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 大口を叩いてみたはいいものの、一度死んだら終わりの世界だ。策もなく突撃するのはまっぴらごめん。


 なにはともあれ、情報を集める必要があった。


 まず肝心なのは、ダンジョンに出現するモンスターの攻略方法だ。これを知っているか知らないかはダイレクトに生死に直結する。


 それに下の階層がどうなっているのかも知っておく必要がある。それによってどんな装備を持っていく必要があるのかを見積もるのだ。


 一階層に本来三階層にいるドラゴンが出てきたということは、二階層には四階層のやつが出てきてもおかしくない。


 これは、強敵とはやい段階で鉢合わせする可能性があると見るむきもあるが、僕は違うと思っている。下まで降りずとも、下の階層の魔物と戦える好機だと考えているのだ。


 帰りやすく、数も少ない環境で十分戦い方をおぼえることができれば、下の階層で出会っても対応はしやすくなる。


 今回のドラゴンは好例だ。


 なんの準備も知識もないまま三階層であいつと出会っていたとしたら……。一階層だからすぐに撤退できたのだ。この好機を逃してはならない。


「というわけで、これから作戦会議を行う」


 僕はテーブルを囲む一同を見回しながら言った。


 アメリア、ハヤト、リン、ガデム……そしてネイ。


「なんでお前がここにいるんだ」


 ネイは照れたように笑った。


「ダメ……ですか?」


 僕は返答に困ってしまった。


「ダメというか……いいのか? これは」


 アメリアに話をふると、彼女は神妙そうにうなずいた。


「こういう御方なのだ。察しろ」


 僕はため息をついた。ネイは申しわけなさそうに縮こまり、ほかの人間は黙って僕の反応をうかがっている雰囲気だった。


「まあ……人は多いほうがいいからな。それに回復魔法を使える人材は貴重だ」


 ネイの表情が明るくなった。


「では……!」


「ああ。ネイ。よろしく頼む」


 ネイは立ちあがると、リンとハイタッチをして喜びあった。


「いやー、よかった! よかったよ!」


 リンが我が事のように喜んでネイと抱擁をかわしている。


「そんなに喜ぶようなことか?」


 僕がツッコミを入れると、リンはすかさず反論してきた。


「だってお前、生真面目を塗りたくったような顔してるから、なんだかんだ理由をつけて外そうとしてくるんじゃないかって話してたんだよ」


「き、生真面目!? 僕が?」


「なあ、そうだよな?」


 ガデムはリンにそう聞かれて、リンと僕とを交互に見てから、顔をうつむかせて小さな声で、


「そうですね……」


 と答えた。


「ほらあ!」


 その数十倍もでかい声でリンがはやしたてる。


「ほらあじゃねぇよ! 無理矢理言わせてるじゃねぇか!」


「……無理矢理言ってないよな?」


 リンはガデムの首に腕を回すと、締め上げるように言った。


「そ、そうですね……」


 羽交い締めにされるガデムは、苦しそうにしながらも、心なしか口元がニヤけているのを僕は見逃さなかった。


(こいつ……策士か!?)


 ガデムはとにかく無口で、おとなしい少年に見える。


 年はリンと同じくらいかもう少し下か、幼そうな雰囲気がある。しかし、パーティーで貴重なタンク――前線で敵の攻撃を引きつける役――なのだった。


 ネイのパーティーは、よくよく考えるまでもなく構成がいびつだ。


 四人いるうちガデム一人だけが前衛で、残りは後衛という組み合わせなのだ。


 リンは典型的なレンジャー兼シーフであり、ネイはプリースト。それではハヤトは何者かというと、本人いわく『忍者』なのだそうだ。だからといって鍵開けができるわけでもない。能力がそれっぽいから、というだけで名乗っているにすぎない。


 補足しておくと、ネイにせよリンにせよ、そういうクラスに所属しているわけではないし、そんなものも存在しない。あくまで僕が便宜上そうラベルを貼っているだけだ。


 それゆえにパーティー編成も特にこれといった定石もなく、気のあった仲間と各々話し合って分担する、というのが普段の流れらしい。


 とはいえ、このパーティーにおいて、魔物の攻撃をまともに食らって守りきれそうな装備をしているのはガデムしかおらず、話し合って役割を決めるまでもなくガデムしかいないのだった。


(痛いのが好きなのか……?)


 僕の脳裏にそんな疑惑がよぎったのを、頭をふって払った。


「おい、話を続けるぞ」


「へいへい」


 リンがしぶしぶ離れると、ハヤトが今だといわんばかりに口を挟んだ。


「ちゃんと聞けよ。話が終わらないだろ」


 とリーダー面でいう。


(……小学生か、こいつらは!)


 僕は頭をかかえたくなるのを抑えながら、咳払いして気分をあらためてから話を続けた。


「僕たちの最初の目標。それはズバリドラゴン討伐だ。例の三人組よりはやく、一階層のドラゴンを僕たちの手で倒す。それが当面の目標だ」


「理由は?」


 リンが尋ねた。


「脅威を別のやつが排除してくれるなら、なにもあたしたちがやることはないんじゃないの?」


 もっともな意見だ。そこで僕は、考えていたことを皆に話した。


 最終的な目標は魔法使い討伐であること、そのためには下層の敵と戦うことになれておかなければならないこと、一階層という逃げやすい段階で戦えればリスクを低く抑えられること……などを語った。


「魔法使いを倒すためには、ドラゴンよりも強力な魔物とも戦うことになるだろう。ドラゴン程度余裕……といえるくらいにはならないといけない」


 レベルのない世界では、ここまでやれば確実にできる、というボーダーを引くのは難しい。ならば持ち得る手段をすべて使って、全力で戦い続ける必要がある。一瞬の油断が死につながるのだ。


