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 遺跡の中で三人組を見つけたとき、彼らは傍から見ても明らかに苦戦していた。


 一階層と比べると、遺跡内部は驚くほど広大だった。


 柱が何本も立ち並ぶ広間で、天井の高さはゆうに10メートルはある。その空間を埋め尽くすほどの、見たこともない奇怪な生き物たちを相手に、三人組は戦っていた。


 三人組は広間を駆け抜けながら、寄る敵を撫で切りにしてまわっていた。しかしその範囲は押されてだんだん狭まり、やがて出口を目指して後退する格好になった。


 僕は魔力節約のため、僕、ネイ、ガデムの三人を広間の出入口で魔法を打ち切り、アメリア、ハヤト、リンに集中した。その間、ガデムが壁役となって襲いかかってくる小物を斬り倒し、ネイはその後ろから三人組にこっちにくるよう呼びかけていた。


 三人組は僕たちがここにいるのが不思議でたまらないといった顔でやってきた。


「どうやって……」


 カーンが言いかけたのを僕は手で制した。


「話はあとだ。今から君たちを加速する。それで敵を一網打尽にするんだ」


「加速? 時間をはやめる魔法か?」


「そうだ」


 言いながら僕は雑嚢から予備のスパイクを手渡す。


「それを足につけてくれ。出ないと足が滑ってまともに走れなくなる」


 グウェンは鼻を鳴らした。


「俺は加速しなくてもいい。自分の速さには自信がある」


 そういうや否や、アメリアたちの戦いに加勢しに行った。


「敵をあらかた倒したら、この層から撤退する。あまり長居はしないから、そのつもりでいてほしい」


 二階層から僕たちがいなくなったことで、四階層は二階層を飲み込みはじめるはずだ。はやく一階層まで撤退したかった。


 カーンとリアンはうなずいただけだった。


 僕は呪文を唱えて、彼らを加速させた。瞬時に姿が見えなくなる。


 突然暴風雨が吹き荒れたようになった。


 炎の竜巻がいくつも出現し、そこから稲妻が走って魔物たちを焼き尽くしている。別のところでは細切れになった魔物たちの破片が巻き上げられ、雨のようになっていた。


(これが勇者の力なのか)


 僕ははじめてそのすさまじさを実感した。


 ドラゴン戦のときとは比べ物にならない。


 僕たちは加速によって強くなっていたのは事実だったが、元々強い者を加速すれば、その力は果てしないものになるのだ。


 生きている数より死んでいる数が上回り、山のようになるまで、さほどの時間もかからなかった。


 アメリアたちが戻ってくると、それに呼応して三人組も集結した。


 全員が緊張していた。


 空気が変わった、とはっきり感じた。


 魔物たちは半狂乱となって、手近にいる仲間を手当り次第に襲いはじめた。


 遺跡の奥、広間の終わるところに、黒い球体が姿を現した。


「あれは……」


 ハヤトが愕然とした声をあげた。


「追いつかれた」


「なに?」


 カーンたちは目をしばたいた。


「なんだ、あれは?」


「……魔法使いだ。魔法使いの持つ球体だ」


 球体の後ろから、ローブ姿の人が、ゆっくりと姿をあらわす。


「あれが目標か」


 カーンが舌なめずりした。


「待て。一度引こう」


 僕はそう言ったが、彼は聞く耳を持たない。


「引いてどうする? むこうから来てくれた幸運をみすみす逃すのか? お前たちは引けばいい。ここは俺たちがやる!」


 三人組はうなずきあうと、混乱している魔物たちの最中に飛び込んでいった。


「カナメ、どうする?」


「……やむを得ない。加勢する」


 僕たちだけでやるより倒せる可能性は高まるのは間違いない。どちらにせよ戦わなければならない相手なのだ。


 魔法使いは僕たちの存在に明らかに気がついているはずなのに、まったく無頓着だった。三人組は魔物たちの死体の山を利用して身を隠し、距離を詰めていく。一気にやるつもりなのだろう。


 そのとき、球体の中にいくつか光点がぼんやりと浮かび、それがものすごい速度で回転をはじめた。


(なにをするつもりだ?)


