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プロローグ 幼い日の約束

「ずぅっと、いっしょにいようね!」


 生まれつき茶色い髪をおさげにした幼女、愛密あいみつひなのは小指を差し出して言う。

 幼稚園の卒園式、例年より早く咲き誇った桜がはらはらと散りゆく遊歩道での出来事だった。


 俺、伊川天信いかわてんしんは導かれるように、その小指に自分のものを絡める。

 するとひなのはニコッと、太陽が現れるように笑った。その笑顔に心を奪われた俺は、彼女の言葉を忘れまいと反芻して。


(絶対一緒にいてやるんだ)


 そう決意したのを覚えている。

 約束を交わした日からは時が流れ、三度目の入学式を終え、俺が16回目の誕生日を迎えたとき契機が訪れた。


「お父さん、ひなのちゃんのところのお母さんと再婚しようと思うんだ」


 父による爆弾発言である。

 自分の誕生日だというのに日付を確認した。

 4月17日。エイプリルフールではないし、今は午後だ。

 そもそもお父さんは嘘を言う人ではないし、エイプリルフールの日だってドン引きするほど嘘を言わない。


 嘘ではないし、お母さんは卒園式のあと間もなく不倫が発覚して離婚した。

 ひなのとは生まれたときから一緒にいるまであるし、そのお母さんが無類の優しさを持っていることも知っている。

 だから再婚は悪いことではないのだが、それ以上に俺を動揺させる要因があった。


(俺とひなのが姉弟になったら、ひなのと付き合うなんて無理じゃ?)


 あの日から俺はひなのに好意を寄せているのだ。

 いつか告白しよう、という意思を持ちかれこれ10年ほど過ぎてしまったが、その気持ちは今でも変わっていない。


 ひなのと一緒に過ごす時間が増えることは歓迎すべきことだ。だけど、それが俺の望む未来へ誘うものではなかったとしたら、賛成はできない。


 思考を巡らせていると、お父さんが心配そうに声をかけてきた。


「天信あってのお父さんだ。再婚してほしくなかったら言ってくれ。それを責めることはないよ」


 お父さんの言葉に、俺は決意した。

 今まで告白しようと思ったけど、やらなかったのは俺だ。


 だけどお父さんは変わろうとした。なら、俺も変わろう。

 変化を受け入れて、変わった環境のなかでひなのに好きになってもらうんだ。


「ひなののお母さんだったら俺も安心だし、賛成だよ」


 この決断が吉と出るか凶と出るかはわからないけれど、ひなのと一緒にいれることは幸せなことだと、そう思えた。

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