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朝、すっかり雨戸が開け放たれた寝室に差し込む陽光で俺は目を覚ました。

ずいぶん明るいなと思って確かめた枕もとのスマホは7:07を示している。近年まれにみる早起きだ。

昨日のおかしな美熟女が掃除をし清めていった寝室は二度寝に向いていないのか。すっかり眠気も吹き飛んでいる。


そういえばいつも布団に入り込んでくる猫が今日はいない。昨日飯をやった記憶がないのでそのためかと寝室の襖を引き廊下に出ると、何やらいい匂いが立ち込めていた。


匂いのもとを追ってリビングの扉を開けると、机の上にご飯とみそ汁。卵焼きに焼きのりというこれぞ定番と言いたげな朝食が用意してあった。


「あ、おはようございます。」

廊下の奥から普通に美熟女が首を出してこちらを見ていた。どうやら台所で料理しているらしい。

「いまお茶を持っていきますから、先にお食べになってくださいまし」

そういわれ、とりあえず大人しくソファに座り、食べ始めた。


「はい、お茶をどうぞ。」

「うん。ありがとう。」

「どうです?お味は?」

「少し甘めですね。でもおいしいですよ。」

「甘いのはお嫌いですか?」

「いや、すこし塩が薄いかなって感じかな」

「なるほど、そうですか。では次から塩辛くしますね。」


次、なるほど。

美熟女の中ではどうやら次があるらしい。

ううん。と悩みつつもとりあえず先に食事をとることにした。


「ありがとう、ごちそうさまでした」

「いえいえ、お粗末様でした」

美熟女は食事を終えた俺にどうぞとお茶を渡してくる。

先ほどの食事中はぬるめのお茶。今は熱めのお茶だ。

頭がおかしいだけではなく、それなりの教養があるらしい。


礼を言ってお茶を飲んでいると、美熟女は食器を載せたお盆を台所に運び、そのまま戻ってくると当然とばかりに俺の隣に腰掛けた。


「料理好きなんですか?」

俺は話題のとっかかりが欲しくてそう聞いた。

「ええ。いろいろ自分で手を加えるのが好きなんです。」

美熟女は軽くアップにまとめていた髪をほどき、両横の二房を使って髪全体を束ねるように編み込みながらそう言った。


「食材はなかったと思いましたけど」

「はい。なので昨日のうちに調達してきました」

美熟女は手を休めることなく、にこやかに笑いながらそう言った。


「そっか」

「はい」


そのまま俺は美熟女が髪を整えるのを待っていた。

俺はまともに女と付き合ったことはないが、女性が身だしなみを整えてる間は邪魔してはいけないという事は知っている。いや、ひょっとしたら邪魔してもいいのかもしれないが、少なくとも自分ではやってはいけないと思ってる。だから、美熟女が髪を整え、昨日とは違うハーフアップにまとめるまで、待っていた。


「どうです?今日のは」

美熟女は自分の髪形を整えると柔らかく笑って聞いてきた。


「そうですね。昨日の髪形は大人っぽさとフォーマルさを保ちつつおしゃれに見せていて、TPOに即したものでよかったですね。今日のはかわいらしさとカジュアルさが出ていて、これもいいと思いますよ。」

