VRMMOとMMORPGに見る仮想現実体験の虚実
ラノベの一大分野を成すフルダイブ型VRMMO小説。
その魅力の本質は、冒険心を満たしてくれる未知の領域と、そこを制覇する過程で構築されると期待される異性交遊及び人間関係と、それらから生まれるドラマだろうと思われる。
実のところ、この文脈というのは別にフルダイブVR技術に頼ることなく、2DのMMORPGそして、それに続く3DのMMORPGというゲームジャンルにおいて、すでに語りつくされていた。
むしろ、MMORPGを下敷きに、よりドラマ性を強化して娯楽小説や娯楽アニメというジャンルにマルチ展開させたものがVRMMOを題材にしたアニメや小説の正体だと思う。
やはり、20代から40代のいい年したオッサンがディスプレイとにらめっこしてネットゲームをしている日常よりも、若い男女がヴァーチャルリアリティの世界で命のやり取りやプライドをかけた乳繰り合いをしている方が、絵面的には魅力的だったのだろうと思う。
さて、双方に共通点があるとするならそれは仮想現実体験に対するロマンだろうか?
リアルじゃないからさまざまなチャレンジが冒険心を満たしてくれる
リアルじゃないから泥臭い人間関係から解放され、ロマンスに出会える
リアルじゃないからさまざまな未知の領域が待っている
筆者の貧困な想像力ではこれぐらいの連想が限界なのだが、これらのミニマムな期待感すら、既存のMMORPGはそのゲーム史において、クソゲーという言葉とともにユーザーもろとも打ち砕いてくれる。
まず、さまざまなチャレンジを実現するには、膨大なフラグ管理とそれをプログラムする能力が必要になる。リアルタイムで週一月一にイベントを起こそうとすると、プログラムを組むよりも人力でそれを行った方が手軽なくらいだ。
むしろ月一のTRPGフリーコンベンションを開催した方が低コストかつ安上がりにヴァーチャル体験と濃密な趣味人交流を楽しむことができるぐらいである。私の人生全盛期の頃は週一であった。まさに黄金時代。
かといって、いまだに運営の中の人ことGM主催のゲーム内イベントをウリにしているMMORPG供給者が居ない事からも、この問題についての解決が難しい事は想像に難くないと思う。
技術はもとより、企業経営、開発方針、人材育成など直面する問題は多岐にわたる。
そして、マンパワーに頼るよりはソフトウェアに頼ろうとする経営陣の姿もまた、想像に難くない。まことに愚かしい話である。
次に、リアルじゃないから泥臭い人間関係から解放されるか?といえば、実はNOである。
むしろ、仮想現実の方がリアルよりもどぎつい人間関係、酷い裏切り、壊れた人格などと出会う可能性は高い。
まず、リアルというのは、かなり先達の手によってコントロール性の高いモノに仕上がっている。法律があり、警察がおり、世間様の監視があるというのは、それだけで人間の獣性をかなり抑制するのである。
まあ、それでもレイパーやレイダーが世の中から消えないのは、社会制度の不完全性を嘆く前に人間と文化の未熟を嘆いた方が楽と言えば楽である。
閑話休題
リアルのタガが外れた人間が仮想現実的なフィールドで最初に取る行動は、「過激な行動」である。
普段できない身勝手。普段できない喧嘩や示威行動。普段できない横暴。
普段は憚られる嘘。普段は憚られる詐欺。普段は憚られる策謀。
また、誰の目も気にすることのない奇行。変態行為。暴言。
全ての人間がすべての局面でこのような行動にでるわけではない。
しかし、すべての人間がこれらの行動に対する忌避感をリアルのそれよりもかつ実に敷居を落とすのである。それは仮想現実空間が手軽であればあるほど、無秩序であればあるほど、より敷居が低くなる。
理由は書くまでもなく蓋然的であるが、簡単に言えば社会制度による抑制がないからである。そして、本来の目的として仮想現実には、その抑制が低い事が期待される。という点もある。
そういう意味で、ネトゲーやらMMORPGには、ラノベで描かれるような夢よりも、むしろ醜悪な人間の本質の方がより多く含まれているという現実が存在する。
昨今のそれらを題材にした小説やアニメは負の部分から目を逸らし過ぎだし、負の部分を美化している点が多いように思う。仮想現実のリアルはよりみすぼらしく、より無残である。
最後に、仮想現実のフロンティアへの期待に対する代替性であるが、これも実のところは現状では乏しいと言わざる負えない。
まず、MMORPGに存在する未踏破領域は実装されて最長一月ほどもすれば廃人にすべて踏破される。そして、むしろそれ以上かかるのなら、ゲームとしてクソゲーだし、手間がかかりすぎてゲームと呼ぶのに難のあるシロモノになりさがる。
所詮、ゲームは人生の片手間なのである。そしてフロンティア開拓とは本来ライフワークである。そもそも相反する存在なのだ。
また、提供する側の視点から見て、仮想現実の未踏破領域がユーザーのフロンティアスピリッツ解消に供しえるか?と言えば、これもNOである。
まず、新エリア実装にはそれなりの労力と準備が必要である。オブジェクトは全てポリゴン職人やワイヤー職人のお手製である。デザインはすべてアーティストの脳みそから引きずり出されたイメージである。
それは、莫大な手間と予算の末に生産されるモノであり、ゲームをライフワークとする人々の日常的消費物とするにはあまりにコストが高いのである。
これはもう金銭の問題ではない。どれだけ人員を投下しても資材を投下しても、時間的な手間の問題は解消されないのである。
技術が進歩すればそれだけ、作品への要求クオリティは上がる。結果的に技術的成果が時間短縮に割り当てられることはほぼ無いのと同義なのである。
殊更書くことではないとは思ったのだが、最近あったオワコンMMORPGのアプデを遊んでみてふと思い浮かんだのでこの駄文を書いてみた。
ヴァーチャルに夢を見るのは、自分以外のユーザーに夢を見るのと同じである。それは過剰な期待であり錯誤である。今のゲーム企業にできることなどたかが知れているし、仮想現実を構築するなどという大それたことはできるはずもない。
そういうことは、文化圏レベルでの社会実験を仮想現実において行おうという段になって初めて可能性が出るレベルの話でしかない。まだまだ、サイエンスフィクションの領域を出ない話なのである。
まあ、簡単に言うとMMORPGはオワコン
フルダイブ型VRMMOも実現されたとしてもオワコン
それだけである。
最後までお読みいただきありがとうございました