第26話 誰のせい?
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彼女に連れられて、隣の集落に来た。ここはバーンズ村と仲が良く、バーンズ村がゴブリンに襲われた時は避難場所として受け入れてくれた。なのに……ここまでボロボロになっているとは。
そこまで大きい集落ではなかったが、人はたくさんいた。そのほとんどが老人だったが、それなりに栄えてはいた。なのに、その栄えていた集落は壊滅していた。家もボロボロ、ガラスは割れており木の破片が散らばっている。ところどころに、人間の血で染まった跡が見られる。これも全て……想像したくない。
「貴方は私を置いてどこかへ行きました。対応が変だったから、すぐに捜索願を出そうとしました。でも都市に届け出を出すのには時間がかかる。だから私がガーディアに届け、他のみんなで貴方を探す、こうやって手分けしてました」
この場所、覚えている。足を怪我したフロルさんが、ここに座って暖を取っていた。ちょうど焦げている跡もあるし、ここにいたのは間違いない。それと……赤い血痕らしき物も見える。もしかして、もしかしなくてもこれが……フロルさんの血か?
「ガーディアの人達は簡単に取り合ってくれませんでした。でも……そこにおじいちゃん……重症の村長が運びこまれてきて……バーンズ村と集落が、モンスターの大群に襲われたって……」
井戸の中の水を見てみると、赤く染まっていた。井戸のレンガにも血痕があるし、ここで誰かが殺されてしまったんだろう。それにしてもモンスターの大群って何なんだ。特定のモンスターが大群を率いて村を襲うなんて、そんなの聞いたことがない。
「ガーディアの漁師がたまたま通りかかって、おじいちゃんを助けてくれたんですよ。おじいちゃんも胸に大傷を負っていて、あれが最期の言葉でした。私にこっそり伝えてくれたんですよ……『村に縛られる必要はない』って」
村長は最期の言葉を彼女に告げて、そのまま亡くなったらしい。長年討伐者のパーティーをやっていたから分かるが、この襲われ方は普通じゃない。前にバーンズ村にゴブリンが襲ってきた時、俺は王ごと討伐した。普通なら他モンスターもそれに怯えて『この村を襲ってはいけない』と認識するはず。なのに、来た。
「ガーディアの雇う討伐者と共に村に戻ってきましたが、モンスターは既にどこかへ行っていました。あったのは、集落と村の方々の遺体のみ。これで分かりましたよね? 貴方は村を拒絶し、村は貴方を拒絶した。貴方がいれば、惨事は防げたのに」
……言葉が出ない。
「……私の家族はこれで、誰もいなくなりました。お父さんもお母さんも、血は繋がっていないけど、おばあちゃんも。あの村の人たちみんなが家族だったのに……全員亡くなりました。誰を責めても、みんな戻ってこないって分かりきっているのに」
彼女は大粒の涙を流しながら、その場にうずくまった。そうだよ、彼女は家族を失った。俺も気持ちは分かる。あの喪失感と苦しみは……計り知れないものだってことを。
と、ここでガラスの破片に映ったハルがあることを提案した。
「1回、4人で話し合おう。ルイさんとじゃなくて。ボクとネオルと君とジャッカルで」
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ルイさんはしばらく、バルパーで体を休めることになった。村長や何人かの村人は保険というものに加入しており、自身が亡くなった段階で家族に金が入るようになっていた。しかし、肝心の家族は出稼ぎに行っていてここにはいない。だからほとんどの金がルイさんに入るようになっていた。
彼女はその金を使わずにバーンズ村に留まろうとしたが、それはハルが止めた。彼は彼女に「一旦、ここから離れて体を休めて」と提案した。家が壊されていて無いというのもあるが、そもそも彼女もまた精神的に安定していなかった。また、バーンズ村の近くにモンスターが潜んでいる可能性もある。
ということで、ここにいるのは俺だけ。明確に言えば4人だけ。
バーンズ村の村長の家、机も本棚も何もかも破壊されているが、話す場には充分だ。俺の前に3つのグラスを置き、それを反射させることで、4人での正式な対話が可能になる。
「それで……お前らは何がしたい?」
1番最初に口を開いたのは、ジャッカルであった。彼はマルチ・パーソンズ・ディメンションの中で眠らされており、地下都市から逃げたと思って気付いたらここにいる状況。何が起きたか、彼だけが何も理解できていない。仕方ないから……と、ネオルが全てを彼に説明した。
「会議。今後の人生について考える。ジャッカルのような野蛮に欲望の言いなりになって生きていたら、みんなに迷惑がかかるから」
「これは俺の体だ。誰が生み出したとか関係ない、ジャッカルという名前の男が主、俺がこの体の主だ!」
「誰かに依頼されて暗殺してる人がよく言うよ」
「何度でも言ってやる。エルドが勝手に病んで生み出した、エルドは人生に疲れている。だから俺がこの体を動かして、暗殺を遂行させてやる」
……別に、俺は人生なんかに疲れているつもりはない。それにジャッカルに操られたまま他の人を暗殺しに行くなんてごめんだ。どうにかこの、狂った暗殺者を止める方法はないのか。
「自分勝手に行動すると最悪な事態を引き起こす。だからこそ、やるべき事を絞らなきゃならない……少なくとも犯罪行為は認めたくないけど」
リーダーシップを発揮して、会話をまとめてくれるのはハル。全部俺が引き起こした事態なのに、彼がリーダーとなって話を整理してくれている。本来なら俺がすべきことなのにな。
「暗殺も犯罪なら、医療免許なしに医者活動するのも犯罪だろ。俺のこと言えねぇぞ」
こうやって口を挟んでくるのはジャッカル。多種多様、十人十色とは言えども……複雑な気持ちだ。
「そうだね。ボクも犯罪者だ。これからはしない、それに患者は全員殺されたし……二度とできない。君が人を殺さないというのなら」
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