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 直後、ハヤトの姿は消えていた。


 アメリアが理解できていない顔で近寄ってきた。


「本当に大丈夫なのか?」


「問題ない」


 ハヤトが戻ってくるまでの暇つぶしに、僕がやったことを簡単に説明した。ネイはそれを聞きながらしたり顔でうなずいたりしている。


 聞き終わったあと、アメリアは大きなため息をついた。


「そんなことが……可能なのか?」


「ご覧の通りさ」


「……信じられん……」


「それに、コントロールのあまり必要ないレベルなら、複数同時にこなせるようにもなってる」


 何日も経った死者蘇生という精緻を極めた大変な行為を何十回と積み上げたことで、僕のコントロール能力は確実に向上していた。


 集中すれば、ともぞうが今どこにいるかも感知できるようになっていた。ハヤトはもうかなり深部に入りこんでいる――しかしあるポイントで止まると、そこから奥には潜らなくなった。


(最深部についたのか?)


 ずいぶんと浅い気がする。


 ハヤトは、最深部と思われる階層をかなり入念に動き回り、やがて戻ってきた。


 帰り着くまでにかかった時間は10分ほどだったが、加速状態にあるハヤトの主観時間では、1週間は経っていた。


「たっぷり調べてきたぜ」


 ハヤトは無精髭をはやした姿で、息を切らせていた。


 僕は記憶だけそのままに、身体的な時間を1週間戻してやる。痛みの激しくなっていた服が、十分前のときと同じ状態に戻った。


 ハヤトは若返る自分をまじまじとみて、


「やばいな。お前……」


 ポツリと言った。


「で、どうだった」


 ハヤトはうながされて、先の様子を話してくれた。


 話によると、ダンジョンが閉じはじめているのは間違いないらしい。最深部と思われるところには、空間を巻き込むようないびつな球体があり、それが周囲の構造物を飲みこんでいた。


 その周囲ではダンジョンの構造が目まぐるしく変わっており、もはや魔物がいるとかいうレベルを超えた場所になっているという。


 そしてその球体のそばには、薄暗いローブで全身を包んだ人間が立っていた。


 無防備な背後。


 ハヤトはダガーを構えた――と、そのとき、相手がこちら振り返っていることに気がついた。


(馬鹿な!)


 先ほどまで相手は背中を向けていたはずだ。通常より1000倍加速された時間の中においては、相手は1000分の1の速度でしか動けないはずである。しかし、ハヤトの認識を超えて、奴は気がつけばこちらを見ていたのだった。


 ハヤトは言いしれぬ恐怖感を抱いて、慌てて逃げ出してきた――ということであった。


「そういや、この先に三人組もいたぜ」


 彼らは遺跡の中で、ダンジョンの奥から出口に逃れようとする魔物たちの大集団と鉢合わせしていた。


「なるほど。だからかもしれないな」


 アメリアが突然つぶやいた。


「なにがだ?」


「ダンジョンは、冒険者がいるとき構造改変をしない特性がある。だから彼らのいる四階層が残って、誰もいない三階層が飲みこまれたのではないか」


 一理ある。でも、とハヤトは言った。


「魔法使いのいる空間は四階層から下を全部飲みこんでいた。たぶん四階層に着手されるのも時間の問題だぜ」


「となると、三人組をまず助け出さないといけないな。その上で全員で一階層まで後退する」


「見捨てる、という手もあるけど」


 リンがサラリと言った。


「大量の魔物と戦ってるんでしょ? なら助けるのにもリスクが高くなる。むしろギリギリまでそこで食い止めておいてくれたほうが、魔物たちも魔法使いに飲み込まれていいコトづく目じゃない?」


「確かにそうかもしれない。リンの指摘は間違ってない。でも……わかるだろ?」


 リンは肩をすくめた。


「結論が出てるのはわかってたけど、言ってみただけよ」


 僕はほかの皆を見回した。


「助けに行く。いいか?」


 全員がうなずいた。


「これから全員に加速をかける。全員スパイクを履いてくれ。加速されたあとは、ハヤトの先導で行く。はじめて加速されるリンとガデム、それとネイは、離れないよう気をつけてくれ」


「私はありますよ。加速されたこと」


 ネイは恥しそうに微笑んだ。


「……そうだっけ?」


「ほら、はじめてダンジョンであったとき……」


「ああ……そうだったな」


 確かはじめて魔法を使ったときのことだ。


 それほど時間が経っていないはずなのに、やけに遠い記憶のように思う。


 あの頃の僕とは違う。


 魔法の威力も精度も桁外れに大きくなった。


 全員がスパイクをつけ終わるのを確認して、僕は呪文を唱えた。


「時任要の名において命ずる。時よ、加速せよ!」

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