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「ねえ、知っている?」


飽きもせずに私とシルビアはお茶会を開く。貴族令嬢はそういう生き物なのだから。というか、気軽に街も出歩けない貴族令嬢に選択肢は少ない。それぐらいしかやることは無いのだ。結婚して屋敷の女主人なると、一転して忙しくなるのだが。


「今度は何かしら?」


「セルディカ様に恋人疑惑よ!」


「そうなの?」


少し胸が痛む。あの頃は本気で私がお姫様で、セディが王子様って思っていたから。でも、セディを傷つけた私には、感傷に浸る資格なんてない。


「なんでも、美人な女性と宰相様の屋敷から仲良さそうに出てきたらしいよ。しかも、普段あまり笑わないセルディカ様が、微笑んでらしたとか!これはもう確定でしょう」


「そうかもね。どちらのご令嬢なのかしら?」


「宰相様の遠縁のご令嬢って噂が有力ね。いくら養子にするといっても、セルディカ様は宰相様と全く血が繋がって無いじゃない?で、宰相様には子どもはいない。だから、遠縁のご令嬢と結婚させようって言う話よ」


有り得そうな話だ。シルビアの自信を持った語り口と相まって思わず納得してしまう。


「うーん、セルディカ様に恋人ね……」


「あれ、どうしたの、エリー。遠い目をしちゃって」


「いいえ。何でもないわ」


「やっぱり、気になる?」


「私もセルディカ様と同じ年だから、私も結婚を考える年になったんだなぁって思って」


「セルディカ様が同じ年なんて私言ってないわよ。エリーはどこからその情報を手に入れたのやら。興味があるのね」


適当なことを言って誤魔化そうとしたが、かえって墓穴を掘ってしまった気がしてならない。


「うーん、たまたま知ってたのかな?」


「まあ、いいわ」


「ねぇ、それよりシルビア、この前言っていたドレスはどうなったの?」


シルビアが引き下がったところで、少し強引だけど話題を変えてしまう。


「ドレス?ふふっ、内緒。なかなかいい感じにできそうだから、見てのお楽しみってところかな?」


「そうなんだ、教えてくれないのね」


「まあまあ、まだ完成からは程遠いからね。どこかで舞踏会あったら来ていくわ。その時ね」


「そう。じゃあ、楽しみにしてるわ」


そうしてシルビアと話しているうちに時間も経ち、屋敷に帰る時間になった。


「それでは、またね」


「ええ、ドレスが早く見れるのを楽しみにしているわ」






屋敷に戻るとお母様が出迎えた。なにか私に用事があるのだろう。


「お母様。ただいま戻りました」


「お帰り、エリー。そうそう、いくつか縁談の釣り書きがあるの。ちょっと目を通しておいてくれるかしら」


そう言うお母様の手にあるのは、封筒の山。いくつかなんて量じゃない。伯爵家と血縁関係になりたいって人は多いだろうから、そんなものなのだろうが。


「ええ、ありがとう。これから見るわ」


「もし、気に入った人がいたら教えてね」


そう言って、お母様に封筒を渡される。やはり重たい。これを軽々持っていたお母様は、あれだけ細身なのにどうなっているのだろうと、とりとめもない事を考えながら気のない返事をする。


「分かったわ」


「あまり、こういう事は言いたくないけれど、エリーもそういう歳だからねぇ」


「そうね、そろそろ、考えないとね」


お母様の前では殊勝にそう答えるが、内心ではまだ早いと思ってしまう。家に縛られる前に、やりたい事がまだまだたくさんある。

本当はこのまま全てを放り出して、家を飛び出してしまいたいくらいなのだが、一人娘ということもあり、両親に迷惑をかけてしまう。




手渡された封筒を持って自室に避難する。


「令嬢ってのも面倒だわね」


封筒の中身に目を通すうちに思わず独り言がこぼれ出る。中には家柄に名前、年齢、簡単な経歴や現在の役職が書かれている紙と肖像画が同封されている。


「ふーん、王都の学園を出たのね。で、いまは政務官かぁ。セディの方が優秀ね」


ついつい彼と比べてしまう。見たところあまり出来が良さそうでもないが、学園を出たということと家柄から政務官になれたようだ。学園を出ると将来がある程度保証されるらしい。


「却下」


なーんて言いながら封筒を放り投げる。


「私も学園に行きたかったな……。絶対この人より私の方が優秀よ」


見れば見るほど、その釣り書きの欠点が見えてくる。字も汚いし、レイアウトも読みにくい。仕事のできる人が作ったものじゃない。


実は私も学園に行って勉強をし、世間を知りたかったのだ。

屋敷で家庭教師が教えてくれるのは、貴族令嬢としての勉強。そうではない知的好奇心の赴くままの勉強、といったものがいかに楽しいか、セディを見ているうちに分かってきた。そらみたことかと言われるのも悔しくて、セディには絶対言わなかったが。

それに、学園には色々な身分の人もいる。貴族令嬢なら限られたコミュニティーに生きるしかないが、学園に行けば一介の生徒として広い世界に出られる。


「お父様!私も学園で勉強したいですわ」


そう言って、セディが王都に行くと決まった後、私もお父様に訴えたのだった。

が、お父様は許してくれなかった。


「可愛いエリーよ。エリーの気持ちはわかる。でも、駄目だよ。代わりに好きなだけ先生を呼んであげるし、本も買ってあげるからね」


「お父様。私は勉強だけで無くて、世間も知りたいんです。学園に行かないと意味がないの!」


「ごめんね、エリー。エリーは伯爵家の一人娘なんだよ。だから、エリーの願いは叶えられない。お父さんも叶えてあげたいんだねどね」


学園というのは子息にとっては出世のための場である。そして、実際に政治に関わるだろう高位貴族の子息にとっては世間を知る場。

そこに出世の必要もなく、政治に関わることもないはずの令嬢が入学したらどうなるか。純粋に学問や世間を知るためとは思われまい。結婚相手を漁りに来た品の無い令嬢だとと悪評をたてられる。それが、我々貴族にとってどれだけ致命的なことか。そうお父様は、私を諭した。

いくら私が訴えても無駄だったのだ。


そうして学園に行くということは、私の心のやりたいけど出来ないリストに仕舞われた。


今考えると、学園に行ったセディを羨む気持ちも、私の態度を頑なにさせる一因になっていたのだろう。



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