い。最強の力を持っているとも言われているため、人間界に簡単には姿を表さないんだろう。
バーンズ村を襲ったモンスターの中にスルトがいたとなると、これは大変なことになる。1組の討伐パーティーだけで討伐しに行こうとすると役所に止められる。理由は単純、スルトが強すぎるから。
昔見た記録だが、役所の命令を聞かずに向かった5人組討伐パーティーのうちの4人が消し炭となり、残り1人の遺体が焦げた状態で発見された……という例がある。だからもしもスルトが発見されたとなると、近くの有名な討伐パーティー4組くらいでチームを組んで討伐に向かう必要がある。
いくら俺に屈強な力があるからって……スルトには敵わない。奴は上級モンスターの中でも最強……俺の村を破壊し……バーンズ村を壊滅させて……俺1人じゃ無理だ……どうしろって言うんだよ。
「君は独りじゃない。ボクらがいるだろ」
こういう状況の時に励ましてくれるのはハル、でも求めてるのはそれじゃない。いくら俺の中に何人もの人がいたって、結局は1人なんだ。4人で協力して立ち向かおうにも、体は1つしかない。
「そんなに言うなら、昔の仲間を頼ったらどうだい?」
……昔の仲間、エボリュードのことか。俺はエボリュードから追放された。パーティー追放、よくある話だ。討伐パーティーは協力し合わないといけない組織。そこで1人でも劣った、協調性のない人間がいると組織全体のやる気が削がれる。1人を追放することによって、組織全体に活気が湧いてくるのならメリットしかない。
俺は「実力不足だ、必要ない、代わりに新しいメンバーを募集する」という理由で追放された。追放なんて世間的に言えばよくあることだが、イメージは悪くなる。「あのパーティーから追放されるなんて、よっぽど悪いことをしたんだ」と周りから言われる。
俺はそれを避けたかった。でも、ありがたいことにバーンズ村に拾ってもらえた。更にありがたいことに、討伐者として俺を雇ってくれた。討伐者として生きていたかったから。なのに、俺は彼らの信用を裏切ってしまった。エボリュードと同じ道を歩んでしまった。
「このままグズグズしてたって何も起きない。それなら一か八か。彼らに会ってみたら?」
そうだな……そうするしかないか。グズグズしてたって、救われるのは俺だけ。この間に、スルトがどこかの村を襲っている可能性だってある。なら、俺が行動を起こしてどうにか対策しないと。
それに、エボリュードの拠点はバルパーにある。バルパーにはルイさんもいるし、久々に顔を出そう……こんな俺が会っていいのか疑問だけど。
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「……開かない」
エボリュードの拠点は、バルパーの端の方に位置するボロい借家。赤いペンキも剥がれており、ただの物置小屋にしか見えない。実際、他のメンバーは物置として使っていたが、俺だけは家として使っていた。理由は、家が無いから。
久々にボロい借家に来たものの、何故か扉が開かない。鍵をかけられているのか、今は昼間だからどこかへ出かけているのかもしれない。ただ、それにしては扉の前にかけてあった「外出中」という看板が無くなっている。
バルパーの役所の人間が、モンスターの討伐の依頼をするために、討伐パーティーの拠点を訪れる時がある。それで、外出していると分かりやすくするために「外出中」という看板を扉の前に立て掛けていた。それが、今は無い。
ということは、中にいるのか。
それにしては……違和感がある、物音が何もしない。中に4人全員がいるのなら、何かしら話し声とか足音とか聞こえてもいいはずなのに。感覚を研ぎ澄ませてみても、何も感じない。
「物件の下見に来たんですか?」
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