序章 第4話
ひと一人の面倒を見るというのは簡単なことではないのだという実感が、若者の胸に湧いた。
想像や、覚悟がなかった訳ではない。成果を急ぐべきではない。
今はまだ何かを判断できる段階ではないと思った。
ラルクはそれ以上問うことをしなかった。
「無理に言わなくて構わない、お嬢さん。ただいつか教えてほしい。」
女は無言のままだった。
ラルクはお茶を勧めてみたが、やはり彼女の返事はなく、カップに手を付けることもなかった。
使用人達の視線が、主人の愚かしい若さを責めている。視線の意味を充分に理解しながら、今ラルクには彼らに言って聞かせる言葉はなかった。本当にただ愚かな行為かもしれない。今はまだ分からない。
結局女の言葉は一言もないまま、ラルクは彼女を立たせ、用意させた部屋に自ら彼女を伴って向かった。
この邸には客用の寝室は十以上あるのだが、皆三階にあるのは問題だった。彼女が階段を登れなければ抱え上げるしかないとラルクは思っていたが、女は手摺りに捕まりながら、非常にゆっくりとではあったが、自力で数段を登った。だがあまりにもゆっくりで、結局ラルクは「失礼」と声を掛けて、彼女を抱え上げた。そして予想を超える女の軽さに驚いた。
女は少し抵抗する様に両手をラルクに向けて突き出したが、抵抗の意志が分り難い程、それは弱々しかった。