第2話 「仲間」
太古の昔この世界には八つの国があった。八つの国はそれぞれ違った種類の人間が住んでおり、違った文化が栄えていた。
八つの国は仲が悪く、常に戦争が絶えなかった。
そんなある時一人の若者がこんなことを言った。
「戦争ばかりしていては我々は前に進めない。家族を友を村をなくし、心はもう限界だ。ここは一つ争いを終わらせ様々な種類の人間と交流を持とうではないか」
この言葉に初めは聞く耳を持たなかった各国だが荒れ果てた国、ボロボロになった民を見ているうちに悪くない提案だと思えるようになってきた。
しかし、交流を持とうにもついさっきまで殺し合いをしていた人間を自国に入れるのは難しい。
「では、私が新しい国を作り、そこに各国の移民を受け入れよう!」
と言い出したのは他でもない休戦を提案してきた若者だ。
若者の言葉を本気にしていなかった各国だが、物は試しということで国の中に少数ながらも存在していた平和を望む人々を送り込んだ。
様々な国の文化、文明、そして人間を取り込んだ国は、各国からの援助金もあってか瞬く間に成長し、他の八国に劣らない大国が出来上がった。
それが今の中立国家『トロイ』である。
俺はトロイの首都ナクルにいた。
この土地は懐かしさを感じる。何せ前世で暮らしていた街だ。
夕食時の今、街は活気に溢れている。様々な種類の人間が暮らすこの街では様々な姿の人間を見ることができる。今も腰に刀を差した『武士』や、ローブを羽織り、メガネをかけた『精霊術師』らしき人がそばを通り抜けた。
俺はそんな人々の間を通り抜け一軒の店に入った。そこは前世でよく通っていた酒場だ。
カウンター席の一つに座り注文をする。
「親父、今日のオススメとエール!」
「はいよ!」
と威勢のいい返事が返ってきた。酒場は夕食時ということもあって繁盛しているようで、ほとんど満席だった。
程なくして料理とエールが目の前に置かれる。
「はいお待ち!お代は50エリスね」
代金を渡して、料理に手をつけ始め(今日は当たりだな)と思う。
この店には、『今日のオススメ』というメニューが存在する。読んで字のごとく、店で仕入れた食材の中で新鮮なものや旬の食材が使われたものを『今日のオススメ』としてメニューに出す。値段も他のメニューに比べ割安で味もそこそこ。かなり人気のあるメニューなのだが一つ問題があった。
その問題とは...料理がゲロまずい『ハズレの日』があるのだ。
このことを知らない奴がたまに運悪く『ハズレの日』に来店し、『今日のオススメ』を頼み、三途の川を渡りかけた場面を何度か見たことがある。
久しぶりに食べた懐かしの味で死にかけるなんて笑えない。いやほんとに。
まあ、安く飯が食えるのはありがたい。母さんがかなりのお金をの持たせてくれたが、旅路は長いからなるべく節約したい。
そんなことを考えながら今後について考える。
「まずは『武士の国』に行かないとな...そういえば今の『都一刀流』って誰だっけな?」
と一人つぶやいていると
「にいちゃん、『武士の国』に行くのか?」
と聞こえてきた。声の方向を見ると小柄な少女が俺を見ていた。フードと栗色の巻き毛のせいで顔が見づらい。ぱっとみ俺と同じかちょっと年下って感じだ。
「そうだけど君は?」
「わたしか?わたしは...ニーナだ」
ニーナと名乗った少女は人懐っこい笑顔を浮かべた。
「俺はデリスだ。よろしく。ニーナも『武士の国』に行くのか?」
「そうなんだよ。ちょっと『武士の国』に用事があってな。そこで突然で悪いんだけど相談があるんだ。わたし実は旅は初めてよくわかんないんだよ。それで悩んでたら『武士の国』っていうのが聞こえて、今に至るんだけど、デリスわたしも一緒についてっちゃダメか?」
うーん...少し怪しい。
こんな見ず知らずの男に同行を頼むだろうか。それに彼女はまだ幼い。
通常この世界では15歳を超えると成人として扱われる。俺も成人になったばかりなので人のことは言えないが、旅に出るのは少し早い気がする。
だが、怪しいという理由だけで断るのも気がひける。それに俺にとってもメリットはある。旅の仲間がいるのは心強いし、人脈を作っておくのも悪くない。そう考えるといいアイデアのように思えてくる。彼女も怪しいだけで何か企んでいると決まったわけじゃないしな。
「よしわかった!『武士の国』に行くまでよろしくな」
「こちらこそ改めてよろしくな」
と嬉しそうに笑った。