事実、美熟女は昨日より少し若々しく見えている。たぶん意図したのだろう。俺が指摘すると嬉しそうにニコニコと隠し切れない笑みを浮かべて機嫌がよくなった。


「ところで、なぜ家にいるんですか?」

機嫌がよくなったのを確認した俺はいよいよ聞きたかった本題を切り出してみた。


「なぜって。いたらいけませんか?」

美熟女は居て当然とばかりにそういった。


「うん。まずいよね。俺たち友達でも恋人でもないし。だから人の家に勝手に入って料理してるのまずいよね。」

俺がそういうと、美熟女は困ったような顔をした。


「え?私、友達でも恋人でもないんですか?」

「うん。違うと思うけど。」

「友達ってどういうのが友達なんです?」

「えっと、仲が良くて、知り合いで。一緒に遊んだりする人かな。俺は貴女の事をよく知らないし、一緒に遊ぶ仲じゃないから、友達は微妙だよね。」

友達じゃないと言い切ると何をし始めるか分かったものじゃないので、濁してそう言った。


「そうですか。では友達と言い切るのは難しそうですね。」

「だよね。だからここにいるのはおかしいよね?」


俺が困り顔の美熟女に諭すようにそういうと、美熟女は視線をさまよわせて不安そうにしていたが、やがてはっと気づいたかのように話し始めた。


「まって、では恋人というのはどういうのが恋人なんです?」

「ん、恋人ですか。えっと難しいですけど、僕の中では互いに好きあって、キスをしたりエッチなことをする間柄の男女ですね」

「なるほど。恋人は互いに好きあって、キスをしたりエッチなことをする間柄の男女ですか」

「ええ。」

俺がそういうと、美熟女は悲しそうな顔で問いかけてきた。


「わたくしの事がお嫌いなのですか?」

「いえ、嫌いではないですよ。」

「じゃあ好きですか?」

「好きか嫌いかで言えば、好きな方だよ。」

「そうですか。では失礼して。」

美熟女は話すや否や、俺の体に手を回し、あっという間に唇を重ねてきた。柔らかく濡れたものが優しく口内に侵入し、甘い吐息の余韻を残し名残惜しそうに去っていく。

口を離し、ゆっくりと俺から離れると、美熟女は自信に満ちた顔をして話し始めた。


「昨日、私はあなたとエッチをしました。」

「はい。」

「貴方は私の事がどちらかと言えば好きな方と言いました」

「そうですね。」

「そして今、私はあなたにキスしました。」

「突然のことで驚きました。」

「そして私は女です。条件をすべて満たしたので、これで私はあなたの恋人です。よってこの家にいて問題はありません。なぜなら私はあなたの恋人だからです。」


「なるほど。恋人なら家にいてもいいのかな・・・?」

俺は話しているうちに美熟女の言う事が正しいかのように思い始めてきていた。

そもそもなぜ、美熟女が家にいたらいけないのか?

料理を作ってくれてたし、問題ないのではないだろうか。


「ええ。恋人だから家にいて問題ありません。」

美熟女が追い打ちをかけるようにそう続ける。

「そうか恋人だから家にいてもいいのか。」

「ええ。私は恋人です問題ありません。」

「なるほどなあ。ちなみにどうやって家に入ったの?」

「昨日、お休みになっている間に合鍵を作らせてもらいました。」

「なるほど。そっか」

「ええ。だから家にいたのも問題はありません」

「なるほど、そりゃそうだ」

「うん、大丈夫。完璧です。」

美熟女は俺の目を覗き込みながらそう言うといつの間にか繋いでいた手をゆっくり放した。


合鍵があるから、家に入られるのもしょうがない。

恋人だから合鍵を持っているのも当然だろう。

どう考えても、美熟女がここにいるのは当たり前の事だ。


俺はそんなことを思いながら美熟女を改めて眺めてみた。カジュアルだが手のかかった髪形に大人しめのブラウス。ふわっと柔らかなスカートは落ち着いた色だがそれが上品さを醸し出している。あんまりにもじろじろと見ていたためか、美熟女は恥ずかしそうに襟を整えたりボタンの留め忘れがないかと自分の格好を確認し始めた。


「恋人ですか。」

「はい。恋人です。」

「そうですか」

「はい。」

「試しに胸揉んでみてもいいです?」

「ええ。いいですよ。どうぞ。」

よいしょっと態勢を変えて向き直ると、両手を伸ばしブラウスの上から大きめの双丘を軽く揉んでみる。

必要以上に張ってはおらず、適度な弾力は明らかに人工物ではない。しばらく黙ってもんでいたら、確かに美熟女は俺の恋人な気がしてきた。


「ありがとう。」

「あれ?もういいんですか?」

「うん。ところで、着替えとか歯ブラシとかある?」

「ううん。これとスーツしかないです。」

「そっか。お金はある?」

「ないです。」

「そっか。じゃあひと段落したら一緒に買いに行こうか。」

「はい。じゃあそれまでまた胸をもみます?」

美熟女はそういうと、嬉しそうに俺の湯飲みにお茶を注いできた。


今度は消されないように控えめに行こうと思う。

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