閑話
「お呼びでしょうか」
その日の夜、弟王子と共に王と王太子への謁見を終えたユリウスは執務室に側近の騎士を呼んだ。
「なあ、マルティナ。お前、弟のためなら、あの領地諦められるよな」
「森のそばの分領ですか? まあ、殿下が騎士としての地位を保証していただけるのなら」
マルティナがあの領地に執着していないことは知っていた。だから身分を保証すればよい。
「まあ、王宮での地位は保証しよう」
「……殿下」
込められた意味を感じ取って、恨めしそうにマルティナがユリウスを睨む。
「そろそろ本気で考えてくれ」
ユリウスが真正面から見返すと、マルティナは目をそらした。
「本当に森の民とハインツに未来があるとお考えですか」
話を逸らしたな、と思ったが、ユリウスはその話題に付き合うことにした。こちらも重要な話であることには違いない。
「ああ。大陸を出て、東のほうの島では森の民が外に出て、国の民として暮らしている国もある。ゲルグ国と森の民の付き合い方が古いのだ。それに……」
「それに?」
「いや。推測に過ぎん。やめておこう」
「そうですか。ただ二人のことは、こちらが決めることではないのでは?」
「……そうだな」
そう答えたユリウスは、なぜか窓を見た。揺れるカーテンが外の光を反射して、ユリウスの表情は読めなかった。
話が終わったと判断したマルティナは、一礼して辞した。