 相手の能力がわからなすぎて、僕は判断に迷った。相手がなにかを準備していることは間違いない。そこに飛び込むのは危険だというのも本能的にわかる。しかしどの程度危険なのかがわからないのが怖い。


 三人組は、むしろ準備中の今こそチャンスだと考えているらしかった。ある程度の距離まで近寄ると、地面を蹴って攻めこもうと――いや、地面がたわんで彼らは飛び跳ねた。


 地面が波うっている。床だけではない。壁も天井も、それを支える柱も、風に吹かれた紙のようにペラペラとたわんでいる。


 その波は波紋のように広がり、僕たちの足元まで届いた。


 まるで薄っぺらいところに立っているかのようだ。力を込めて踏めば踏み抜けてしまいそうなほど弱く感じる。


 僕たちは押されるように通路に後退した。


 広間と異なり、通路は元のままだった。広間と通路の境目で、綺麗にわかれていた。


 そこまで下がってしまうと、魔物の山に隠れて三人組を見つけることが難しくなった。しかしリアンの魔法と思われる閃光がいくつか閃くのが見える。


「さっきと同じやりかたでいく。僕が加速するから、アメリア、ハヤト、リンの三人でやる。ガデムとネイはここで待機だ」


 ともぞうの容量にはまだ余裕がある。しかしどんなに容量が大きかったとしても、無駄に使い続ければ枯渇は避けられない。


「ここで決着をつける」


 皆はうなずいた。


 僕は呪文を唱えて、三人を加速させると、彼らはぱっと消えた。


 遺跡内部はいよいよ不安定になりつつあった。薄くなりつつある壁から色味が抜けて漂白されていく。そして山のようにあった魔物たちが、くずくずと崩れて床に飲み込まれはじめた。


 奥まで見通せるくらいにまで経ると、室内は色を塗る前の白い空間になっていた。


 魔法使いの周囲は赤色した火球がいくつも出現し、そのたびに大きな爆発が起こっていた。肉眼で見えるのはカーンとリアンの二人だけだったが、その周囲には四人の戦士がなんらかの攻撃をしているはずだった。


 次いで起こった現象に僕は目を疑った。


 床と壁、壁と天井の境目に切れ込みが入ると、まるで折り紙で作った箱を切り開いたかのように開きはじめ、その端から短冊状に切れていき、次々に細かくなって糸のようになるまで細くなり、それが気流のようにまわりこみながら魔法使いの球に吸い込まれていったのだ。


「おーい!」


 僕はパニックに近い焦りを感じて、魔法を維持するのがやっとなくらい焦って、この状況をどうするべきか考えた。


 ネイとガデムもヤバいと察したか、戻ってくるようしきりに叫んでいる。


 するとすぐに、三人は戻ってきた。


 が、三人組はまだ戦っているという。


 みるみるうちに空間がねじれ、広かったホールが魚眼レンズを通したように矮小化して、遠くにいたはずの魔法使いの姿が急速に迫ってきた。


「はやく逃げよう!」


 魔法が解除されて息を切らせたハヤトが、苦しげに言った。


「まだカーンたちが!」


 ネイが叫んだ。


「カーンはもう吸われた!」


「……は?」


 僕は聞き間違いを疑った。


「なんだって?」


 魔法使いが接近してくる。というより、奴はそもそも広間の入り口から一歩も動いてはいない。空間がこちらに迫ってきている。リアンの放つ魔法は、出現した瞬間に球に吸い寄せられていく。


「グウェンは……?」


「いいから、はやく逃げるぞ!」


 ハヤトに背中を押されて、僕は全員を対象に加速魔法をかけ――ようとした。いつもなら瞬時に切り替わるところが、間延びしたように加速していく。


 僕は魔力を意識してはじめて、自分の魔力が魔法使いの球に吸収されていることに気がついた。それは巨大な掃除機のようで、底なしの井戸に落ちこむ濁流のような勢いだった。


(まじかよ……!)


 僕たちは走り出した。

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