アンインストール
人にマウントとって優越感に浸る人って嫌いなので、消し去れたらなーと思ったことありませんか?
こんな能力があったら使ってみたいと思いながら書いてみました。
短いので少しのお時間お付き合いをお願い致します。
深夜2時を過ぎた頃、1人の女が歩いていた。
女子会と称した飲み会が終わり、酔い覚ましにフラフラと歩いている。
住んでいる賃貸マンションの近くの橋まで辿り着いた。
その橋の中央に来たところで、背の高い美しい女性が立っていた。
目鼻立ちが整っていて、清楚な雰囲気の美女。長いストレートの黒髪が艶やかでとても綺麗だ。
着ている服は一見地味に見える黒のワンピースだが、清楚な彼女には似合っている。その服が彼女をより美しく見せていると言ってもいい。
女優やモデルと言っても疑われない美しさで、上品な雰囲気を漂わせている。
途端に女は不機嫌になった。
自分よりも勝っている女性が嫌いなのだ、この女は。
だから、今までも会社で自分よりも可愛い子を陰で虐めたり、自分よりもいい大学を出ている女性のことは、でたらめな噂を流して退職に追い込んだりもした。
子供の頃からそうなのだ。
先ほどの女子会でも、気に入らない女の子を徹底的にコケにしてやったところだ。
女はにこりと笑った。
「〇〇さんですね」
「そうですけど、なんですか?あなた」
声までも美しい目の前の女性に、女は嫉妬を覚えた。自分の名前をなぜ知っているのかを疑問に思う前に。
じろじろと不躾に見つめるが、相手はそれに臆するわけでも、気を悪くしている素振りもなかった。
その余裕さえもが、女を苛立たせる。
自分が優位に立っていないと気が済まないのだ。落ち着かないと言ってもいい。
世界中が自分よりも劣っていると思わないと気が済まない質なのだ。
「この世から貴女をアンインストールします」
「は?」
突然、訳の分からないことを言われた。
なんだろう。頭がおかしいのだろうか?それとも、酔っ払いなのだろうか?
だが、酒の臭いなどはしなかった。漂ってくるのは、ほのかな甘い香り。
「貴方が他人にしている行為。見過ごすことは出来ません」
とても美しく甘い声で、黒髪の女性は告げた。
「な、なんのことよ!」
心当たりが多すぎて困惑するが、それを知られていることの方が驚きだった。
美女は笑みを絶やさずに言葉を続けた。
「貴女の周りの人は、貴方をアンインストールしても誰も困らない。でも、誰かが貴女を必要とすれば、再度インストールされることも可能でしょう。・・・さて、どちらになるでしょうね」
くすくすと声を出して美女は笑う。
何を言われているのかは、わからない。
・・・だが、本能が目の前の美女は危険だと言っている。
女は背を向けて走り出した。だが、ヒールの高い靴を履いていたのと深酒のせいで転んでしまう。
「それでは」
黒髪の美女はすっと右手をあげた。
女はハッとして転んだままの姿勢で振り返った。
女は自分の顔面直前で手をかざされて、目を見開いた。
「アンインストールを開始します」
その言葉と同時に、女の体が左右に揺れた。途端にTVの画像が乱れている時のように、自分の体が動いて、否、乱れているのがわかる。
「な、なによ、これ!」
自分の両手を見ると、それらが薄れていくのがわかった。
自慢のネイルを施した指先が消えていく。
いや、指先だけではない。徐々に指から手から腕からとどんどん消えていっている。
このままでは、自分が消えて無くなってしまうのではないかと思い、助けて!と言おうとした瞬間。
眩い光が女を包んだ。
ぱっと光が大きくなったかと思うと、すぐにそれは消えてしまった。
すると、女の姿はどこにも見当たらない。
「アンインストールが完了致しました」
黒髪の美女はそう言うと、澄ました顔で何事もなかったかのようにその場から去って行くのだった。
<了>