【4】鍵-キッカケ-
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暇を思い返す日々は続く。
日を跨いだ今日も今日とて、僕は例の「探偵部」の教室で「暇」の真理を解き明かしていた。
とまあ、これだけご立派に考えても結局行きつく先は、話の始まりに帰結するのだが。
そろそろ妙な違和感というのさえ覚えてくる。
どれだけ思い込んでも考えふけても、結末に辿り着かない。
話の構成が昇華されていき、次第消化していく事が許されたとしても、最終的にその先に辿りつけない。
―僕の求めている、「暇」を明かすという解消法の「答え」に、辿り着けない。
変だ。何か。
これもいつも通り暇を埋める為だけの時間つぶしなのだろうか。別に答えを出すことが問題なのではない。ただただ悩み、そして考えていれば暇は気が付いたら明かされ、時間は過ぎ去っていく。
≪この放課後の時間は、僕の中では消えていく≫
この言葉に表しきれない異様な状況さえも、また後になったら考えの冒頭にへと戻っていくのだろうか。話の始まりにへと繋がっていくのだろうか。メビウスの回路のように、またいつもの問題提起にへと帰っていくのだろうか。
「...」
手で顔を覆い隠し、その中で鼻から息を漏らす。
そもそも僕は何故こんな事を考えている...?
「暇」な時間...結構なものだろう。
多忙で休むことなく時間が進んでいく人生にそういう時間があること自体、ある意味有意義なものだとも言える。それの答え何て。別に―パシュン
「...っ?」
何か。眩いものを感じ、思わず視界を晦ませる。
瞼をこすり、辺りを見渡してみたが、特に変わりの無い。最近見慣れたいつも通りの景色だ。
「...なんだったんだ...今の」
終わらない疑念に、いい加減疲労がたまってきたのだろう。目を閉じ、そっと息を吐いて耳を傾ける。
相変わらず閑散としたこの教室に加え、廊下からは生徒や先生の声一つ聞こえない。まるで僕だけの世界に迷い込んでしまったかのような錯覚さえ覚えてしまう。
「そもそもなんで...こんな事考えてるんだっけ...」
椅子に深々と腰かけて、軽い仰向けのような体勢で天井を見上げる。
考えを深めなければならない何かきっかけや理由があったからこそ、僕はこうして、日々放課後の時間を使って「暇」の真理について解き明かそうとしている。
ならきっかけがあった筈だ。
こんな無駄とも思えるサイクルをするに至った。確たるきっかけが。
きっかけは...。
―そう、「鍵」だ。
その鍵は、覚えもなく僕の制服の上ポケットの中で発見された。
至って普通な、一目見れば誰でも鍵だと一目で分かるであろう洋白製の陳腐なデザインをした鍵だ。
僕はその鍵を手にし、この「探偵部」の教室の前にへと向かった。
恐らく廃部なのであろう、人気も無く誰かがこの廊下を通る気配もない、まさに校舎の最果て、「探偵部」の教室にへと。
あれは...10月の...先週の...4日。
おおよそ一週間前。
「鍵」を見つけ、「探偵部」にへとたどり着く。
それがこの「放課後」「暇」を明かす日々を送る羽目になった。全ての始まり。
「いや、そもそも待てよ。鍵...」
僕の目が大きく開かれていくのを感じた。馬鹿なのか僕は。おかしいじゃないかどう考えたって。
何故、こんな大きな違和感に気が付かなかった?だってそもそも...。
...そもそもなんで。
―鍵は、何故僕のポケットの中に?