第七章 第4話 奉納の儀
その日はあざやかに晴れた。
空気は澄み、息を吸うだけでわくわくする様な美しい日だった。
都市中で料理や酒が無料で振舞われ、楽隊があちらこちらで音楽を奏で、その音色に合わせて踊り出す人たちがいた。
奉納の品を山積みにした二つの輿を、藍鼠色のズボンに、金糸の刺繍が施された白いシャツを着た十二人の使用人達が肩に担いで、トーラン家を出発した。
後ろに、奉納者の行列が続いた。
騎乗したラルクと父を先頭に、長いレースの裾を四人に持たせた、見事なドレス姿のトーラン夫人。その後ろに市議会の議員とその家族達が、上衣を白い色合いで統一した隊列で続き、トーラン家の紋を縫い取った旗を笑顔で振って歩いていた。
花籠を持った女性達が沿道に配され、奉納者の一行の上に花吹雪を舞わせ、行列に随行する楽隊が、軽やかな音色でそれを迎える。
それは一月程前、二つの棺を先頭にした暗い行列が通った道と、同じ道順だった。
その鮮烈な対比は、人々に強烈に印象付けられた。
トーラン家と市議会が協力して、市長とその息子の命が助かったことを祝い、感謝を捧げるための、盛大な奉納の儀が始まった。
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あの時、詳細を言える段階になかっただけで、トーラン家はアミィ達の働きを伏せようとした訳ではなかった。
だが最も大きな貢献をしたと言っていいアミィが、結果として一人だけ壇上に上げられなかったことに自分の配慮が足りなかった様に思えて、ラルクは自分自身に小さく腹を立てていた。
だから父が今日のお祭り騒ぎにアミィに休暇を与え、奉納の儀を楽しんで貰おうと言った時、まるで自分の失敗を埋め合わせて貰えたように感じて、ありがたかった。
藪蛇な事態にならない様に、ラルクはアミィを正式に雇う話について、せっつくことはしないようにしていた。だが今、父がそれを認めてくれそうな雰囲気を感じていた。
あれからアミィには、小さな変化があった。
ある日の夕方、ラルクはセイレンに声を掛けられたアミィが、小さく微笑み返す姿を見た。
アミィが自分とキャリー以外に微笑む姿を見るのは初めてで、それはラルクの気持ちを大きく揺さぶった。
嬉しい気持ちが大きかったのだが、どこかに悲しみに似た痛みも覚えた。
彼はそんな感情を抱いた自分を叱り、その小さな痛みを、心の底に押し込めた。




