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 僕は意識を集中させて、炭化している遺体に手を置く。


 最初はゆっくりとやる。


 保有する魔力が入った水差しをゆっくりと傾けるイメージ。その先端から魔力の水が細い筋を描いて注ぎ込まれる。水差しそのものは半透明で、気合を入れて見ないと中身がどのくらい残っているのかわからない。しかし目を凝らしている余裕はないため、感覚と目分量だ。


(これくらいか?)


 というところで、対象を自分に切り替え、魔法に費やした時間分(これも適当だ)巻き戻す。


 僕は言いようのない吐き気に襲われて激しく咳き込んだ。


「大丈夫か!?」


 三人組が心配そうに声をかけてきた。


「……成功した」


 僕は喉に詰まったものを吐き出しながら言った。


 成功した。


 魔力の充実を感じる。


 しかし、このとき感じた反応は――まさに拒絶だった。


 想像してみてほしい。


 口いっぱいに含んだ水を唇をすぼめてほそぼそと出しながら、同時に新しい水を吸うようなものだ。実際のところは、それをさらにひどくしたものなのだった。


 こんな芸当ができるとはとても思えなかった。ましてや、戦闘中になどと。


 僕は時々激しく咳き込みながら、そのことを伝えた。伝えたところで、彼らは首をひねるばかりだった。


 しかしともあれ成功したのは間違いない。あとはこれに慣れることがてまきるかどうか、という、実に個人的な問題に収束しただけのことだ。絶望的な状況からは脱したといってもいいだろう。


 三人組にお礼を言って帰すと、僕はこの問題に集中する覚悟を決めた。


 それから数時間かけて繰り返してみたがあまりに吐きすぎて血が出てきてしまったところで、痛みと疲労で身体をまったく動かせなくなってしまった。


 ここまで苦労して、やっと数回分の魔力回復ができただけだった。薬ならほんの数秒でできていた作業だ。これなら、ヤク中になっね見た目が化け物のようになったとしてもいくぶんマシだとすら思えてくる。


 ちょっと休むつもりで目を閉じ、次に目を開けたときには外は夜になっていた。身体は少し楽になっていたので、外に井戸で頭から水をかぶり、汚れてしまっていたところを洗った。そうすると思考もおだやかになってきて、空腹を感じるまで戻ってきた。


 僕は適当な服に着替えてから荒れた胃に優しいものでも食べようと、通いの飲食店へと向かった。


 そこで頼んだ薬効スープをすする。舌が馬鹿になって味はわからなかったが、傷ついた胃にはよく効きそうだった。


 そうして改めて見回すと、飲食店はここ最近では見られなかった繁盛っぷりだった。ドラゴンが倒されたことでダンジョンへ再び潜るようになった人たちが、ガツガツと食い漁っていた。


 彼らの傍らには、青白く光る使い魔が机の脇でおとなしく座っている。種類は様々だった。犬猫も多いが、鳥やよくわからない小さな四足動物など、バリエーション豊か。


 そういえば僕の使い魔であるともぞうと、長らく触れ合っていなかっとことに気がついた。その直後には、この優しい猫は僕の膝の上で寝ていた。


 僕はともぞうの背中をなでて、首すじをかいてやる。


 疲れたりしていたとき、こうして癒やされていたのを思い出した。


「お前がいてくれて助かったよ」


 僕の声にともぞうは顔を上げたが、興味がないのかあくびをして再び眠りの態勢になった。


 僕はともぞうの身体をなでながら、なんとなしに使い魔という存在に思考が移っていった。


 使い魔は魔力の貯蔵庫だという。


 人の持つ魔力は少ない。だから使い魔に貯めて、それを使って魔法を使う。いわばバッテリーのような存在ということになる。


 僕はふと、この原理は使えるんじゃないかと思った。


 つまり僕自身を巻き戻すのではなく、ともぞうを巻き戻せばいいのではないだろうか。


(これは、いけるんじゃないか?)


 それだけではない。僕は別の利用法も思いついた。


 僕は急いでスープをたいらげると、蘇生屋まで走って帰った。


 消えてしまうのを見るのが嫌で、なんとなく出していなかったともぞうを台に載せて、蘇生途中だった遺体に向かう。


 今までは自分の中にある魔力を使っていたイメージだったが、ともぞうが外にいるため、そこから魔力を引っ張ってくる形になる。そして手頃に消費したところで、ともぞうをターゲットにして時間を戻す。


 ともぞうの消えかかった光が輝きを増す。


 彼はキョトンとしていた。


 魔力は戻っている。


 僕は成功を確信した。


 さらに僕は、思いついたことを試してみることにした。


 使い魔は術者の魔力を溜め込むことができる。だとしたら、僕の時間を加速させれば、ともぞうの保有する魔力量は増えるのではないだろうか。


 ただこれを実行するためには、複雑な手順が必要だった。僕の供給する量より加速するのに消費する魔力が大きければ、収支は結果的にマイナスになってしまう。


 だからともぞうの時戻しも併用して、総量を増やさなければならない。しかし、ダダ漏れのままともぞうに魔力を吸い上げられてしまうと、せっかく増やそうとした総量もリセットされてしまう。


 つまり、こういうことだ。


 今僕の持っている魔力の総量を10としよう。


 僕は自身を加速させることで+1の魔力を生産できるが、そのためには魔力を3使ってしまう。だから単純にやるだけだと、10-3+1=8となり、使えば使うほどマイナスになるだけだ。


 しかしここで、ともぞうの時戻しと、僕の魔力供給のタイミングをズラせたとしたらどうだろうか。


 一度10-3で僕を加速させて+1を生産したあと、それがともぞうに供給される前に、時戻しで10の状態に戻すことができれば、10+1で11の総量を実現できる。


 そのためには、術者の魔力供給が行われる条件がわからなければならない。逆にいえば、それさえなんとかなれば、鬼に金棒どころの騒ぎではなくなってくる。準備さえしっかりすれば、戦闘中の複雑で神経を使うコントロールをしなくてもよくなるのだ。


 僕はそれから夜通しやり方を模索していたが、朝方には力尽きて意識を失うように寝てしまった。

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