第5話 「出会いと別れ」
「実はニーナに相談したいことがあるんだけど...」
「モグ..モグ..わたしに?」
俺たちは今宿で朝食をとっていた。
『鬼灯亭』は宿のランク的にいうとそこそこといった感じだった。
朝ごはんには『武士の国』の主食であるお米と焼き魚、様々な具材を煮込みそこに味噌を溶いた味噌汁が出てきた。
俺は家ではよくお米を食べたが、味噌汁を飲むのは初めてだった。
濃い味がお米とよく合いとても美味しい。
ニーナはお米も初めてだったらしく新しい味や食感に驚きながらも美味しく食べているところだ。
「デリスがわたしに頼みごとなんて珍しいな。まあ旅のお礼分くらいなら聞いてやってもいいぞ」
「これは俺が『武士の国』に来たこととも関係してるんだけど、俺は今仲間を集めてるんだ、一緒に戦ってくれる」
「戦うって何と?」
当然の疑問だ。
でもここで何と戦うかを言っても信じてもらえないだろう。
だから心苦しいがニーナには嘘をつかせてもらおう。
「俺の親の仇と」
あ、やばい完全に失敗した。
急に親の仇討ちに力を貸してくれなんて言い出す変人どこにいるんだよ。
我ながら酷い嘘だ。
「うーん、親の仇ねえ」
あ、あれ!
もしかしてニーナさん信じちゃってる!?
「これから忙しくなるんだよな。
悪いけど助けられないな」
ああやっぱりダメだったか。
しかもあの天然なニーナに気を遣わせてしまっている。
ここは大人しく引きさがろう。
「そ、そうか無茶なお願いして悪かった な...」
「気にすんなよ。
こっちこそデリスにはよくしてもらったし、何かしてあげたいんだがな」
そんなこんなでニーナを仲間に加える計画は失敗に終わった。
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「ニーナはこれからどうするんだ?」
「わたしはこれから人を探すよ。
ほら初めて会った時言ったろ?」
「そういえばそうだったな。
じゃあここでお別れか」
「そうだな。
2ヶ月ありがとなデリス。
本当に助かったよ」
「それはこっちも同じだよ。
旅の間ニーナがいてくれて心強かったよ。
またどこかでな!」
「いやお前と会うことはもう二度とないかも な...」
そこで少しニーナの笑顔に影が刺したような気がした。
「それってどういう...」
「いやなんでもない。
忘れてくれ。
そんなことより元気でなデリス」
そう言うとニーナは行ってしまった。
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ニーナと別れてから数時間経った。
これからの事について考えなければいけないのにどうも集中出来ない。
俺は自分が思っているよりもニーナの事を苦に行っていたのかもしれない。
少し街を歩いてみるか、思えばせっかく『武士の国』に来たのに全然外に出ていないな。
「へぇー綺麗な街だなあ」
『武士の国』は独特な街並みをしていた。
宿で貰った『武士の国』の簡単な地図を見てみると、どうやら『武士の国』は碁盤目状になっているらしい。
その影響か街には整然としている印象を受ける。
道の脇には葉を紅く染めた木が植えられていて、風が吹くと葉を揺らしながら何枚か舞い落ちる。
人工的な中に自然を感じられる風景はどこか幻想的だ。
周りの民家と思しき建物は、木で作られていて周りの風景と非常に合っている。
でも火事とかは大丈夫なんだろうか。
少し道の幅が狭いところに入ると声が聞こえてきた。
道を進むと少し開けたところに出た。
そこでは五人くらいの少年達(全員8歳位かな?)が一人の少年を取り囲んでいた。
いじめか?全くどこの国にもこういうのはあるんだな。
止めに入るか。
「お前ら何してんだ」
と言うと少年達の中で一番図体のデカい奴が
「あんたには関係ないだろ」
と言った。
「確かに関係はないかもしれんが、お前ら達がしている内容によっちゃ見過ごせないな」
「チッ!行こうぜお前ら」
あいつがボスか。
ボス(らしき奴)はさっさと仲間たちを連れてどっかに行ってしまった。
まあ何も言わないってことは後ろめたいことがあったって事だな。
取り囲まれていた少年はいじめっ子が去った事に安堵してか安心した表情でこっちを見ていた。
「大丈夫か?」
「うん。助けてくれてありがとう」
「気にすんな。困ったら誰でもいいから相談するんだぞ」
「わかった!」
少年は頭を下げるとどこかに走っていった。
「強いのだな」
どこからか声が聞こえてきた。
声の方向を見てみると美しい女性が一人立っていた。
黒く、長い髪は遠目から見てもなめらかで気が強そうな瞳には優しい光を宿していて口には微笑が浮かべられていた。
「どうかしたか?」
「い、いやなんでも...」
どうやら少しの間見惚れていたらしい。
何か言わなければ。
「ええと、君名前は?」
「...ユズリハだ。君は?」
「デリスだ」
「デリスか...。私はそろそろ行くよ。また何処かでなデリス」
そういうとユズリハは何処かへ行ってしまった。