表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮浪者の娘  作者: 大久 永里子
第五章 事件の日
46/69

第五章 第5話 手掛かりを追う

 警備の者達は要所要所にいつも通りに立っていたが、その日のトーラン家の邸内はがらんとしていた。

 葬儀に参列出来る限りの使用人達は皆葬列に加わっており、邸は主人と共にその命を失ったかの様に、静まり返っていた。


 父子おやこは本棟の、今朝まで棺が安置されていた部屋の続き間に潜んでいた。

 の使用人と出会わずにその部屋まで着くことが出来たアミィは、鍵の掛かった続き間の扉をそっと叩きながら自分の名を告げた。

 少しのの後、扉は小さく開けられ、アミィは中に滑り込んだ。




 廊下に面した大きな部屋のほかに、寝室や書斎のあるその場所は当主夫妻の部屋で、ラルクと父は今日は朝から書斎に隠れていた。

 書棚が囲むその部屋の中で、ラルクも父も、憔悴した顔をしていた。 

 


 全員で工夫してこなしているとは言え、食事や風呂や、洗濯といった「生活」を、邸内の人間に気付かれずに続けることは、困難だ。

 財産分与の必要も生じてしまう。

 現実的な様々な問題から、父子おやこはこの狂言の期限を四日と決めていた。

 何よりラルクの父は、政治の場でのトーラン家の死を恐れていた。




「何があったんだ。」

予定外に戻って来たアミィに驚き、ラルクは尋ねた。

「レイズ=オコーナーに、会いました。」

「レイズ?」

 予想もしなかった名前に、一瞬ラルクは戸惑った。

 だが一瞬(のち)に、彼女の言葉が意味することに気が付いた。


  まさか。



 そこからアミィは青ざめた顔で、父子おやこに懸命に起きた出来事を報告した。その話に驚き、危険なことをしてくれたアミィが無事でよかったと、彼女を見つめながらラルクは思った。父も、驚いた表情でアミィを見ていた。


 アミィの話が終わると、父子おやこは兎も角も、室内の書棚から、市内の地図を引っ張り出した。

 問題の邸をアミィに探させると、アミィが指し示した場所には、"マクドウェル"と記されていた。


「商人だ。」


 父がその名を記憶していた。


 ただ、トーラン家がその商人と関わった覚えがなかった。

 


 まずラルクはアミィに、アンドリューを呼びに行かせた。

 しばらくしてアンドリューがアミィと共にひそかに部屋にやって来ると全員で腰掛け、父子おやこはアミィに、葬列に声を掛けて来た男の人相を語らせた。


 白金髪の、浅黒い肌に、薄茶色のひとみと、微かな訛り。


 話を聴く内にアンドリューは興奮して立ち上がり、すぐにもマクドウェル邸へ走り出しそうになった。アミィが語る男は、間違いなく彼を脅迫していたあの男だった。


 ラルクは父を見た。父は判断を任せると言う様に、無言で頷いた。


 ラルクはアンドリューに、まずジョゼフ達に知らせて、レイズや白金髪の男を探し、マクドウェルの周辺を探る人手を手配させる様指示した。


 アンドリューは邸を出て、葬列の後を追い掛けて走った。

 後一日だ。


 ほかに手掛かりはなく、明日中あすじゅうにキャリーが見付からなければ、マクドウェル邸に強制的に踏み込むよりないかもしれない。

 しかしなんの証拠もないことで、キャリーが本当にそこにいるのかどうかも分からなかった。



 書斎の机の上に置かれた、時計の針が動いていた。


 期限と心を刻むその音に、アミィは耳を傾けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