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第3話 ゴブリンを素手で?

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 大通りを右でなく左に曲がって、皆とは真逆の方向に向かうと……ゴブリンはまだ見えないが怪我人が這いつくばって逃げているのが見えた。周りにいる人達は皆自分のことに精一杯で、誰も彼女のことを助ける人はいない。黒髪で見た感じ若めの女性だ。これは俺が助けるしかない。


 這って倒れている彼女を起こし、おんぶのまま東に向かって急速力で走り抜けた。さっき殴られた時の傷が痛むが、そんなこと気にしている場合じゃない。まずはこの女性を助けないと。


「貴方も怪我をしているじゃないですか。私を置いて早く逃げて」と耳元で言われるが、この傷はゴブリンのせいでできた物でもないし、俺はモンスターを討伐したいがために討伐パーティーに入ったんじゃない。モンスターによって被害を受ける人達のことを救いたいから、討伐パーティーに入ったんだ。だから彼女のことも救いたい。


「ルイ、ルイはどこだ!」


 大通りを駆けていると、彼女の保護者らしき人が彼女を探していた。彼女も耳元で「お父さんです」と言っている。いつまでも正体不明の男に担がれていては彼女も不安だろう、俺は彼女を彼女の父に預け、またゴブリンのいる方へ戻ろうとした。


「ありがとう、名は何というのか?」と父親に聞かれたが、そんなの答えている時間も惜しいから「早くこの場から逃げてください」とだけ伝えた。


 それで頭の中にはずっと声が響いている。


「早く逃げて」

「このまま進むと死んでしまう」

「ゴブリンは討伐パーティーに任せるんだ」


 だが俺はこの声を無視する。


 というか討伐パーティーに任せていたからこんなことになっているんだ。普通、モンスターは森に生息している。森際でモンスターを討伐していれば、こんな都市部中心までゴブリンが入ってくることは無かったんだ。普段の討伐活動をサボっていたパーティーのせいだ。人のせいにするのなら。


 そう考えていると、目の前にはゴブリンの大群が立っていた。大通りで普段ならここは人でいっぱいなのだが、今は誰もいない。何なら近くの家は燃えており、これを消す人もいない。なるほど、ここにいるのは俺とゴブリンだけか。


 思い切ってここまで来てしまったが、俺には何の武器もない。ゴブリン相手なら対モンスター用の剣と盾と有れば鎧が必要なのだが、ここには無い。近くに武器屋があればそれらを拝借することが可能だが、あいにくその武器屋は今目の前で燃えている。あれだと武器も取れないな。


 前にいるゴブリンは6体ほど、これだけでも普通の人は為す術がないため抵抗することも出来ずにただ逃げ惑うしかない。だからこんな中心部まで来ているのか。普通なら討伐パーティーが通報を受けて駆け付けてくるはずなんだが……一向に来ないな。


 バルパーの管轄は、俺が所属していたエボリュードと何個かの小さなパーティーだ。くっそ、よりによってエボリュードか。ゴブリンを森際で討伐しておけばこんなことにはならなかったのに、過去の俺がもたらした災いでもあるな。


 とりあえず、今はゴブリンを討伐するべき。手元に転がってきた木材を手にして、俺は戦う。家の瓦礫にあった木材、先っぽがちょうど尖っており、体の柔らかいゴブリン相手ならこれだけでも倒せそうだ。逆に対人間用の剣は効かない、モンスターの不思議な効果によるものらしい。


「グギャギャッ」


 奇声を上げながら飛びかかってきたゴブリンの目に対して、鋭い破片を突き刺す。血は出ている、効果はあったようだが、その俊敏な動きは止まらない。仕方なく瓦礫をもう1個拾い、それもまた目の前にいるゴブリンに突き刺す。


 これでやっと1体のゴブリンの動きが止まった。死んだんじゃない、傷を修復しているだけだ。少ししたらまた動き出す。この隙に他の奴も倒しき---がはッ……!


 目の前のゴブリンに気を取られ、後ろから来た別のゴブリンの奇襲に気づくことができなかった。薄汚い棍棒で頭を殴られた俺は立っていることさえできずに、その場に倒れ込んでしまった。


 意識が朦朧とする。


 こんなことになるって分かっていた。


 でもモンスターを誰かが討伐しなきゃいけない。それに他人任せにはできない。


 俺がやらないでどうするんだ。


 ここで……やら


 なきゃ。


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「まさか、あのゴブリンを素手で?」


 いつの間にか俺は気絶していたみたいだ。目を覚ますと周りには大勢の人が俺を囲んでいた。意識が朦朧としていてよく分からないが、周りにはゴブリンの死体が転がっている。木で心臓を刺された物、頭を何度も殴られた形跡のある物など、死体といっても種類は様々。一体誰がやったんだ。


「どうやってゴブリンを素手で倒したんだ」


 目の前にいる老人は、俺に話しかけている。俺が、ゴブリンを素手で倒したのか? そんなことできるはずがない。モンスターを討伐するには専用の剣が必要で、俺は……待てよ。俺は今気づいた、自分の手が緑色の血で染まっていることを。


 これは人間の血ではなくゴブリンの血だ。


 俺は本当にゴブリンをこの手で倒したのか。さっきから言ってるように無茶だ、仮にそんなことができるのなら、とっくのとうにやっている。人間だけでは無力だから専用の剣が開発されたというのに。


「分かりません」と、そう答えるしかなかった。覚えていないんだ、ゴブリンに棍棒で殴られて……起きたらゴブリンの死体が周りに転がっていた。ただ、それだけのこと。


「君は救世主、バルパーを救ってくれた」


 まだ意識が朦朧としている俺に対してそう話しかけてくれたのは、さっき俺が助けた女性の父親であった。足を怪我して這いつくばっていた、ルイという女性の父親で……ここまでは覚えているな。眼鏡をかけた白髪混じりの老人は、俺の前で座り話を続けた。


「私はバーンズ村の村長だ、ところで先程は娘を助けてくれてありがとう。君はどこかで討伐者をやっていたか?」


「昔はやっていました、今は……無職です」


「そうか、なら私の村で討伐者として働かないか?」


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