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目の前に並んだ色とりどりの美味しそうなお菓子、そして香り高い紅茶。優雅なお茶会を私は友人と楽しんでいる。


「ねえ、知ってる?」


これはゴシップ好きの友人が新しい情報を仕入れたときの合図。


「何かしら?」


私は間髪入れずに聞き返す。


「ベルロイ男爵家のご次男、セルディカ様が次期宰相に指名されたんですって。若いのにすごいわね!しかも男爵家からよ!大抜擢だわ」


春の昼下がりの柔らかな日差しの中、いつもの友人と開かれたいつものお茶会のはずだった。しかし、そこで何気なく話された噂話は私を驚かせ、まともに言葉を告げなくするには十分だった。

セルディカ·ベルロイ。私は彼の人を知っている。いや、知ってたというべきか。彼と交流があったのは遥か昔。あれから月日が経った今、どちらも大人になりお互い顔を合わせても、もう気が付かないだろう。それは懐かしくも後悔を伴う思い出だった。そんな彼が出世したらしい。


「そう、なの……」


ビックニュースと言わんばかりにこちらをニコニコと覗き込む友人に、私はかろうじて言葉を返した。


「あら、エリー?なんだか納得いかない顔ね。もしかして、セルディカ様をご存知ない?まぁ、社交界にあまり興味のないエリーなら、それも仕方ないかもね。男爵家って領地が地方にあるからあまり社交界にも顔を出さないものね。でも彼は学園に通っている頃から優秀で、ついに宰相様が大抜擢をしたのよ。なんでも、宰相様がご養子にするって噂で持ちきりよ」


私の表情をどうとったのか、彼女は更に詳しく話してくれる。知っていることはなんでも教えたい、そんないつも通りの彼女の様子を見ているうちに、私は次第に落ち着きを取り戻した。

せっかく楽しいお茶会なのに、つまらない悔恨話を聞かせたくはない。セルディカ様は知らない人。うわさの次期宰相様らしい。そう自分に言い聞かせる。


「あら、そうなの。よく知ってるわね」


「ふふっ、私の情報網を舐めないでほしいわね」


「ええ、お陰で社交界の話題についていけて感謝してるわ」


「そう、良かったわ」


「持つべきものは友達ね」


「そうでしょう?その、素敵な友達が更に面白い話を教えてあげましょう」


「まあ、何を教えてくれるの?」


「なんと、……」


「なんと?」


「セルディカ様は美男子なのよ!」


「まあ!」


重大な秘密を教えたとばかりに誇らしげにしている友人に合わせて、とりあえず驚いた風を装う。私は彼の少年期しか知らないが、その頃から天使のように可愛らしかった。美男子というのもまあ、想定内だった。


「才色兼備よ。羨ましいわね」


「ええ、そうね」


「でも、大事なお友達のエリーに一つ忠告ね」


「忠告?」


「そう。セルディカ様を落とそうなんて思っちゃだめよ。ただの男爵家の次男だったときでさえ、ご令嬢方に人気だったのよ。今や、次期宰相、しかも宰相様の養子?とでもなったら、縁談がひっきりなしに舞い込んでるわ。それなのにどんな美女にも靡かないって噂よ。だから、間違えて恋に落ちでもしたら辛いわよ。エリーが頭の良い男性が好きだから、ちょっと心配でね」


「あら、嫌だ。どうして知ってるの?」


「親友ですもの。男の好みくらいよく知ってるわ」


「もう、シルビアったら!」


友人とのくだらないやり取りはとても楽しい。思わず破顔してしまう。


「それでね、どれくらい彼がご令嬢に人気かというと、宰相様の屋敷に山の様な贈り物が毎日運び込まれるくらいよ。あっ、今、セルディカ様は宰相様のお屋敷にいらっしゃるのよ」


「へぇ、そうなの」


「で、宰相様は公の職につくものは、賄賂になるから贈り物は受け取れないって全部断ってるの。職を建前にしてるけど、本当は山の様な贈り物に辟易して、受取拒否してるだけって所ね」


「よくご存知で……」


「だから、贈り物を贈っても無駄ね」


「ええ、そうみたいね。人気者は大変そうね」


「そうねぇ……。うん、あら、いけない。もうこんな時間だわ」


ひとしきり会話に興じていた私達だったが、遠くで鳴った時を知らせる鐘の音を耳にすると、シルビアは我に返ったように時間を気にし始めた。


「なにか予定でもあるの?」


「ええ、ドレスを作ろうと思って、デザイナーを呼んでいるの」


「まあ、素敵ね。じゃあ、そろそろ私はお暇しようかしら。今日はお招きいただきありがとう」


「いえ、こちらこそ来てくれてありがとう」


「今度は私のところに来てね」


「ええ、嬉しい。楽しみにしているわ」


「それでは、またね」


私は友人に別れを告げて屋敷に戻ることにした。シルビアは気のおけない友達だから、ドレスのデザインを見物しても良かったが、なんだか今日は気が進まなかった。今日、話に出てきたセルディカ様のことがどうしても思い出されてしまうのだった。




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