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 誰にも見つからずに城を抜け出られたのは、ひとえにネイの案内によるものだった。


 彼女はこの城の抜け道という抜け道を知っているのか、とんでもない場所から出入りして、気がつけば城壁の外にでていた。


「こちらです」


 ネイは僕がついてくるのが当然という風で先頭を歩きはじめた。


「ネイ……さん。あのさ」


 ネイはくるりと振り返ると、そういえば、といった。


「お互いの呼び方を決めてませんでしたね。私のことは呼び捨てでいいですよ。私はあなたのことを、なんと呼べばいいですか?」


「カナメでいいよ。僕も呼び捨てでいいから」


「ではカナメ。ここから行くところを説明しますね」


「お、おう」


 ネイは歩きながら話しだした。


「これから行くところは冒険者ギルドというところです。転生者には馴染みのある場所と聞いていますが、ご存知ですか?」


「まあ、知ってますね。はい」


「そこで登録をしてもらいます。そうすれば、カナメの身柄は冒険者ギルドの管轄になるので、たとえ王族が引き渡しを求めてきたとしても、冒険者ギルドが仲介してくれるようになります」


「それって、なにがいいの?」


「あなたのことを不用意に暗殺できなくなる、ということです」


「でもそれって、そもそも僕が牢屋から出ないでいたら、もっと安全にすんでた件ですよね?」


 ネイはかぶりをふった。


「冒険者ギルドで登録するのは、これからしてもらいたいことの準備のためなの」


「……結論から先にいってもらえますかね」


 ネイは立ち止まると、真剣な瞳で僕の顔をのぞきこんできた。その近さに僕はドキリとする。


「あなたと会ったとき、私のパーティーは全滅した、という話をしましたよね」


「はい」


「あなたの世界ではどうか知りませんが、この世界では、死者を生き返らせる術はありません」


「でも魔法があるだろ。回復させるやつとかさ」


 ネイの表情が暗くなった。


「回復させる魔法はあります。が、それは死んだ人を生き返らせるのとは、効果が違うのです」


「なるほど」


「私は、亡くなった人たちを蘇生したいのです。それが目的です」


「え……ん? どうやって? 魔法じゃダメなんでしょ?」


「『回復』魔法では、です」


「僕の……?」


「そうです」


「時……時間をさかのぼるのか」


 ネイは力をこめてうなずいた。


「死ぬ前の時間まで戻せれば、その人は死んでいなかったことになる。つまり蘇生と同じことになります」


「そりゃあ、そうかもしれないけど」


「あの人達は、私にとってかけがえのない仲間なんです。どうしても助けたいんです。協力、してくれますよね?」


「でもなぁ。僕はすでに君にいくつも借りがあるわけですよ」


「借り?」


 ネイが首をかしげるので、僕は指折り数えながらいった。


「ダンジョンで助けたでしょ。で、ダンジョンにいたことをアメリアさんに言わなかったし、君が牢屋をやぶったことも通報していない。それに加えて、命の危険をおかしてダンジョンに戻って、君の仲間を助けろと?」


