第一章 第8話 繋がれた糸
ようやく見えた明るい兆しを、出来れば見失わずに済ませたい。
細い糸を手繰る様に、二人は向かい合っていた。
ラルクは彼女に苗字を尋ねた。
「アミィ=ハルト」と、彼女は答えた。
生まれた時から外を彷徨っていた訳はないと思って尋ねてみたのだが、苗字が記憶に残る様などこかの時点までは家族がいたか、その存在を教える人がいたのだろう。
込み入った話はまだ今日はしない方がいいかもしれない。
アミィの隣に席を移すと、ラルクは気の重くならない話題を選んだ。
自分の方が年上だとか、庭のバラが盛りだとか言いながら、彼はさり気なく彼女にその内邸を手伝ってくれる様伝えた。
長いことその手にしたことのなかった他人との繋がり。
その糸を手離すまいとする様に、アミィはラルクの言葉に相槌を打ち続けた。
気が付くと、アミィはひたすら必死に相槌を打っていた。段々可笑しくなってきて、やがてラルクはつい吹き出した。
何か粗相があっただろうか。
笑うラルクを、アミィは実に不安げな目で見つめた。ラルクは彼女の杞憂を打ち消す様に、慌てて手を振った。
互いの息吹を感じる程に近い距離で、二人は隣り合っていた。
笑いながらラルクは、夕食をきちんと食べたかと尋ねた。
本当は大分残してしまったのだったが、兎に角返事をしようと、アミィはまた必死に頷いた。
アミィを可愛い、とラルクは感じた。
「明日の朝食はまた迎えを寄越す。まず早く体を治そう。」