熱いときには水浴びがしたいけど、だからって全身浸かりたい訳じゃない
大変お待たせ致しました。
お待ちかねの5話投稿です。
「……!……!!」
とても遠いところから、誰かが私を呼んでいる?一体誰が。
私はもう、誰とも時を同じくしていないのに。
「……!……キ!シキ!!」
まだ声が聞こえる。一体誰が呼んでいるんだろう。私を知る人間は誰もいないのに。
……そう。私は誰からも忘れられ、一人で生きてきた。人間に知り合いなんて――。
ん?そういえば、人間じゃない誰かがいたような?誰だ?あれは……。
そうだ!
「魔王さん!」
暗い眠りから覚めると、私は知らない部屋にいた。
左手が暖かい。魔王さんだ。ずっと握っててくれたのかな。
私が目を覚ましたからか、その碧い目には涙が浮かんでいる。
「おはようございます、レイくん」
「全く、何が『おはようございます』だ。本気で心配したんだからな。門を開けた途端に倒れるし、ずっとうなされてるし」
「だからごめんなさいって言ってるじゃ。『もう大丈夫』『心配掛けないから』」
ホントは大丈夫じゃないけど、自分に暗示を掛ける。
「さっきもそう言って倒れただろ?無理すんなよ。まぁそんなに飯食えるなら大丈夫だろうけど」
「心配してくれるてんですよね?それ」
「さあな」
「レイくんのくせに意地悪ですねー」
二人して笑ってる、なんて楽しいんだろう。こんな朝があるなんて思いもしなかった。
魔王さんもこんなにも人間らしくなって……やっぱり若い子は成長が早いね。
「ごちそうさまでした。マスターさんのカレーはホントに絶品ですね。毎週食べたいくらいです。」
「ありがとうございます。そういえば昨日言っていた遺跡は見付かりましたか?」
あれ?レイくんなにも言ってなかったのかな。あ、でもなぁレイくんにも何も言ってないから説明しようがないのか。
「遺跡は見付かりましたが目当てのものはありませんでしたね、中身が空っぽでした」
「……そうですか。スミマセン、私の情報も無駄でしたね」
「いえいえ、そんな無駄ではないですよ。中身がなかっただけで手掛かりはありましたし」
「手掛かりなんてあったのか?ぱっと見なにも無かったが」
手掛かりは確かにあった。私にしか感知できない手掛かりが。
けど、それはまだ魔王さんにも言えない秘密だ。きっとすぐに分かることだけど、もう少しだけ。
「では、そろそろ私たちは次に行きますね。お世話になりました」
「お、おい!もう行くのかよ!スミマセン、ありがとうございました。待てよシキ!勝手に行くなって!」
「ねぇ、レイくん。オアシスの水ってキレイだよね。この世界のどこの水よりも澄んでいて、水底まではっきり見えるよ」
「そうだな。俺は海の水くらいしか知らないけど、確かにあれよりは澄んでるな。それがどうかしたか?」
「うん。多分ね、ここに求めてるモノがいる」
「は?ここに?お前が探してるのは昨日の"門"だろ?」
「ちがうよ。"あれ"はただの門であり通路。本当の目的はその最奥に眠るモノ。そしてどういう訳か、その本体がこのオアシスに眠っている」
レイくんはいまいち分かってないみたい。まぁ仕方ないよね。私も感覚でしかないから断言はできないし。
「付いてきてくれる、レイくん?」
少し不安だけど、きっと彼なら手を取ってくれると信じて手を差し出す。だって彼は……。
「当然だろ。俺はお前の護衛で、願いに応える男だからな」
だって彼は、こういう魔王だから!
「じゃあ行くよ、レイくん!準備はいい?」
「ああ!」
その気味の良い返事を聞いてから、私は魔法を唱える。
久しぶりに唱える呪文、緊張するけどきっと大丈夫。昔は出来なかったけど、今は違う。
「『世界を満たす水の王、我が命を以てその身を充たせ』」
今は、私を信じてくれる仲間がいるから!!
「『世界を呑み込み、我らを汝の胎へと誘え』」
直後、私たちの目を眩いほどの蒼が襲った。
目を開くと見渡す限りの水と揺らめく太陽。どうやら海の中にいるらしい。呼吸は問題ないようだ。
他にも、もがき苦しむ生物や愉快に泳ぎ回る骨や遺骸。そして巨大な龍の姿があった。これが星隷の世界か。
とりあえずは成功したけど、喜んでばかりはいられない。問題はここから。星隷は私たちの話を聞いてくれるか。
「シキ、ここからはどうするんだ?」
「とりあえず星隷本体を探しましょうか。力を借りるにしても星隷に会えないとどうしようもないし」
けど、どうやって探すか。この世界そのものが星隷だから探索魔法はきっと無駄だ。
明らかに怪しいのは目の前の龍だが、下手に刺激して敵視されるのは避けたい。
迷って悩んでいると魔王さんが動いた。
手に力をいれてる?何をするつもりかな?
「チマチマ考えんのも面倒だ。辺り一帯を消し潰す!」
「ふぇ!?いやいやちょっと待って。目の前の龍を刺激しないでーー!!」
制止してももう遅い。既に魔王様は力を解放している。
巨大な渦潮が全てを呑み込み磨り潰し、最後には私たちと龍だけが残った。
「な、なにしてんですか魔王さん!!バカですか!龍が起きたらどうするつもりですか!!」
「何って掃除だよ、見りゃ分かんだろ。それに、この龍が起きないことには星隷と話しも出来ないだろ。それと今のオレはレイな」
龍を起こさないと星隷と話しが出来ない?どういうこと?門番のようなものか。それとも……?
まぁなんでもいいけど戦うのは避けたいな~。
「おっ、目を覚ましたみたいだぞ」
「え?」
空気をつんざくような――否、海を震わす号叫が響いた。
これはヤバイ、龍が起きてしまった。どうする。
逃げるか?ムリだ、詠唱する時間も与えてくれる筈がない。
戦うか?ダメだ、龍に挑んで勝てる筈がない。
気にせず星隷を探す?龍に背中を向けるバカがどこにいる。
とにかく身体強化を掛けておこう。最悪レイくんだけでも逃がせばいい。
慌てている私とは対照に、レイくんは喜びを浮かべている。彼は龍の恐ろしさを知らないからそんなに暢気にいられるんだ。
龍が口を開いた、きっと喰われるんだ。この程度じゃ死ねないのに。痛いだけなのに。
『なにか騒がしいと思えば、数千年ぶりの来訪者ですか。ようこそ。私の、水の星隷"アケルナル"の中へ』
え?喋るの?ていうかコレが星隷?
最後まで読んで頂きありがとうございます
感想評価アンチ発言等あれば遠慮なくどうぞ