「そうです」


 自信満々にネイはいう。


「人助けに理由なんていりますか?」


 ダメだこいつは。僕はため息をついた。


「わかった。わかったけど、そもそも僕の魔法で時間を巻き戻したからといって、蘇生できる保証はない。そこは覚えておいてくれよな。あとで恨まれるのは嫌だ」


「わかりました」


 僕とネイは握手をかわした。


 僕たちはなるべく人目につかないよう路地裏をまわり、ギルドのところまでやってきた。


 ギルドの扉をくぐった僕たちは、同時にあっと声をあげた。


 受付カウンターにアメリアが肘をついてくつろいでいたからだ。


 彼女は僕たちを見つけると、飲んでいたカップをおろして、あからさまに落胆したため息をついた。


「ネイ様。やはり、ここにきましたか」


「アメリア……」


 ネイは立ち尽くしていた。アメリアは僕をにらみつける。


「君はもっと頭のいい人間だと思っていたがな」


「いや、これはですね……」


「問答無用」


 立ち上がるアメリアに、僕たちはあとずさった。


「な、なぜここに、あなたがいるのですか」


 ネイはうろたえながらいった。


「ネイ様がどこに行くかなど、とうにお見通しです。普段なら放っておくのですが……」


 と、僕のほうをみた。


「脱獄の手助けをするとなると、話は変わってきます」


「聞いて。アメリア。これには訳があるの」


「問答無用、といったはずです」


 僕でも感じるほどの威圧感がアメリアから漂いはじめ、背筋に冷たいものが流れ落ちる。


 内心ビビりまくっていた僕だったが、ネイから事情を聞いている手前、はいそうですか、というわけにもいかない。震える足を前に出して、アメリアの前に立ちふさがった。


「ほう」


 アメリアの眉があがった。


「アメリアさん。話を聞いてくれ。これは人助けのためなんだ。これが終われば、僕は牢に戻してくれて構わない」


「カナメ、それは……」


 いいかけたネイを手で制する。


 アメリアはふむ、と腕をくんだ。


「ならば、話してみよ。なにをするつもりだったのかを」


 僕はアメリアに、事の次第を話して聞かせた。ところどころでネイが口をはさみ、やがてネイが引き継いで話し続けた。


 その中には、僕も初耳の内容も含まれていた。


 要は、こういうことらしい。


 ネイはダンジョン攻略の犠牲者を減らすべく活動している一人で、同じ気持ちを持つ仲間とパーティーを組み、下の階層から迷いこんでくる強力な魔物を倒すということを行っていた。しかし今回の敵は今までみたことのない強大な魔物であり、広間に誘いこんだものの返り討ちにあって全滅。そこから逃げるところで僕と会った、というのがこれまでの流れだ。


 彼女からすれば、全滅したパーティーは仲間であり同志でもある。なんとかして生き返らせてやりたいと思っており、その一縷の望みを僕に賭けている、というわけなのだった。


「なるほど。言い分はわかりました」


「じゃあ……」


「いいえ。それとこれとは別です」


「ど、どうして……」


「ネイ様のなさっていることは誠立派に思いますが、人は皆いずれ死ぬのです。そして死ねば生き返ることはない。その逆があっては、世の理が崩れてしまいます。ここで万事うまくいって、万が一にもこやつが生き返らせることができてしまったが最後、その噂はまたたく間に広まり、この青年の人生は後戻りできないところにいってしまうのですよ。その責任を、ネイ様、取れるのですか」


 ネイは口ごもった。今度は僕の番だ。


「アメリアさん。僕はそれで構わないと思っているよ。なにもネイにその責任を負わせるつもりはない」


 アメリアは僕をじろりとみた。


「ネイ、様……だ」


「……ネイ様」


 アメリアはうなずく。


「お前、それは本心からいっているのか? その場の雰囲気に飲まれているだけにしか見えんが」


 うっ、と僕は口ごもった。ネイのほうをみると、ネイもまだ口をもごもごしている。


 僕たちの様子をみて、アメリアはため息をついた。


「浅い!」


 僕たちはビクッとして、またたく間に萎縮してしまった。


「ほかに言い分は?」


 まるで先生の前で反省させられる生徒のようだ。


「……でも」


 僕は振り絞るようにいった。


「いってることはわかる。浅いってこともわかってるけど、でも、それでも、それで人を助けられるなら、いい……んじゃないかなって、僕は思うんです、けど」


「本気か?」


 アエリアは僕をのぞきこむようにいった。目が怖い。


 僕は怯えながら首を縦にふった。


「……なるほど」


 アメリアは再度ため息をついた。


「その言葉、偽りはないな」


「は、はい」


「……わかった」


「……え?」


 僕たちは顔をあげた。


「状況が状況なことは理解している。お前が本気だというのであれば、試しにやってみろ」


「アメリア……ありがとう」


 ネイはアメリアの手をとった。


「ただし!」


 その手をアメリアは強くにぎりしめた。


「私も同行する」


「へ?」


 僕たち二人から変な声がでた。


「なんで?」


「お前は脱獄囚だ。それにお前がネイ様を守れるとも思えん。私が同行すれば、お前が逃げ出さないように監視することも、ネイ様を守ることのどちらも同時にできる。一石二鳥というわけだ」


 確かに、と僕はすなおにうなずく。


「それに、うまくいこうがいくまいが、お前は戻ってきたら牢に戻るんだ。それを忘れるな」


「……わかってる」


 アメリアはネイにむきなおった。


「それでよろしいですね?」


 ネイはこくりとうなずく。


「ありがとう、アメリア。あなたがいれば百人力です」


 そういってから、ネイは改めて僕の全身をなめるようにみた。


「装備が心配ですね……」


 同じく僕をみていたアメリアが「それより」といった。


「肝心の使い魔がいませんね。それを戻すのがます最初なのでは」


「そうでした」


 ネイは手をポンと叩いて、嬉しそうにニコニコと笑った。

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