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第20話 ストレス

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 マクロから白衣を貰ったハル、と呼ばれていた男は狭い路地を抜けながらも俺たちに向かって説明してきた。腕を撃たれていて痛いはずなのに、とても柔らかい口調で。


「ボクの名前はハル、地下都市で闇医者をやっている。ここに住む人はみんな、治安兵士によって仕事を奪われてきた人たちなんだ。だから少しでも助けになりたくて、ここでみんなの怪我を治している」


 真っ白な世界で、横にいるネオルとジャッカルに「このハルという人物を認識していたか?」と聞いてみたが、2人とも首を横に振っていた。2人とも知らない人格がまだ居たのかよ。やっぱりネオルの考えは当たっていた。


 というか、俺は……何をしたらこんなに人格を生み出したりできるんだよ。前の人生で何か悪いことでもしたのかよ。これが終わったら早めに病院に行った方が良さそうだ。そしてネオルもハルもジャッカルも含め、皆を封印しておきたい。


「キミたちには認識されないように生きてきたつもりだ。自分だけの人生を生きたい、だから念入りに考えて行動してきた」


 彼の言うことは正しそう。というか、ネオルもジャッカルも俺も、闇医者をやっているハルの人格自体知らなかった。


「全ての元がエルドなのは分かっている。でも、エルドは何で人格を大量に生み出したか分かってないだろう?」


 彼は布で撃たれた傷を縛りつつ、ある家に駆け込んだ。家といっても誰かが暮らしている訳でもなくて、商店らしい建物。しかもあまり栄えていない、飾り付けも適当で客も全然いない。それどころか物も売っていないように見える。


 しかし、彼は商店の奥に進んでいく。マクロと共に、負傷した腕を押さえながら。


 少し行くと、そこには大量の人が寝転んでいた。寝ているというよりは、皆負傷しているように見える。腕を欠損した者や、胸を刺されて血が溢れている者まで。中には腸が飛び出している者もいる。とても表現しようにない激臭が、この空間を覆っている。もしかして……ここが?


「ボクが診ている患者達だ。浮浪者が多い、金がないと病院にそもそも入れないからね」


 彼は自分の腕の傷を、新しい綺麗な布で覆った。痛覚を感じているのはハルのみ、俺たちは何も感じない。どんなに走っても息切れなんてしないし、人を殴った時の痛覚も特に感じない。感じるのは、外の世界の体を動かしている本人のみ。真っ白な世界にいる人たちは何の関係もない。


「この世界は複雑で混沌としている。だから1人くらいは誰かしら、表立って善良な行動をする人が必要なんだ。その役割がたまたまボクだった。だから要は偽善者だ」


 結局、こんな良い人も俺から生み出された人格。空虚なる存在で、俺が常人に戻れば消える存在。一体、何がどうなったら俺からこんな素晴らしい人が生まれるんだ。遺伝子とかそういうのは関係ないはず。その割にはジャッカルとかいう、狂人も生まれてるんだもんな。


「まだ研究が成されている最中だから判明していないけど、君の幼少期に何かがあったんだ。そこで心の傷を負って……僕たちが生まれた。君のストレスのはけ口として」


 幼少期、俺の暮らしている村にスルトという上級モンスターが出現し、両親は奴に殺された。スルトは炎の巨人で、炎を纏った奴は2人を俺の目の前で焼き殺した。残酷すぎて見てられなかった。でも見てるしかなかった、もう逃げる道は閉ざされていたから。


 どうにかして助かったけど、負った心の傷が癒されることは無かった。それは今になって知ったこと。今まで見ないふりをしていたんだ。モンスターを討伐して絶滅させたいとかいう変な欲を持つ割に、その根本的な問題を意識していなかったようにも思える。


「とにかく、問題を解決するには時間が足りない。すべきなのは、ここから逃げることだ。今にも治安兵士が武器を持ってやってくる……2人殺された」


 ハルは深刻な表情をしたまま、自身に巻いていた布を切って別の患者に与えた後、テーブルの裏に隠されてあったナイフを取り出して別の入口に向かおうとしていた。彼の言った『2人殺された』ってのは何なんだ。


「この体は奇妙なことに、特殊な能力が豊富でね。身体能力やあらゆる感覚が強化されている。普通の人間の比じゃない。神が与えてくださった万物なのかは知らないけどね」


 そういえば、この能力は誰が手に入れたものなんだ。普通に生きていたら絶対に手に入らない物ばかりだ。やけに詳しかったネオルか、それとも暗殺者のジャッカルか。これに限れば、俺が手に入れたものじゃない。


「真上の地下水路で、罪のない人がまた3人、治安兵士によって殺された。研ぎ澄まされた感覚がそれらを教えてくれる……出口はこっち」


 ハルの職業は闇医者だ、闇といえども人を救う職業。それなのに近くで人が殺されている。それを救うこともできない。彼からしたら歯痒いだろうな。


「誰だか知らねぇけど、早く俺に体を渡せ」と、脳内にいるジャッカルはハルに向かって叫んだ。俺とネオルしかいない真っ白な空間の中で、ジャッカルは必死にもがいている。


「君のせいでボクが追われている、君のせいでボクの仲間が殺されたんだ」


「これ以上殺されないようにするためにも、俺の力が必要なはずだが?」


「もう誰も殺させないでくれ。これは君だけの体じゃない。ボク含めた4人の体だ、暗殺者だろうともボクら3人を巻き込むな!」


 ドンッ……!


 謎の破裂音と共に、近くで壁にもたれていた患者の胸から大量の血が溢れ出た。心臓には大きな穴がポッカリと空いている。剣とか槍じゃこんな派手な音で胸を貫くことはできない。もしや、これをやったのは……?


「治安兵士に楯突くと、どうなるか分かるよな?」


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