「そのためには、念密な連携が必要になる。個々が好き勝手にやるのではなく、ある程度パターン化したセットプレイで戦うんだ」


「その練習をドラゴン相手にやるというのだな」


 アメリアが言う。僕はうなずいた。


「まずは情報収集だ。ドラゴンの弱点を割り出して、そこを効率的に集中攻撃するためのセットプレイを構築する。皆にはそれぞれ準備の任務にかかってもらう」


 そのとき、ハヤトが手をあげた。


「準備するのは賛成だけどよ。時間かかると、あの三人組に先にドラゴン倒されちゃうんじゃないの?」


「そこが問題だ。時間がないのは間違いないが、準備をおそろかにするとそれはそれで危険だから……」


 僕がしどろもどろになりかけると、今度はアメリアが手をあげた。


「そこに関しては、ある程度余裕はあると思っている」


 視線がアメリアに集まった。


「どういうことだ?」


「あの三人組は、我ら入口警備隊でも有名な連中でな。とにかく目立ちたくてしようのない奴らなのだ。今はまだ、冒険者たちの持ち金があるが、段々困窮してきた人々から、はやくドラゴンを退治してくれ、という声が上がってくるだろう。そうして注目を集めた上で、意気揚々とダンジョンに向かうのがあいつらの手口なんだ」


(それだけの余裕があるのか……)


「アメリアは、あとどのくらい猶予があると思う?」


 アメリアはあごをなでながら、少し考えた。


「ドラゴンが一階層に出現してからもう一週間経つ。冒険者はだいたい十日くらい分の貯蓄しかないのがせいぜいだから、あと二、三日もすれば声が上がり始めるだろう。それが十分大きくなった頃合いとなると、恐らく四、五日後といったところか」


「ギリギリだな……」


「なんとかできますか……?」


 不安そうな顔でネイが僕をうかがっている。


「手荒い方法になるが……ネイ、頼みたいことがある」


「は、はい! なんでしょう!?」


「あの三人組の誰でもいいから、接触してドラゴンの弱点を聞き出してくれ」


 一同がざわついた。


「ネイ様にそんなことさせられるか! 生贄に送るようなものだぞ!」


 こめかみに血管を浮かべたアメリアが怒鳴った。


「時間がないんだ。それなら、実際に倒したやつに聞くのが一番早い」


「そんな重要な情報など、ペラペラ話すわけがないだろう!」


「だから、ネイなんだよ」


 アメリアは息を呑んだ。


「ネイはこのレースのいわば景品だ。それが自ら言い寄っていけば、奴らにとって悪い気はしないはずだ」


「馬鹿な! ありえん! ネイ様は物ではない!」


「……いいえ、やります」


 ネイが声をあげた。室内は静まり返った。


「これから命がけの戦いに行こうというときに、この身体のひとつやふたつ、差し出せなくてなんになりましょう!」


 その声は震えていた。アメリアはネイのもとへと駆け寄ると、その手を握ってひざまずいた。


「ダメです。姫様。あんな世迷い言を聞いてはいけません」


「アメリア……ありがとう……」


「盛り上がってるところ申しわけないんだが……」


 僕が口を挟もうとすると、アメリアが飢えた肉食獣のような顔で威嚇してきた。


「言葉を慎め! 愚弄め!」


「いやいや、待て待て。別にそういうことをさせるつもりなんじゃない」


「あの女たらしで有名なところに送りこんで、なにもないわけがない!」


 僕は懐から瓶を数本取りだすと、机の上に置いた。


「これは強力な睡眠薬と自白剤が入ってる。一口でも飲ませれば、聞かれたことはなんでも答えるやばい代物だ」


 アメリアとネイはキョトンとした顔でその瓶を見つめた。


「ハヤト」


 僕は今度はハヤトをふりかえった。


「俺?」


「お前はあの影に潜るやつで、ネイのあとをついていくんだ。それですきをついて、三人組の飲み物にでもこいつを入れてくれ」


「なるほど。忍者らしい任務だな」


 アメリアはふくれ面で腕を組んだ。


「それならば、三人同時より、誰か一人のときのほうがよかろう。一人でも飲まないと問題になる」


「確かに」


 俺はうなずいた。


「ネイ。一人だけ誘い出すことはできるか?」


 ネイは力強くうなずいた。


「やってみせます!」


「ネイ様……私もお供します」


「ダメだ。アメリアは、王宮図書館でドラゴンを含めたモンスターの情報を集めてくれ」


「し、しかし……!」


 抵抗するアメリアの手をネイが握った。


「アメリア……どうか頼みます」


「……はっ」


「あとは……リンとガデムは、ダンジョンに潜るための装備を調達してもらいたい。金はここにある」


 ずっしりと重い袋を、机の上に放り投げた。


「薬といい金といい、いつの間に仕入れてきたんだ」


 ハヤトが不審そうに聞いた。リンは袋から金貨を取りだすと、本物かどうか確かめている。


「スポンサー様だよ。伊達に前職営業やってないっての。プレゼンなら任しとけ。ま、失敗したらヤバいけどな」


 出費はドラゴンの売却益で償却することになっている。だからこそドラゴンはなんとしても倒さなければならなかったが、そのことは黙っていることにした。


「出発は明日だ。明日は予行練習だと思ってくれ。ドラゴンを倒す必要はない。相手の動きをよく見て、安全に立ち回ることを最優先にする。明後日それを踏まえて準備を整え直し、明々後日が本番だ。そこで確実に倒す」

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