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本日二回目です。

あと2話程度で終わる予定です。

私がセルディカ様に会ったのは、まだ6歳ぐらいの頃だろうか。伯爵家に生まれた私は、夏になると避暑のために田舎の領地で過ごしていた。そして隣の領地がベルロイ男爵家のものだったのだ。隣の領地の同い年の子ども。仲良くなるのに時間は掛からなかった。


「セディ!遊びましょう!」


「エリー!いらっしゃい!」


「今日は何する?」


「向こうの丘に一面に花が咲いていてきれいなんだ!見に行かない?」


「行きたい!じゃあ、セディに花冠作ってあげる」


「本当?嬉しいな」


そうして毎日のように二人で遊んでいた。セディは私と同い年だったが、しっかりしていた。だから、私の両親も安心してセディと遊ばせていた。




今考えると赤面ものの、生意気なことを口にする事もあった。それでも彼はいつでも優しかった。


「セディ?何やってるの?」


「お勉強。もう終わりにするから少し待っててね」


「ふーん、偉いね」


「いや、僕は男爵家の次男だからね。家も継げないし、自分で身を立てないと生きていけないから」


「大変なんだね」


私は家庭教師を招いてダンスやマナーのレッスンとともに、教養程度の勉強はしていたが、自分でわざわざ勉強したいとも思わなかった。そしてそれが許される環境にあった。そんな苦労知らずの伯爵家の令嬢。特に一人娘とあって大事に育てられていた。だからいまいち彼の苦労が理解できていなかった。


「まあね。でも、勉強すると世界が広がって楽しいよ」


「そうなの?私は、セディが勉強すると、遊んでくれないからつまんない!」


「そうかぁ……」


「ねえ、いいこと思いついた!」


「なんだい?」


「私とセディが結婚すればいいの!」


「えっ?」


私の突然の爆弾発言に、さすがのセディも事態が飲み込めなかった。


「あのね、私の家には男の子がいないから、私がお婿さんもらうんだって!で、そのお婿さんが伯爵家を継ぐの」


「うん、そうだね」


「だから、セディをお婿さんにしてあげる!」


なにが「だから」だ。そして、なんでそんなに偉そうなんだ。叶うものならそう当時の私に突っ込みたい。


「うーん、でも、僕は男爵家の子どもだし、ちょっと難しいんじゃない?」


少し冷静になったセディが私を諭す。夢見がちな私と違って彼はきちんと現実を分かっている。


「いいの!セディがいいの!」


「ありがとう。嬉しいよ」


駄々をこねる私にセディは諦めたように言う。


「でね、私が大人になったらセディを迎えに行くから待っててね!」


「うーん、普通はお姫様が王子様のお迎えを待つんじゃない?」


「これからの時代、お姫様は王子様を待ってるだけじゃだめなのよ!」


「うん、なるほど」


「だから、セディ王子はお迎えを待つのよ!」


「分かった、待ってるよ、エリー姫」 


そう言ってセディは微笑んでくれた。たとえそれが子どもの口約束だとしても、私はとても嬉しかった。





毎年夏が終わると私は王都に帰る。セディと次の年も会う約束をして。

そんな日常が崩れたのは、彼と仲良くなって5年は過ぎたころだった。その年もまた来年セディと会うつもりだった。


「また、来年。約束ね!」


そうなんの気なしに言った私の言葉に、一瞬セディが辛そうな顔をする。


「ごめん、エリー。来年はもう会えないんだ」


セディのその言葉は青天の霹靂だった。私も彼も社交界デビューするのはまだ先で、婚約者ができたからとか、そういう事の起こる年でもない。どうしてそんなことを言われるのか思い当たる節もない、そんなところだった。


「どうして?エリーのこと嫌いになったの?エリーが悪いのなら謝るし、直してほしいところがあったら直すから!だから、もう会わないとか言わないで!」


「違うよ。エリーのことは大好きだよ」


「じゃあ、どうして!」


「僕は来年の春から王都にある学園に行くんだ。だから、もうここには戻ってこないんだよ」


そういう彼の声を、そうかもうそんな年なんだと聞いていた。学園に行くために彼が勉強していたのは知っている。だから、それを止めるほど子どもでは無いつもりだった。それに、彼が行くのは王都。田舎の僻地や外国に行くわけじゃない。


「じゃあ、王都で会いましょうよ!私のお屋敷も王都にあるから!」


「そうできたらいいんだけど、ごめんね。学園に入ったら、寮生活なんだ。だから、簡単に出歩いたりできないんだ」


「なんで!やだ!」


学園には王族も通うから、セキュリティのために出入りの管理がとても厳しいと頭で分かっていても、気持ちは納得しない。どうしても聞き分けのない子どものように駄々をこねてしまう。


「ごめんね。でも、エリーに手紙書くからね」


「手紙なんていらない!」


「うーん。そんなこと言わないでほしいな。僕が学園を卒業したら、また会えるから待っててくれる?」


そう言ってセディは私を説得しようとした。


「セディなんて、知らない!だいっきらい!」


しかし、私は言いたいことだけ言い捨てて、屋敷に駆け込んでしまった。最後にチラっと見えた彼の顔はとても傷ついていたようだった。

その後、彼から王都に立つ前にもう一度会いたいと言付けられたが、私は意地を張って、無視を決め込んでしまった。



私は返事を返さなかったのに、それでも彼は王都に立つ日、私の屋敷を訪ねてきた。


「エリー、セルディカ君が来てくれたわよ」


お母様が階下から私を呼ぶ声がする。


「知らない!」


それだけいうと私は自室に閉じこもってしまった。


「ごめんなさいね。エリーも意地っ張りで。本当はセルディカ君が居なくなって悲しんでいるんですよ」


「いえ、いいんです。そうだ、これをエリーちゃん渡してくれます?」


「ええ、渡しますね。ありがとう、エリーも喜びますわ。お気をつけてね」


「ありがとうございます」


かすかにお母様とセディの話す声が聞こえる。私は今すぐにでも飛び出してセディに謝りたいという気持と、意地を張った気持ちの間で揺れ動いていた。しかし、結局、セディに謝る勇気も出ないまま、セディは王都へ立ってしまった。




彼が王都に行ってしばらくして、私宛に手紙が届いた。しかし、私は今更返す言葉も見つからず、返事を書くことができなかった。それに手紙に書かれる楽しそうな学園の様子を読むにつけて、彼はずっと遠くの世界に行ってしまったのだと、隔世の感が強まった。

そんな私の態度にも関わらず、それでも彼は私に手紙を送り続けてくれた。しかし、次第に手紙の間隔が開くようになり、ついには届かなくなった。




子どもの癇癪で傷つけてしまい、セディには悪いことをしたと思っている。セディは優しい人だから、自分のことを責めてないと良いのだけど。一度彼に謝りたい。彼の名前を聞いた瞬間から、そういう思いが私の心を占めていた。






読んでくださる方、ありがとうございますm(_ _)m

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