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浮浪者の娘  作者: 大久 永里子
第七章 奉納の儀
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第七章 第1話 事件の直後

 トーラン家の父子おやこが生きていたという報せは、国中を驚愕させた。


 だがそれが幼い使用人の子供を救うためであったことが分かると、人々は父子おやこを讃えて熱狂し、トーラン家は一気に、英雄となった。


 その熱烈な支持を前に、言える雰囲気でなくなってしまったのかもしれないが、内心は分からないにしても、市議会の議員にも各地から葬儀に駆け付けてくれた者達にも、表立ってトーラン家を非難する者は出なかった。



 とは言え、トーラン家の執事達は葬儀の参列者を一覧にして、あるじ達と協議を繰り返しては幾種類ものお詫びの品を手配して、事件からこちら、休む間もなく奮闘していた。


 当然、父子おやこの日程も黒塗りで、ラルクと父は謝罪文を書きまくっては、方々に頭を下げに出向いており、邸にあまりいられない日が続いていた。




 直後の数週間は、トーラン家は忙殺されていた。



 ただし、常に厳戒態勢だった。


 マクドウェルやレイズが事件に関わっているという確証がなかった。

 

 まだ誰も捕らえられておらず、事件は解決していなかった。







 トーラン家の使用人達が事実を知らされたのは、キャリーが帰って来てすぐの、その日の内のことだった。


 昼前に、本棟の広間に集合する様にと言われた使用人達は、後継ぎの絶えたこの家と自分達にこれから何が起こるのかと、暗い気持ちを抱きながらそこに集まった。


 広間では、かつては玉座があった数段高い場所に、トーラン夫人が執事達と女中頭を右側に従えて立っていた。

 そして夫人の左側にはキャリーを抱いたアンドリューとセイレンがおり、それが使用人達を困惑させた。



 それから、聡明で知られるトーラン夫人は整然と、この数日の間に起きていたことを語った。

 話が終わり、ラルクとその父が姿を見せると、使用人達は、全員大泣きした。


 実際に無事な姿のキャリーと、その娘を抱いて頭を下げるウェルデ夫妻を目の前にして、あるじ一家をなじる者はいなかった。




 

 まだ不明なことが多かったため、この日は詳細は語られなかった。

 レイズやマクドウェルの名も出ず、この数日間のアミィ達の働きについても触れられなかった。


 

 ほかの使用人達と一緒に話を聴きながら、一家を責める人がないことに、アミィはほっとしていた。

 だが涙を流す者達に囲まれ、中央の高い場所に立つラルクの姿に、これまで以上に息が苦しくなって、見ていることが出来なかった。




 みんながどんな反応をするかと緊張していたラルクも、壇上でほっとしていた。

 穏やかに謝罪と謝辞を述べる父の言葉を横で聞きながら、周囲に詰めかけている使用人達の中に、アミィがいない、と思った。


 目を上げると、みんなから離れた場所に、一人ひっそりと立っているアミィを見付けた。



 胸が痛んだ。 

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