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 門を二つくぐる頃には、正面に見える壁の先に、城壁と思われる一端がみえはじめた。


 それは城というよりは、巨大な要塞だった。石造りの強固な壁は、地層のように上にいくに従って色が新しくみえる。下のほうは苔に覆われていて、森の上に立っているようにもみえた。


「魔法大戦時代の頃からある由緒正しい城だ」


 僕がポカンと口をあけていると、アメリアがいった。


「こんなでかい城をみたのははじめてだ……」


 日本の城や、ヨーロッパの城とはまったく別次元のものだった。


 対人のために作られているのではない。怪獣とかドラゴンと戦うために作られているような感じだ。

 僕は取引先の会社に行くつもりで、気合を入れ直した。


 アメリアのあとに続き、応接間に通された僕は、ここで待つようにいわれ、監視役として二人の騎士がドアの横に立つ中、予想していた以上に質素な内装に驚きながら、硬い木製の椅子に座った。


 しばらくすると、誰かがドアを開いて、中に入ってきた。


 女性--というよりは女の子だ。つま先まで隠れる薄色のスカートと、肩口を出した上着の上から、レース生地の透けたフードのようなもので上半身を覆っている。その子は騎士に声をかけると、騎士たちは一礼をして退室した。


 お姫様かな、などと思っていると、みるみるうちにその顔に見覚えがあることに気がついた。


「君は……もしかして、ネイ、か?」


「あなた……転生者だったんですね。だからあんな格好で……」


「いやいや、僕はたしかにそれはそうだけど……君のほうこそ何者なんですか?」


 ネイはなにかをいいかけて、ハッとドアのほうを振り返ると、慌てていった。


「いいこと。私のことは絶対にいわないこと。いいですか?」


「いわないって、ダンジョンにいたってこと?」


「私とあなたは会わなかった。私はそこにはいなかった」


 コンコンとドアが叩かれた。


「わかりましたか?」


「……わかった」


 僕は素直に答えたが、内心はこの情報の置所に迷っていた。


 ガチャリとドアがひらき、アメリアが顔を出して、ネイの姿を認めて落ち着いた様子で礼をした。


「ネイ様」


「アメリア。今出るところです」


「はっ」


 ネイはもう一度僕をにらむように見つめると、ふいっと顔をそむけてドアから出ていった。


 代わってアメリアが騎士たちとともに入ってきて、室内を一瞥した。


「ネイ様とは知り合いなのか?」


 俺は少し考えてから、首をふった。


「いや。転生者に興味があるとかで来ただけみたいだった。誰なの?」


「ネイ・ローイック様だ。お前にはまだ理解できないだろうが、いろいろ事情がある立場のお方だ。軽々にお前のような者と話してよい身分ではないのだが、いかんせん彼女自身がそういうのに興味がおありだからな」


 やはり本人か。


 城の人間――それも、見たところかなり高貴な立場の者がお忍びでダンジョンに入っているなど、どれだけ警備が適当なのか。アメリアの口ぶりだと扱いに困っているようにも受けとれる。


「大変なんだな、君も」


 彼女はふん、と鼻を鳴らした。


「転生者よ。まだこの世界を知らぬゆえ、今の言葉は聞かなかったことにしてやる。万が一ネイ様と謁見した際に、そのようなことをわずかでもいってみろ。その首を飛ばす」


 僕は首をすくめた。どうやらアメリアの逆鱗に触れてしまったらしい。僕は心のメモに、『アメリアの前でネイを茶化すべからず』と明記した。


「来い。転生者。陛下がお待ちだ」


 僕はどっこいしょと立ちあがると、アメリアのあとをついていく。王城というにはあまりに寒々とした廊下を歩き続け、背丈の五倍はあろうかという巨大な門の前に通された。


 重厚な鉄の扉には、複雑な彫刻が施されている。


(巨人の城でも乗っ取ったのかよ)


 思わずそう思う。まるでボス部屋の前に来たかのようだ。


「開くのを待て。開いたら、私のあとについてくるんだ。私が止まったらお前も止まれ。私が礼をしたら、お前も頭を下げるんだ。わかったな」


「王様の前なんだろ。わかってるさ」


 転生前はこれでもサラリーマンをやっていたのだ。一般的な礼儀作法くらいは理解しているつもりだ。


「お前は聞かれたことだけ答えればいい。それ以外は話すな」


「了解」


 門のむこうで、ファンファーレのような音が響いた。そして男性の声で、朗々と長ったらしい、王様を称える文句が一通りいいおわるまで僕たちは待たされ続けた。


「偉大なる国王陛下! 異世界より来たりし者、トキトウカナメ様が、陛下にお目通りを願っておいでです!」


 わずかな間。たぶん王様が「うむ」とか「そうか」とかいったのだろう。再びファンファーレが鳴り響き、重い門扉がゆっくりと開いていく。


「私についてこい」


 アメリアはそういうと、マントを翻してさっそうと歩きだした。僕もそのあとに続く。

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