第八章 第1話 がらんどうの部屋
ドウアの市民が礼拝堂の襲撃事件と、実行犯の礼拝堂の職員並びに首謀者の商人、デニス=マクドウェルの逮捕を知ったのは、翌々日の新聞によってであった。
赤毛の職員の男は息を吹き返し、その証言によってデニス=マクドウェルは捕らえられたのだった。
奉納の儀の復路の行列は、予定の時間を大幅に過ぎて実行された。
トーラン父子の、白い羽根が刺繍された赤地の貫頭衣が往路と違うことに気付いた人は、市民の目を楽しませるために贅を尽くしたのだろうと思い、まさかラルクの衣装が血で染まったために、以前の奉納の時の衣装をトーラン家から急遽運ばせたのだとは思わなかった。
予定を5時間近く過ぎてはいたが、市民の歓声の中、夕暮れ、奉納の行列はつつがなく終えられた。
翌々日になって事件と、その襲撃犯が返り討ちにされて逮捕されていたことを知った人々は、再びトーラン家を讃えて熱狂した。
だがこの時には、マクドウェルも首謀者ではなく実行犯の一人に過ぎないということを、トーラン家は既に理解していた。事件の背景はまだ分からず、レイズや白金髪の男、そして浮浪者の男の行方も、依然として摑めていなかった。
それにも関わらず襲撃犯の職員と、商人マクドウェルの逮捕が大きく取り沙汰されたために、多くの市民がまるで事件が解決したかの様に錯覚し、しばらく後に興奮状態が治まると、奇妙な形で都市は落ち着きを取り戻して行った。
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その部屋には書斎机と、椅子があった。
書斎机の前、少し離れたところにソファと、ソファの前に、小皿程度しか載りそうもない小さな机があった。
だだっ広い部屋にはそれ以外の家具はほぼ何もなく、がらんとした部屋はまだ一応は夏だというのに、寒々しい気配を纏っていた。
椅子に腰掛けていた若い男は報告に来た部下が部屋を出ていくと、数秒おいて、目の前の書斎机の下で、その机の背板を蹴り飛ばした。
鈍い音がし、大きな机の位置がずれ動いた。
この国の奴は役に立たない。
氷の様に冷たい青い瞳に、怒りと苛立ちが残酷に揺れていた。
素っ気ない生成りのカーテンが掛けられた窓から差す光に、見事と言える程に鮮やかな金色の髪が反射している。
ガーランドには珍しい、浅黒い肌をした男だった。
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第一部はあと2話ほどで完結の予定です。
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