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第22話 開戦

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「抵抗を確認、撃て!」


 奴らは逃げ回るジャッカルに向かって、何発もの弾を撃ち始めた。ドン……ドン……と、何回も轟音が立ち上がる中でもジャッカルは逃げ続ける。弾に当たれば負けだ、死んで全てが終わる。俺の人生もハルのもネオルのも、ジャッカルのも。


 周辺の患者は全て治安兵士によって撃ち殺された。だから、彼らを巻き込むことはない。ここら辺を変に動き回って逃げても、新たな犠牲者が出ることはない。だからこそ、この場所はジャッカルにとっては好都合だ。暗殺者の彼は、容赦しないから。


「早く殺せ!」


 ジャッカルは周りの機器を倒しながら逃げる。全てここの患者を治療するためのものだろうが……当分は使うこともないだろう。彼は錆びれた治療箱を開け、中に入っていた注射器を取り出して、それを近くにいる奴の腕に突き刺した。もちろん、これくらいでは相手は気絶しない。だが、彼が刺したまま動き回ることによって、奴は気絶した。


「戸惑うな、早く!」


 彼は気絶した男の鉄砲を無理やり取り、それをまた近くにいた男の顔に向かって投げ付けた。一応は鉄の塊だ、ただでは済まない。鉄砲をぶつけられた男は悶え苦しんでいた。そいつのポケットから何発かの弾を奪い取ったところで、ネオルが新たな指示を出した。


「次はエルド、遠距離戦闘をお願い」


 彼の言葉を受け、ジャッカルと交代した。抵抗しなければこんなにも簡単に人格の移動ができるなんて……もう少し苦痛が伴うと思っていた。お互いに受け入れたからか。でも、ここからは痛覚といった感覚も直で味わうことになる。さっきまでは真っ白な空間の中で見ていただけだが、ここからは違う。実際に奴らを前にして戦うんだ。


 さっき撃たれた時の右手首の傷は、当たり前だが治っていない。そのせいで、少し右手を動かすだけでも痛みが直に脳に伝わってくる。この感覚、今まではこれが普通だったのに……慣れないな。


 周りにいる人達の鼓動音から、人数を把握する。鉄砲を構えて迫ってきている奴らが11人、別の階層で待ち伏せしている奴らが8人、奥の方で鉄砲を装填している奴らが5人か。気絶しているのは2人だけだが、その2人が戦闘に参加する可能性は少ないな。


 カチャン……


 この音は、鉄砲のトリガーに手を掛けた時の音だ。トリガーを引けば弾が発射されて俺は死ぬ。どんなに俊敏に動けたとしても、弾より早く動くことはできない。発射を阻止するには、鉄砲の弾が出る部分を破壊して暴発させる必要がある。


 ちょうど手の中には、さっきジャッカルが男から奪い取った鉄砲の弾がある。大きさはスポーツに使うボールくらい……手の平には収まるけど、思ったよりも大きいな。これを投げて、鉄砲の発射口に命中させれば鉄砲は暴発する。また奴らの顔面に当てても気絶に追い込める。


 でも、そこら辺は自分の可能性に賭けてみよう。


「死ねぇ!」


 近くにいた2人の男が、弾を発射しようとトリガーを引いたその瞬間、俺は手に持っていた弾を思いっ切り、奴らの持つ鉄砲の発射口に向かって投げ付けた。自分の手よりも小さい的に当てるのは一苦労だが、それらも全て頭の中で計算した。どの角度が1番いいか、瞬時に無意識に考えた。


「なっ」


 奴らの鉄砲の発射口は、俺の投げた弾によってせき止められている状態にある。その状態で新たな弾を発射しようとしたらどうなるか。答えは簡単、暴発する。弾に込められたエネルギーが発散できずに、鉄砲の外へ溢れ出そうとするから。


 ドンッ……!


