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第15話 体を寄越せ

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 村長の家のベッドで、俺は目を覚ました。いつの間にか寝てたみたい。結構ぐっすり寝ていたのか頭が痛いな。多少、手足の痺れもあるし。それとも、悪夢を見たからか。前みたいに、バルパーの王の城を襲う夢を。


 あれが、現実な訳がない。


 顔を洗うために洗面所に行くと、鏡には俺が映っていた。当たり前のことだが、当たり前じゃない。何だって俺とポーズが違うから。目の前に立っているのはネオル、俺とは違う人間だ。顔も声も同じだけど。


「俺はネオルじゃない」


 鏡の中にいる俺は、強く厳しい口調で俺にそう告げてきた。今の目の前にいる男とネオルでは口調が違う、ネオルはもう少し大人しめで優しい声だった。それが目の前にいる男は厳しく強く、目つきも恐ろしい。そいつが鏡の前に立っている俺のことをじっと睨んできている。


「エルド、体を寄越せ」


 体を寄越せ? こいつは何を言っているんだ。というか、ネオルはどこに行ったんだよ。目の前にいる目つきの悪い男はネオルなんかじゃない。全く見た事もない、知らない男だ。顔と声は俺だけど。


「治安兵士のリーダーを殺し損ねた。そいつを殺しに行く。治安兵士のリーダーを殺す。それだけだ。邪悪な集団のリーダーを」


 目の前に立っている俺は衝撃的な発言を繰り返し始めた。どうなっているんだよ、ネオルはどこだ。それに目の前にいる奴は……殺人鬼か何かなのか。明らかに目つきがおかしい、こいつは人を殺したことがありそうな目をしている。


「俺が人を殺した? そうだ。お前もだ」


 もう何が何だが分からなくなって理解が追いつかなくなってきた時、ネオルが現れた。鏡の向こう側の世界で、目つきの悪い男の隣に立っている弱々しい男……ネオルだ。鏡の前に立っているのは俺だけだが、鏡の向こうには2人の男が立っている。


「エルド、君に伝えなきゃいけないことがある。もう少し早く言うべきだったかもしれないけど、何せ君は迷っていた。そんな君に対して、事実を伝えることなんてできない」


 そう真実を告げるのを躊躇っているネオルの横で、目つきの悪い男は真実について知っているのか口を開いた。




「エルド、お前は多重人格者だ。お前が病んだことにより、俺たちは生まれた」




 目つきの悪い男の衝撃的な発言に、俺は戸惑いを隠せなかった。大声で「は?」という声を出してしまう程には動揺していた。病んだ……そんなことあったか。ネオルの声が聞こえ始めたのは、パーティーを追放されてから。無意識にゴブリンを討伐していたのも、追放されてからの出来事。


 でも俺は、追放されたからと言ってそこまで病んでいない。少なくとも、前向きに進もうとした。前向きに職業を探そうとしてバルパーの街並みを歩いた。本当に病んでいたら、街でゴブリンが暴れていても助けられないはず。


「いいや、病んでいる。お前が無意識に病んでいるからこそ俺らは生まれた。追放される前からお前は病んでいたんだよ」


 パーティーから追放される前、苦しいことばかりだったしずっと悩んでいた。どんなに努力しても追いつかない。これじゃ夢も叶えられない、なんて何回自分を責めたことか。今思えば無理しているようにも見えるけど。でも、前向きに進んだ。


「俺は暗殺者、治安兵士のリーダーとストーズの王を暗殺するように命令されている」


 俺は顔を洗うために上半身裸で鏡の前にいるのだが、あまりにも衝撃的すぎて未だに水も出せずにいる。が、鏡の前にいる暗殺者とやらは平気でも水遊びをしている。不気味な笑みを浮かべながらバシャバシャと水をこっちにかけてくる。鏡越しだから実際には水は来ないのだが。


「俺の名前はグラック・ジャッカル、治安兵士のリーダーとストーズの王を暗殺するように依頼された。止めたいならご自由に、だがお前らの命ではなくお前らの大切な人の命がどうなるか分かるよな?」


 ジャッカルがそう言い終えた瞬間、俺は力を失ったかのように倒れそうになった。力を入れられない、手にも足にも。もう耐えられない。そう思っていたが、何故か俺は倒れなかった。確実に力は入っていないはずなのに。


 と思っていると、鏡の向こうの俺は服を着替え始めた。ここで確信した、力が入らないんじゃない。奴に体の制御を奪われたんだ。もう何も出来ない。鏡の前で色々な行動を取っても、現実世界に何ら影響はない。それで俺の隣にはか弱そうな青年が立っていた。顔と声は俺そっくりだが目つきが柔らかい。


 横に立っている、彼がネオルなんだ。


「二度と俺の邪魔をするな」


 服を着た俺、正確には暗殺者の人格の彼はそのまま洗面所のある部屋から出ていった。鏡の世界のにいる俺とネオルは何の抵抗もできない。ただ鏡やガラスのような反射できる物の前で、暗殺者の彼を観察することしか。ネオルもこういう感じだったんだな。


「エルドさん!」


 ちょうど悪いタイミングで、家の中にルイさんが入ってきた。ここは村長とかルイさんの家だが、ほぼ俺が貸し切っている。代わりに彼女らは他の家を修理しつつそこに暮らしているとか。ゴブリン襲来前も後もそれは変わらない。


「話し合いましょう。"昨日の夜は".......ちょっと意外でした……」


 昨日の夜って……何をしたんだ。黒ずくめの服を着ていて、目が覚めたらこの家にいた。昨日の夜に何をしていたとか、そもそも記憶が存在しない。もしかして、アイツが彼女になんかしたのか。


 暗殺者の彼は笑顔で出迎えてくれたルイさんを押し倒し、悪い笑みを浮かべながらそのままどこかへ立ち去って行った。押し倒しされたルイさんは何が起こったかのか理解できなかったようで、固まって少し経ってから涙を流していた。


 昨日の夜、ルイさんに何をしたんだ。

 さすが暗殺者、気が荒い。


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