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森の娘と白銀の騎士  作者: 四葉ひろ
第一章

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18 森の娘と常闇の森1

 その時ーー。


 ボンッと言う音と共に辺り一面に立ち込めた煙幕に視界が遮られる。

 次の瞬間、ハインツは上方から左腕を掴まれ、咄嗟に上を見た。


「乗ってください!」


 そこには、たった今、会いたいと思った人がいた。細い棒にまたがって宙に浮いている。どうして戻ってきたのかとか、その棒は何なのかとか聞きたいことはたくさんあったが、今はそれどころではない。

 ハインツは咄嗟にティレの乗っている棒に飛び乗った。

 棒はハインツはおろかティレでも楽に指が回るくらいに細い。人が二人も乗って大丈夫なのか気になったが、ハインツが乗ってもたわむこともなく、高度を保って浮かんでいた。


「つかまってください! 早く!」


 そう言われても、射られた右腕は動かない。片手でこの棒につかまってバランスをとれるとは思えなかった。一瞬躊躇したが、動くほうの腕をティレの腰に回す。ティレは、一瞬びくっとしたが、何も言わず、自分とその棒ごと空高く浮かび上がる。


 煙幕の上部はそう高くなかった。煙幕から飛び出て、改めて自分の置かれた状況を観察する。なんと二人はほうきに乗って空をとんでいた。掃除に使うあのほうきだ。


「な! 浮いて! ほうき?」


 今になって、驚きがくる。


「静かに! 古来から魔女はほうきに乗って飛ぶと決まっているんです!」


 下を見ると、傭兵たちが煙幕の中をきょろきょろしている。誰一人上を見上げる者はおらず、ティレが上に逃げたのは正解だったようだ。


 ティレが不思議な力を使えることは知っていたが「魔女」なのは初耳だ。魔女がほうきに乗って飛ぶというのもハインツは聞いたことがなかった。今度、ユリウスに聞いてみよう。あいつは古今東西の文化に精通しているから、などと妙に冷静に考える。その間にティレのほうきは、まっすぐ常闇の森へ向かっている。そのまま、森へ突っ込んだ。


「あそこだ! 追え!」


 クラウゼ侯爵の怒声が聞こえる。距離が出たことで高度が高くても彼らの視界に入ったようだ。時間の経過と共に煙幕も薄くなっているようだ。だが、いくら金で動く傭兵といえど常闇の森へ突っ込むのは躊躇している。森の木々をいくつか超えると、ハインツ達の姿は向こうからは見えなくなったようだった。


「急げ! 見失うぞ!」


 こちらからも侯爵たちの姿は見えず、声だけが聞こえる。

 ティレは、さらに森の奥へと進んでいく。ここまで来て少し落ちついたハインツの頭にある疑問が浮かんだ。魔女というものがほうきに乗って飛ぶものだということは理解したしティレが魔女だというならそうなのだろう。しかし、ティレはほうきに乗って飛ぶのが得意な魔女なのだろうか。今現在の飛行状態は、お世辞にも安定しているとは言い難い。最初こそ真っ直ぐ飛んでいたが、森に入ってからはなんだかふらついているし、枝木もやっと避けて飛んでいる様子だ。岩場から落ちた時も、村で子どもと戯れていた時も、運動神経の良さなど感じたことのないティレのほうきに乗っていることがハインツはだんだん不安になってきた。


 木がうっそうと立ち並んだところまでやってくると、ティレのほうきの操縦はいよいよ怪しくなってきた。


 すれすれで大きな幹は避けているが、枝はまでは避けきれなくなり、ビシビシと小枝に殴られながら進んでいる有り様だ。ティレやハインツの顔や手は細かい傷だらけになってきた。そこにちょうどこれまでにない大木が現れた。その横を通り抜けるとき、大き目の枝にティレの右腕が引っ掛かった。バランスを崩して、方向が変わる。その先には、大木の幹が迫っていた。


