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第19話 新たな人格

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「しかし派手に殺しすぎだ。すぐに治安兵士の奴らに追われる。だから地下都市に逃げる」と言うと、彼はまたワイヤーを巧みに使って地上に降りて、そのまま全速力で走り始めた。


 鏡の中の世界、活動していない人格がいる真っ白な世界に飛ばされた俺は真っ先にネオルに責められた。


「何でジャッカルに加担した?」と。いつもは優しい声で大人しめの口調だが今は違う。鬼のような剣幕で厳しめの口調、怒鳴り声に近い声だ。


「いや、俺は気を失っていたんだ」


「だったら誰にラトラは殺された?」


「知らない。ネオルか?」


「僕が殺して何の得になる? 得になるのはジャッカル本人だけだ」


 何を言われても俺は言い返せる。俺は本当に殺していないから。でもネオルが殺したようには見えない。だってネオルが殺したとしても得が無いから。で、ジャッカルが殺したにしては言動がおかしかった。


 ここで、ネオルがある仮説を考えた。




「もしかしたら、エルド・ネオル・ジャッカル以外にも人格が存在するのかも」




 主な人格であるエルド、家族も持っていたが逃げ出した優しい性格のネオル、何者かに依頼された暗殺をこなし続けるジャッカル。それ以外にも人格がいる可能性があるのか? 何度も何度も言うが、俺は病んだ記憶がない。人格を作り上げる必要性も特にない。


「君は『幸せな家庭を持ちたい』と願って僕を作り、何らかの暴力的な思考を持って『暗殺者のジャッカル』を作り上げた。まだ他にいてもおかしくない」


 もう何が何だか分からないが、もし他の人格がいるとして、何でこの真っ白な空間には俺とネオルしかいないんだ。ジャッカルは今、ツェッペリンの街並みを全速力で駆け抜けている。どうやら地下都市に行きたいみたいだが。てか、地下都市って何だ?


「ツェッペリンの地下にある街だ。今では封じられているが、それでも無職の人々が暮らしている」と、間髪入れずにジャッカルが説明してくれた。


 何だそれ。また聞いたことのないものだ。これは学校でも習っていない気がする。ツェッペリンの地下に都市が存在していたってこと自体知らないんだから。


「治安兵士に無理やり仕事を奪われた人々が多く暮らしている。そこに紛れ込めれば、アイツらから逃げることだってできるはずだ」


 とは言っても、今では封じられているんだろ。そんな地下都市にジャッカルはどうやって入るつもりなんだろう。今は黒いローブを着たまま、栄えているツェッペリンの街並みを駆け抜けている。治安兵士のメンバーは大量にいると聞いたから、このままではすぐに捕まってしまうぞ。


「俺は暗殺者、逃走ルートはある程度把握している」


 そう言うと、彼は井戸の方へ向かった。井戸、地下にある水を汲むために使われている道具。そこから地下に行くつもりなのか。しかしそこには水がある。地下都市に入る前に溺れてしまうだろ。


「お前と違って、俺は用意周到だ」


 彼は腰に隠していた丸い弾らしき物に衝撃を与え、それを井戸の中に落とした。するとそこから10秒も経たないうちに爆発音が聞こえた。少しするともくもくと黒い煙も立ち上がる。彼は何をしたんだ。


「爆弾だ、衝撃を与えれば爆発する。これを使って地下に大穴を開けただけだ。ストーズが開発したみたいでな、過去のミッションの時に奪ってきた」


 彼はワイヤーを取り出して、水のない井戸の中の方へゆっくりと降りていった。そうだ、彼は暗殺者だ。だから過去にも何件かの暗殺をやってきているんだろう。それにしても爆弾か、これは恐ろしいな。ストーズって国も同様に。


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 地下都市と呼ばれる場所は薄暗く、人口が密集していた。元々は栄えていたのだろう、酒屋や武器屋らしき建物がたくさん並んでいる。しかし酒を買う者も武器を買う者もいないため、そういった建物は廃れており、苔がびっしりと生えている。


 そういえば、地下にモンスターって出没するのか?


 モンスターは基本的には森で生まれる、森を住処にしているから。そこで生まれて、人間を襲うために街や村に行く。だがここは地下都市だ、どんなに暗くても苔がびっしりと生えていようとも森じゃないから、モンスターは出没しないのかも。もし出没していたら、ここには暮らせないもんな。


 ジャッカルは1回ここに来たことがあるのか、人混みをかき分けながらもスイスイと進んでいく。黒いローブはとっくのとうに脱ぎ捨て、仮面も地下都市の中を流れている川にポイッと捨てていた。時には屋根の上を伝って、時には家の中を通って、治安兵士の奴らから逃げるように駆け回る。


 しかし右手首を怪我しているせいか、あまり速くはない。さっき俺が撃たれたしまったせいだ、早くこの傷を治療しないと出血し過ぎて動けなくなってしまう。でもここは地下都市、医者がいるかどうかなんて分からない。


 と、ここである男に話しかけられた。


「ハルさん……ハルさんですよね? 帰ってきましたか!」


 話しかけられたジャッカルも、中にいる俺もネオルも心当たりがない。ハル……って一体誰なんだ。人違いじゃないのか、ジャッカルはその話しかけてきた男から逃げようとしていたが、突然体の動きが止まった。


「久しぶり。マクロ」


 ジャッカルは優しい笑みを浮かべながら、そう答えていた。いつもは厳しい表情をしていて感情が読み取れない彼だが、今の彼は違う。朗らかに、丁寧な口調でマクロという男に話しかけている。


 そう思ったが……違った様子。


 何と真っ白な世界の方にもジャッカルが来ていた。人を睨みつけるような目をして、上から目線で物を言うような口調、やっぱりジャッカルだ。鏡の中の世界にはジャッカルと俺とネオル。じゃあ外で俺の体を動かしているのは、一体誰なんだ。


「マクロ、ボクは今追われているみたいなんだ。それに腕を撃たれている。これを手当できる場所に案内してほしい」


 もしかして、さっきネオルが考えていた通り……もう1人の人格がいるんじゃないか。それも、ハルという名前で。


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