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序章 第7話
ラルクが出て行き、一人残された女は、途方に暮れた様に部屋の隅で立ちすくんでいた。
部屋の中、やや窓寄りに、頭の側を壁に付けてベッドがある。その枕元に置かれたランプの灯りが、ベッドの上の薄手の肌掛けを、静かに照らしていた。肌掛けに掛けられたカバーには、花の刺繍が施されていた。
その清潔で、温かそうなベッドに彼女は畏れ多くて近寄ることが出来なかったのだ。
絨毯が敷かれ、家具があり、ベッドがあり、灯りの灯された人間的な部屋が、異世界の様に感じられた。足を踏み出そうとしてはやめ、いっそこの床の上で寝てはどうだろうと、彼女は何度も思った。
結局彼女は、ベッドに辿り着くまで一時間近くも葛藤した。二つのランプの灯を消し、意を決してベッドに潜り込んだ時には、震えていた。
その夜、異界にいる様な息苦しさと恐怖が、長く彼女の眠りを妨げた。