 鉄砲を撃った時の激しい音と衝撃波と共に、周辺にいた男達は強く吹き飛ばされた。弾に込められたエネルギーは恐ろしく、発射しようとした2人だけでなく、近くにいた5人ほどの兵士を巻き込んで爆発した。もちろんこれだけじゃ死なない、卑怯なことに鎧を着ているから。でも、あまりの衝撃波に脳を揺さぶられて気絶したはず。どちらにせよ、作戦は成功だ。


「次はジャッカルに、近接戦闘で敵を翻弄して」


 ネオルの声と同時に、俺はジャッカルに体の制御権を渡した。ここからはジャッカルのターンだ。右手首に感じていた激しい痛みも、人格の変更と共に一気に消滅した。不思議な感覚だ、慣れることはなさそうだ。さっきまで自分が動かしていた体を、別の人が動かしているなんて。


「本当なら殺してやりたいが……見逃してやる」


 ジャッカルは小声で呟きながら、落ちていた鉄砲を拾って弾を抜いた。鉄砲は金属の塊、これを武器にするのか。ジャッカルは腕力で鉄砲を割り、中の部品を取って持ちやすい形に変化させた。それは……とてもヌンチャクに似ている。ヌンチャクというのは、2本の棒に鎖を括り付けて扱う武器。


 2本の鉄の棒を手に入れたジャッカルは、銃を持つ兵士に単独で立ち向かっていった。さっきの暴発の音を聞き付けて別の階から兵士が駆け付けてきたため、ジャッカルの目の前には11人の兵士がいる。武器は鉄の棒だけ、でも能力がある。


「ジャッカル、トリガーを逆流させれば弾は発射されない」


 ここで、ネオルがジャッカルにアドバイスをした。ネオルは鏡の中の真っ白な世界からずっと敵の様子を観察している。自分が外に出ることはなく、司令塔として冷静に指示しているのみ。そんなネオルは、鉄砲の仕組みを誰よりも早く理解していたみたい。


「……だろうな」


 ジャッカルは鉄の棒を両手で握り締めたまま、鉄砲を構えた兵士に向かって駆け出した。狙いはもちろん、鉄砲の無力化だ。


「こっちに来るな、化け物!」


 ジャッカルは、慌てふためく兵士の持つ鉄砲のトリガーを腕力で叩き割り、中から弾を抜き出してそれを別の兵士の頭にぶつけた。鉄の塊をモロに食らった兵士はその場でバタン……と倒れてしまった。死んではない様子。一応呼吸している。


「何しやがる!」


 別の兵士は弾を装填して発射しようとしたが、ジャッカルの拳を食らい、呆気なく倒れた。それを見た別の兵士も同じように弾を装填しようと準備していたが、鉄の棒を顔面に食らって、奴もまた呆気なく倒れてしまった。


「こっちに来いよ……楽しもうぜ」


 この場の空気は、ジャッカルが完全に支配している。暗殺者は本来なら影に隠れて、ひっそりと目標を殺すのが目的とされている。でも、今のジャッカルは違う。表立って人を倒すのに快楽を覚えている。鉄の棒を人の顔面に食らわせる度に、顔に笑みが浮かんでいるから。


「化け物め」


「見ず知らずの人の命を巻き添えにするお前らの方が化け物だ。やっぱり生かしておけないが、約束は守ると決めた」


「黙れェ」


 ガンッ……


「何ッ」


 ゴトン……


 装填された鉄砲を持っていた男は、後ろからの奇襲に気付けずにそのまま倒れてしまった。足を鉄の棒で叩かれ、振り向いた時にはもう遅く、顔面を拳で殴られてしまったのだ。


 地下都市は暗く、照明を兵士が破壊していたためもっと見えにくくなっている。でも失敗だったな、ジャッカルの感覚はとてつもなく研ぎ澄まされている。真っ暗な空間の中で強いのは鉄砲を持っている兵士じゃない、超感覚を持っている俺たちだ。


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