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八人の英雄と一人の勇者  作者: 水池
第一章 目的に向かって
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第1話「旅立ち」

九明歴720年4月15日。

中立国家『トロイ』コシスト領の辺境の村クリスト村で1人の少年が目を覚ました。

彼の名は、デリス・グランネル。彼は全てを思い出していた。己の使命とあの日の出来事を。


グリス・グランネルは、『武士』の父親ジン・グランネルと『魔法師』の母親ミリア・グランネルの間の一人息子として生まれた。両親の愛情を一心に受け、すくすくと育ち順風満帆な生活を送っていた。将来は父親の仕事を受け継ぎ、村の娘と結構し、質素ながらも幸せな生活を送って行くだろうと思っていた。デリスは、『武士』の父親と『魔法師』の母親に刀と魔法の教育を受けていたものの特別に上手だったわけではなかった。それを両親、本人ともに気に止めることなく自由に育っていた。


九明歴720年4月15日。彼の15回目の誕生日、彼は頰に一筋の涙を流しながらこう言った。

「行かなきゃ」


「おはようデリス」

「おはよう」

「おはよう父さん、母さん」

このあといつも通りならおしゃべりな母親が楽しそうに何かを話し始めるのだが、この日はデリスが母が何かを言うよりも早く

「父さん、母さん今日の夕食の時に話があるんだ」と言った。

不思議そうにする母、息子の声や雰囲気にいつもとは違う何かを感じ取った父。少しの間の後父は

「わかった」と一言言った。母は尚も不思議そうにしていたが何も言わずに頷いた。


朝食を食べた後は、いつも通りに父に刀を教わり、その後母に魔法を教わった。最近は同じことの反復練習だ。そして昼食を食べて父の仕事である刀鍛冶を手伝い、母と一緒に畑の世話をして1日が終わった。


そして夕食の時間のなり、家族全員が食べ終え一息ついている時に

「それで話ってのはなんだ」

そう父が切り出した。母は心配そうな目でこっちを見てくる。

「父さん、母さん俺は旅に出る」

父は目を瞑って何を考えているかわからない。母は驚いた顔をしていた。

「理由を聞いてもいいか」

ここで素直に理由を説明したら父も母も反対するだろう。だから父と母の弱いところを攻めることにした。

「理由は言えない。でもこれは俺がやりたいことなんだ」

父と母は、「やりたいこと」と言う言葉に弱い。小さい頃から僕がやりたいと言ったことは、危ないこと以外はなんでもさせてくれた。そして僕に「やりたいと思ったことは全てやれ」常日頃から言っている。

父は目を閉じ、何も言わない。母も珍しく真剣な顔でなにかを考えているようだ。

どのくらい時間が経っただろうか。父が口を開いた。

「それは本当にお前がしたいことなんだな」

「はい」

父は僕の目を見てそう言い、僕も父の目を見て言った。父はまた目を閉じ何かを考え始めた。さっきよりも短い時間が経ち父が

「わかった」と短く言った。母は自分も同じだと言わんばかりに大きくうなづいた。

「実はもう一つお願いがあるんだ」

「なんだ」

「僕はまず『武士』の国を目指そうと思う。それで父さんに紹介を頼みたいんだ」

父は頷いてくれるだろうと思いつつ返事を待った。

「それは出来ない」

「...理由を聞いてもいい?」

さっきとは立場が逆だ。

「それは...」

珍しく父が言葉に詰まった。

「それはね父さんと私が結婚する時にちょっと問題が起きちゃってね。ほら、『武士』と『魔法師』は仲が悪いでしょ...」

「そ、そう言うことだからできない」

母の言葉に父はすぐに頷いた。

「そうなんだ...」

父の態度に少し疑問を抱きつつも僕は納得した。

少し重くなった空気を変えるように母が元気な声で

「旅立ちはいつになるの?」

と聞いてきた。

「できるだけ早く立ちたいから明日には出るよ」

「明日!それはちょっと早すぎるんじゃないの?村のみんなにもお別れを言わないと...」

「引き延ばすとずっと残りたくなるから」

「...そうね」

納得してくれたようだ。

「たびの準備は父さんと母さんに任せて、お前はもう寝なさい。たびの出発は早い方がいいだろう」

「分かった」

素直にその言葉に従い、俺は一足先に眠りにつくことにした。


翌朝、いつもより早く起きた。父と母はもう起きていていつも通りに「おはよう」と俺を迎えてくれた。

いつも通りに朝食を食べる。いつも通りにできるのも今日が最後かもしれない。そう思うといつもならできるはずの楽しい会話はできず、食べるスピードも遅くなった。今日は珍しく母も黙っていた。


そして、朝日が顔をのぞかせた時僕たちは家の前にいた。

父は両手に何か細長いものを持ち、用意してくれたたびの荷物を持っていた。

「これ、旅に必要な道具は大体入ってるから。お金も入れといたからね。持って行って」

「ありがとう」

俺が荷物を受け取ると

「デリス、これを持って行きなさい」

そう言って父は両手に持っていたものを俺に渡した。

「これは?」

覆っている布を取ってみると、そこに現れたのは一振りの刀だった。今まで俺が使っていた刀よりも何倍も立派な。

「いいの?こんなに凄いもの」

「俺にはこれぐらいしかできないからな」

父はそう言い薄く笑った。

「ありがとう」

「頑張れよ」

「はい」

短い会話が終わると母が泣き出した

「大丈夫だよ。また会えるさ」

父が母を慰める。

その光景に俺の心は少し揺れた。もうこの光景は二度と見られないかもしれない。そう思うと足が重くなる。でも、やらなければならない。いつになるかわからない未来にこの場所に戻ってくるために。

「行ってくるよ」

そう言って俺は最初の一歩を踏み出した。これから起こるであろう辛いことや大変なことに負けないよう力強く。

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