「危ない!」


 その時、ハインツの腕を掴むものがいた。横を見ると、ティレの横で別のほうきに乗った男が、ハインツの腕を持ってティレごとほうきの衝突を防いでいた。


「ティレ、無理はできる範囲でしろ」


 不機嫌に言う男には見覚えがあった。以前、森の入り口にティレを迎えに来ていた男だ。ティレと同じくほうきに乗って宙に浮いている。


「キエム!」


 ティレが男の名前を呼ぶ。


「誰だ?」


 ハインツは尋ねた。思ったより低い声になった。


「あ、弟です」


 ティレは、振り返ろうとして同じほうきの上では振り返り切れず、横顔を向けたまま答えた。


「……え?」


 あっけにとられて聞き返したハインツに、聞こえなかったと思ったのか、少し大きめの声でゆっくりと繰りかえす。


「弟のキエムです。前も森の入り口まで迎えに来たのをご覧になりませんでしたか?」

「弟?」

「はい。まあ、あの、父違いですけど」


 ハインツの思いは半分は伝わったようだ。ティレは黒目黒髪だが、顔立ちはどことなくハインツ達に近い部分がある。反して、弟だというキエムは、黄緑と言っていいような明るい色の髪に浅黒い肌で、顔立ちはハインツの国にはいない民族のそれだった。


「弟……」


 ハインツは、ティレを見てそれからキエムを見た。そう言われてよくよく見れば、鼻や口元は似ているかもしれない。しかもまだ幼さの残る顔立ちだ。確かにティレより若いのかもしれない。


「ふーん」


 ぽかんと自分を見るハインツにキエムはニヤリと笑った。ハインツはムッとした。子ども相手に大人げないハインツの感情は顔に出ていたと思うが、キエムは気にしない。手を差し出すと言った。


「わかってると思うけどティレのほうきはやばい。悪い意味でやばい。傷だらけになりたくないなら移ってくれ。スピードも上がる」


 正直、移りたくはなかったし、既に傷だらけだったのでその点に関してはもはや手遅れだったが、確かにティレのほうきより、キエムのほうきのほうが数倍安定しているのは、乗るのが初めてのハインツでもわかった。ハインツは大人しく足でバランスを取るとキエムの手を取る。キエムの手はティレとは比べ物にならないほど安定していた。それを支えにティレのほうきの上にしゃがむとキエムのほうに飛び移った。キエムは、自分より大柄のハインツが飛び移ってもふらりともしなかったが、急にほうきが軽くなったティレが勢いでふらついた。ハインツはヒヤッとしたが、キエムは慣れているのか呆れた様子ながら平然としている。キエムの反応は正しかったようで、ティレは一人になるとほうきのコントロールがしやすいのか何とか持ち直した。キエムはハインツの左腕を自分の胴に巻き付かせると、スピードを上げる。

 ティレのほうきとは段違いのスピードだ。しかも木を自分からよけていたティレと違い、キエムが進むと森の木々はまるで生きているかのようにキエムのほうきに合わせてたわみ、道を作る。一人になって身軽になったせいか、木のほうが避けてくれるのでまっすぐ進めばよくなったせいか、ティレも付いてこれている。キエムの後をついてティレが通り過ぎると森の木々は元に戻る。誰も3人がこの道を通ったとはわからないだろう。

 侯爵も追ってこれないはずだ。


「侯爵は撹乱の魔法をかけているので奥には来ないよ」


 ほうきを飛ばしながら、キエムが言った。ハインツは考えていたことがわかるのかと仰天した。


「君も魔法使いなのか」

「ティレがそう言ったのか?」

「魔女だと」


 ーーだが君は男だから、「魔女」ではないだろう。


 ハインツがそう言うとキエムは口をゆがめて笑った。その笑い方に引っ掛かりを覚えたが、否定はしなかった。

 

「もう少しかかる。しっかり掴まってろよ」


 キエムはまた一段スピードを上げた。

 ハインツがティレを振り返ると、かなり遅れて着いてきている。それでも木々はティレが通り過ぎるまでたわみ続けていた。


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