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浮浪者の娘  作者: 大久 永里子
序章 雨の夕暮
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序章 第1話

「何…あれ……?」


 よどんだ空が鈍い光をかろうじて地上に届けている日だった。まだ夏の始めで、この天気では肌寒い。


 17、8歳くらいだろうか。もう服とは形容出来ない、ボロボロの布切れをなんとか体にまといつけて、両足を引き摺る様にして街を歩く女がいた。


 汚い。


 ひどい悪臭がした。体も髪もその身をおおう布の端切れも、汚れきっていた。


 当然の様に人々は女をよけ、唾や石を女に投げつける者もいた。

 乞食のいない街ではない。だがこの年齢の女で、これ程汚れた乞食を、人々は見たことがなかった。

 敵意に満ちた注目の中、虚ろな目で女は歩き続けた。


 明らかな栄養不良で、骸骨の様にやせ細った手足はうまく動かない様だった。足を引き摺り引き摺り、女は二人連れの若者の横をゆっくりと通り過ぎた。

 二人の若者も、ただ息をつめてこの凄惨な女を見つめていた。


 二人の横を通り過ぎて、飛び出していた敷石を引き摺る足で越えられず、細い棒が折れる様にして呆気なく女が倒れ込んだ。丁度そこにぬかるんだ水溜まりがあり、女は左の肘からそこに突っ込んだ。

 若者の一人が思わず女の方へ動きかけた。

 あまりに痛々しかった。


 連れの男がそれを止めた。

「よせ、ラルク。病気でも持っていたらどうする。」

「…………」

 連れの言葉に大人しく従いながら、ラルクと呼ばれた男は、なお気遣う様に女に視線をそそいでいた。

 更に汚れた女に、また石を投げようとする男がいた。ラルクが睨みつけると、男はきまり悪そうに石を持つ手を下げ、コソコソと歩み去った。


 体を起こすのが、女はひどく億劫おっくうな様だった。ゆっくりと、やっとのことで起き上がり、またフラフラと女は歩いて行った。


 女の姿がみちから消えると、街はいつもの清浄な空気を取り戻した。人々はせわしなく行き交い、人の声や馬車の音が、賑やかに通りを満たした。

 幾人かがラルクに目礼をして通り過ぎ、そうでない人でもラルクの姿を見て囁く様に噂話を交わしたりした。


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