第29話 ある違和感の臭い
----------
結局のところ、4人だけで討伐できた。
レドルラとシルバの考案した作戦が功を奏したんだ。
シュピースが辺りを徘徊していた理由は今でも不明だが、巨人が体を少しでも動かすのには膨大なエネルギーが必要らしく、1歩動けば16秒はその場で止まっていた。これを発見したのはガイド。
ということで、その隙を狙った。
シュピースが歩いて地面を踏み付けた瞬間に接近して、俺とガイドとシルバで足を切り付けてダメージを与える。加えて、レドルラの投擲武器を頭に当てまくって、バランスを崩させる。倒れたところで、俺とガイドが背中を切って討伐完了……となった。
巨人の口からは白い液体がズバッ……と溢れ出た。これが討伐完了の合図、とても汚いがこの液体を見ると「やりきった」という感情が心の中で溢れる。この瞬間のために俺は存在しているんだ……ともなる。
上級モンスターの巨人を討伐した、ということで巨額の金を受け取った。それにセントラル村の仇を取ったというのもあってか、しばらくはどこへ行っても感謝された。色んなプレゼントも貰った。それくらいに凄いことを成し遂げたんだ。
シュピースが従来の巨人よりも大きくなった理由とか、人間を襲わずにそこら辺を徘徊していた理由とかは今でも分からない。
でも、これだけは言える。
エボリュードは最強で最高の討伐パーティーだ……って。これからどんな困難にも立ち向かっていけるはず。
----------
♢PRESENT DAY(現在)
バーンズ村の近くにある集落に行き、家具や家の壊され方に注目して観察してみた。バーンズ村と集落を襲ったモンスターの大群に、どのモンスターが含まれているのかを調べる必要がある。人間の遺体や傷口からの方が分かりやすいが、致し方ない。
ゴブリンは、ほとんどの確率で汚らしい棍棒を持っている。棍棒は固く、モロに食らえば命を失う可能性もある。だから木でできた柱が壊されていたら、そこにゴブリンがいた証拠になる。ゴブリンは不思議なことに、人間だけでなく人間の暮らす家も破壊しようとするからな。
実際に、目の前の家はボロボロに破壊されているため、ここにゴブリンがいたと推測できる。ゴブリンがいたとなると、スケルトンやオークもいるだろう。種類は違うが、奴らは固まって動くこともある。「人間を襲うため」という同じ目標なら、種族を超えて行動することもある……不思議な生物だ。
「井戸のレンガに血がついている。これは刺殺されたようだね」と、ハルが医者の経験を活かして分析してくれる。
刺して殺すタイプなら、体を武器の形状に変化させられるスケルトンか。剣を持つモンスターは他にもいるが、血の飛び散った範囲から見るにスケルトンと考えるのが妥当だろう。
また、地形から考えることもできる。
バーンズ村の近くには森があり、そこにはゴブリンやオークがよく湧く。ゴブリンの王を討伐したばかりだが、王の補佐的な立場にいるモンスター・ゴルゴンが生き残っていたと仮定しよう。ゴルゴンなんて滅多に見ないが。
北の方には海があるし、潮風の影響もあって海にモンスターは近付かない。生態が不思議な生物だ、だから海に生息するモンスターは限られている。といっても奴らは深海に生息するから、人間に害は無い。
海に近付けないモンスターは、人を求めて南下してくる。それで、南にあるのはバーンズ村。オークの足跡が残されており、それは森の方面へ伸びていることが判明した。しかも複数個存在する、大量のオークがここにいたとなると……大量のゴブリンとスケルトンもいたことになる。
あくまでも経験上の話だが、オーク単体で人を襲うことは少ない。不思議なことに、奇妙にも賢いモンスターなのだ。ゴブリンやスケルトンが単体の種族で襲ってくることはあるけども。大量にオークがいたとなれば、それに比例して大量のゴブリンやスケルトンがいたと推測するのが妥当なところ。
しかし、バーンズ村と集落だけしか被害が出ていないというのは奇妙だ。もしも大量のモンスターが村を襲い、そこにいた人間を全員殺したとしよう。すると勝利を覚えたモンスターは、次の獲物を探しに行く。だから普通なら、他の村も襲われているはず。でも、そういった報告がまだない。
もしかして、前に見た巨人のような、特殊なタイプのモンスターか。通常の巨人は15mくらいの大きさなのに、奴は30mくらいの大きさだった。しかも、とある村を壊滅させた後、他の村を探すことなくその場を徘徊していた。だから簡単に倒すことができたけども……今回もそれか?
いや、1体だけが異常な生態を持つのなら分かるけど、バーンズ村を襲った複数のモンスター全員が異常な生態を持つことなんて有り得るのか。そんな偶然……有り得るのか。たまたまバーンズ村を襲ったモンスターが異常なのか、それとも、異常だったからバーンズ村を襲ったのか。
「……妙な違和感がある。俺に体を渡してくれ」
変な提案をしてきたのは、マルチ・パーソンズ・ディメンションの中で待機しているジャッカル。彼のことだ、約束を破って逃げ出して暗殺を続行する気だ……と思ったが、それにしては真剣な眼差しをしていた。
それに圧倒された俺は、体の制御権をジャッカルに渡すことにした。もし裏切られても、今は味方がいる。体を奪い返すことだって可能だろう。その気になれば。
「……そんな裏切る行為は今はしない。それより、ある違和感の臭いがしてた。西側の森からだ、感覚が俺を呼んでいる」
そう言って、彼は西側の森に向かって走り出した。
----------




