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 眩しい西日が顔にあたって、僕は意識を取り戻した。


 体を起こすと、薄手の毛布が肩からすべり落ちる。


 僕はあくびを噛み殺しながら、これからどうするかを考えた。稼いだ金のほとんどをカナタに支払ったとはいえ、しばらくゆっくりできるだけの貯金はあった。それが僕の心にかなりの余裕をもたせてくれていた。


 僕は顔を洗って無精髭をそって身支度を整えると、遅い朝食を取ろうと部屋を出た。


 すると、ドアのすぐ先にネイがいた。


「うわあ!」


 僕は予想外の出来事に変な声を出してしまった。彼女のほうは、ちょうどドアを開けようとしていたのか、片手を伸ばした格好で固まっていた。もう片方の手の上にはお盆が載っている。それにはサンドイッチがてんこもりになった皿が載っていた。


「あ、起きたのですね」


 ネイはそういう言って、僕の顔をじっとみた。


「ああ……これ?」


 自分の瞳を指差すと、ネイは不安げに小さくうなずいた。


「カナタさんから話は聞きました……副作用なのだと」


「飲みすぎでね。ドクターストップされちまったよ」


 酒とからめた冗談のつもりだったが、ネイには伝わっていないようだった。彼女は神妙な顔を崩さずに視線を落とした。


「それで大層落ちこんでいると聞いたものですから、なにかお力になれるのではないかと……」


 といって、持っていた盆を差し出してきた。


「ありがとう……ちょうど腹が減ってたんだ」


 玄関先で話すのも悪いと思った僕は、ネイを部屋に招き入れると、二人分の飲み物を作った。


「ここも、ほら、こんな感じになっちゃった」


 八重歯が伸びて犬歯のようになっている歯を見せてやると、ネイの表情はいよいよ深刻さを増した。僕はその牙でパンの表面に溝をつけてへたくそな絵を描いてみせたりしてみたが、まったく効果はなかった。


「……気にするなよ。ネイのせいじゃないから」


 僕はついに耐えきれずにそう言った。


「その症状は……治るのでしょうか?」


「どうだろうな。カナタさんもはじめて見るみたいなこと言ってたし」


「……大丈夫なのですか?」


「これ以上薬を飲まなければ悪化はしないみたいだし、今ほかの方法を考えているところなんだ。そうだ……」


「いえっ」


 とネイは彼女らしからぬ声を出した。


「そういうことではなくて、見た目が変わってしまって、ショックを受けられているのではないかと……」


「ああ……」


 僕はサンドイッチにかぶりついた。


 最初こそは悲観もしたが、これはこれで悪くはないと思い直していた。猫みたいな瞳はかっこいいし、牙も……これはサンドイッチのパンがやたら挟まって食べにくくはあるが、まあ悪くはない。


「別に。むしろパワーアップした気分だよ」


「パ、パワーアップ?」


 ネイは目を丸くした。


「そう。力をつけて見た目が変わるってのは、僕が元いた世界ではよくあることなんだ」


「そ、そんな世界から来られたんですか」


「そうそう」


 僕は内心楽しみながらうなずいた。


 ネイの頭が混乱している様子を眺めていると、ようやく結論が出たのか、表情がいくぶん穏やかになった。


「それなら……よかった、です」


「それより、相談したいことがあるんだけど」


 僕はすばやく話題を切り替えた。


「実は薬を使わずに魔法を使い続ける方法を研究してるんだけど、どうしてもやり方がわからないのがひとつあってね」


 早口でまくしたてると、ネイはそちらに注意がむいたのか、緊張していた顔が素に戻った。


 そこで僕は、昨日三人組と会ったあとの出来事を話して聞かせた。


「それで、ともぞうに魔力を供給するタイミングをコントロールできれば、魔力を無限に貯められるんじゃないかと思っているんだけど、タイミングをズラすことって可能だと思う?」


 ネイは眉間にシワを寄せて、頭をひねった。


「うーん……できなくはなさそうな気はしますけど……。そんなこと、考えたこともありませんでした」


「なんでもいいから、アイディアがほしいんだ」


「たとえばですけど……」


 ネイはそう言うと、自身の使い魔であるカイを出現させた。


「こうやって使い魔を出したり消したりするのって、魔力を外に出したり、中に入れたりしているわけですよね。使い魔は魔力の塊なので」


「そうだな」


「ということは、ですよ。私たちは魔力の動きをコントロールできるわけです。実際に魔法を使うときも、その流れを感じることができるはずです」


「ふむ」


「もしその流れを止めることはできないとしても、同じ場所でくるくる回すとかしたら、それは結果的に使い魔に供給される魔力のタイミングをズラすということになったりしないでしょうか?」


 なるほど――僕はこのアイディアを検討してみた。


 足元で寝ているともぞうと、僕の間には見えない魔力供給のパイプがある。それを増長させることができれば、ともぞうに魔力が到達する前に事を済ませることができるかもしれない。


 問題はパイプを伸ばす方法だ。


「どうすればできるんだろうか」


 ネイはカイの背中をなでると、おもむろに毛を一本抜いた。もちろんそれはただの毛ではない。魔力によって形作られる使い魔の毛だ。


「こんなふうに、使い魔を分割したら、手元のほうに先に魔力はいってくれたりしないでしょうか」


「……なるほど」


 僕は深くうなった。


 物は試しだ。


 ともぞうをなでまくって、大量の毛を採取した。毛の総量だけでいえば、ともぞうくらいの大きさはある。


 そして念の為、ともぞうを部屋の隅に移動させ、自身はその毛を抱えて持った。


 これだと、魔法を使ったとき、どちらから先に消費されるのだろう。


 実際に使ってみると、ともぞうが輝きがわずかに落ちた。ということは、使い魔には本体と付属物という区分けがあり、魔力は本体のほうから消費されるのだ。


 ただそうすると、魔力供給も本体が優先になるのではないかという疑問が残る。そこで僕は、自然回復でどちらに魔力が貯まるのかを試してみた。


 ともぞう本体の魔力を使って自分自身を加速させ、僕から魔力生成される時間をはやめたのだ。


 するとどうだろう。


 ともぞうの光が薄くなる一方で、僕の抱えている毛は輝きを増したのだ。


 僕は成功を予感して高揚してきた。


 状況を整理しよう。


 まず、使い魔をメインとサブに区分けする。総量が10だとしたら、メインが8、サブが2といった具合だ。そして、サブを手元においたまま、加速魔法を自分にかけて、魔力を生成する。その魔力はサブに貯まる。魔法を使った魔力はメインから引き出されるので、だいたいメイン4、サブ3みたいになる。次に、メインの残った魔力で、メインだけの時間を巻き戻す。そうするとメインの魔力はリセットされるが、サブの保有する魔力はそのままだ。


 その両者を合体させれば、総量が増える!


 僕は小躍りした。夢中になっていたので気が付かなかったが、外はもう夕焼けになっていた。ハッとして見ると、ネイが机につっぷして寝ていた。


 すっかりネイのことを忘れて没頭していたのだ。


 僕は床に落ちていた毛布をひろいあげると、それをネイにかけてやる。それでふと、


(この毛布を僕にかけてくれたのは誰だったんだろう)


 という思いがよぎった。


 ――ネイがもしかけてくれていたのだとしたら……。


 僕は彼女の頭をなでると、


(ありがとう)


 と心の中でつぶやいた。

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