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 あの日から一週間経っても、ネイは現れなかった。


 僕は完全に肩透かしを食らった格好だったが、おかげで準備は滞りなく進んだ。


 カナタが冒険者ギルドにかけあって、回復屋の隣に併設する形で、『蘇生屋』をオープンさせたのだ。


 オーナーは僕。


 転生してから一ヶ月もたたないうちに店持ちになってしまった。


 しかし僕がそうしている中、ダンジョン事情は停滞していた。


 ドラゴンが一階層にいるという話は、冒険者たちを萎縮させるには十分すぎる情報だった。誰かがドラゴンを退治しない限り、ダンジョンには入れない――冒険者ギルドでは、毎日のようにそんな会話がなされている。


 とはいえ、冒険者たちはダンジョンで生計を立てている身だ。ハヤトたちほど貧しくないにせよ、収入がなければジリ貧は避けられない。


 誰が命がけでドラゴン討伐に行くのか。見えないチキンレースを開催しているようなものだった。


 最初こそニコニコ顔で準備を手伝ってくれたカナタも、日が経つにつれて眉間にシワが寄るようになり、口では言わないもののかなりのプレッシャーを感じるほどになっていた。


「お金が入らないと、いつもああなるんですよ。気にしないでください」


 とは受付嬢の話だったが、居心地の悪さといったら最悪だった。


 言い方は悪いが、僕の仕事は人が死んでくれないと成り立たない。冒険者たちがダンジョンに入ってくれないと死んでくれない。しかも仮に行くとなったとしても、手持ち資金の少ない連中では、高額な蘇生料を払えるとは限らない。八方塞がり状態だった。


 そんなやきもきしていた昼下がり、蘇生屋の戸を叩いて騎士が入ってきた。


「カナメ殿ですな?」


「はあ」


 騎士は兜を脱ぐと、やたらとかしこまったおじぎをした。


「王が転生者たちに呼集をかけております。恐れ入りますが、ただちに登城ください」


「僕も?」


「王都にいる転生者は例外なく全員登城するようにとの仰せです。ただちに準備をお願いします」


 準備と言われたところで、特に持っていくものがあるわけでもない。そのままの格好で騎士について城へ向かう。


 玉座の間に通された僕は、立ち並ぶ人の多さに驚愕した。


 広い間には隙間なく人がいる。数百人は優にいるだろう。


(これが全部転生者なのか……)


 年齢層も幅広い。一番多いのは青年だったが、老人も、子供までいる。


(いくらなんでも節操がなさすぎだろ)


 悪態の一つでもつきたい気分にさせられた。


 どうやら、僕たちをここに送りこんでいる神かなにかは、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとでも考えているらしい。


 今更ながら、事務的な対応しかしなかったあの男に軽い殺意を覚える。


 そんなことを考えていると、ファンファーレが鳴りひびいた。それまで騒がしかったのがピタリと止まる。


 大臣なのだろうか、玉座の脇に控えていた老人が前に進み出ると、朗々と響く声で語った。


「転生者に告げる! こたびは火急の呼集に応じてくれたこと、誠に感謝いたす! この世ならざる生まれのそなたらよ! まさに今! 我らはそなたらの力を必要としている!」


 老人は周囲を一度見渡すと、再び口をひらいた。


「すでに知っているものもあろうが、ダンジョンの一階層に入りこんだドラゴンは、もはや我々の手に負える存在ではない! 勇気あるものたちよ! 勇者よ! 我らをお守りしたまえ! ドラゴンを打ち倒し、ダンジョンの奥底に身を隠す魔法使いを倒したまえ! 魔法使いを倒した者には、未来永劫受け継がれる勇者の称号と、我らが王の愛娘、ネイ殿下、ならびにカシュー殿下のいずれかと婚姻をかわし、王族へと迎えることを約するものである!」


 袖からしずしずと出てきたのは、豪勢な服に身を包んだネイと、やっと小学生になったのかな、と思われるくらい幼い男の子だった。


 しーん。


 誰もが押し黙っていた。


 そのとき、前のほうで床の石畳を破壊する勢いの音が響いた。


「俺たちに任せてもらおう!」


 視線がいっせいに集まる。


「おお、そなたら!」


 老人は両手を広げて、そいつらを壇上に招いた。


 三名の見るからに屈強そうな男たちだ。


「名を名乗りなされよ」


 うながされると、背丈ほどのある大剣をかついだ男が、胸を張っていった。


「カーン・フィッシャーだ!」


 続いて、その隣は、巨大な三角帽子をかぶっている。


「リアン・ウォンです」


 さらにその隣りにいるのは、白銀の軽装鎧を身につけ、褐色の肌が際立って見えた。


「グウェン・イングッド。インド人でした。よろしくお願いします」


「この者たちは、すでに三階層に到達した実績のあるパーティーである! 勇者たちよ! ドラゴンならびに魔法使い退治! なにとぞお頼み申す!」


「任せとけ!」


 カーンが自信満々といった様子で胸を叩いてみせる。


 僕は鼻をならした。


「やたら自信ありげだな……」


「彼らはドラゴンを倒した経験があるからな」


 いつの間にか、隣にアメリアが立っていた。僕は思わず声をあげてしまう。


「うおっ! な、なんでここにいる!?」


「お前に話があってな」


 彼女は人目を避けるように、僕の袖をひいた。


「詳細は別室で話そう」


 そこで僕はアメリアと玉座の間を出て、一室へと通された。

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