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会議が解散したあと、『蘇生屋』に戻った俺のもとへ、ネイが一人で訪ねてきた。
僕は作業の手を休めてネイに椅子をすすめると、自分も腰掛けた。
「無理を頼んで悪かった」
ネイは目をパチクリさせた。
「い、いえ。むしろ、パーティーから外されると思ってましたから……。ありがとうございました」
「外すわけないだろ。むしろ、来てくれて嬉しかったよ」
ネイは頬を赤らめた。
「そ、そうですか?」
「全然来なかったし、状況が状況だろ。軟禁状態になるんじゃないかって」
「まさか。むしろ、いっそどこかに行ってほしいと思われてるくらいで……」
僕は居住まいを正した。
「あのさ。こみいった話を聞いてもいいか?」
「は、はい?」
「君はさ、王族……なんだよな?」
「そうです……。アメリアからなにか聞きましたか」
「いや。ただ、王族は魔法を使えない人がなるって聞いてたから。ネイは魔法が使えるだろ」
ネイは膝の上で自分の指をもてあそぶように視線を落とした。
「別に、そんな深刻な話というわけではないのですが……。私は国王の娘として生まれながら、魔法を使えてしまったのです」
「それって、そんなにまずいことなの?」
「魔法を使えない者同士の子供は魔法が使えないのが普通なのです。だから、私が生まれたことで王宮はかなり紛糾しました」
(なるほど)
僕はうなずいた。
「それで、王族から外すこともできず、かといって王族を継ぐわけでもない……そんな感じです」
笑顔を作ったネイの表情は暗かった。
「だから、賞品みたいな扱いを受けているのか」
「そうかもしれません。でも、いっそそういう扱いされたほうが、曖昧な状態で置かれるより、ずっといいと思いませんか?」
そういうものなのだろうか、と僕は思った。特に肯定も否定もなかったが、彼女の境遇に同情しているのは事実だった。
「……そうかもな」
「でも、私、いろいろ調べて、わかったことがあるのです」
「どんなこと?」
「なぜ王族が魔法を使うことができないのか……魔法大戦の頃の記録までさかのぼって調べてみたんです。そしたら、元々は封魔の魔法を持っている人々が、魔法使いと戦うときに大活躍して、それで今の地位に落ち着いたらしいってことがわかったのです」
「ふむ? つまり、魔法が使えないんじゃなくて、魔法を封じこめる魔法が使えていた人たちってこと?」
ネイはうなずいた。
「どこかの時代で、その人たちは自分の魔法も封じてしまったのでしょう。それで、魔法が使えない一族が現れた……」
「でも、君は魔法が使える」
「そうです」
ネイの表情は再び暗くなった。
可能性としてはふたつ。
ひとつは、封魔の力とやらが弱まったのかなんらかの作用があって、ネイが先祖返りを起こしたケース。
もうひとつは――ネイはこの可能性があるからあまり口にしたくないんだろうが――王妃が国王とは別の誰かとつながって、その子供がネイだったという可能性。
しかしアメリアの話によると、稀に人々の中から魔法の使えない人が出てくることもあるという。ということは、その逆もまたあり得るのではないだろうか。
こういうとき、僕は彼女にとんな言葉をかけるべきなのだろうか?
優しい、気の利いたセリフのひとつでも言うか、いっそ話題を変えてしまうべきか。ただ残念なことに、今の僕には、そのどちらも思い浮かばない。
落ちこむ女性を前にして、なにか言わなければと頭は理解していても、なにも言葉が出てこなかった。そこをなんとか振り絞って、やっと一言言えた。
「そうか。大変だったな」
ネイは僕を見上げるように顔をあげた。なにかを期待しているのだろうか。僕はうろたえて、真っ白な頭のまましゃべり続けた。
「でもそのおかげで僕たちはこうして出会えたわけだし、それでトントン拍子に魔法使いを倒して、僕と結婚するはめになったら、それこそもっと大変だよな」
なにを言っているんだ僕は。僕はヘラヘラ笑いながら立ちあがった。そのまま回復薬のしまっている棚に向かって、無意味にガチャガチャやりながら言った。
「さてと。なにはともあれドラゴン倒さないとな。ネイには申しわけないけど、ドラゴンの弱点をなんとか聞き出してくれよな」
「……わかりました。頑張ります」
ネイはそれだけ言うと、部屋から出ていった。
ドアがしまる音がすると、僕は無駄な手を止めて、ドアの向こうに耳をすます。
分厚いドアのせいで、残念なことにネイの気配はわからなくなっていた。
僕はどっと疲れて椅子に座ると、深いため息をついた。
「……取らぬ狸の皮算用」
僕は頭を切り替えると、また棚に向かった。




