ステータス
「こら~お兄ちゃん朝じゃぞ~!起きるのじゃ~」
布団がはがされ、涼しい空気が身を包む。 寒い。毛布を手探りで探す。
……!?何者かが飛び乗ってきた!?
「もう、お兄ちゃんったらお寝坊さんなんじゃから。 朝ごはん、お兄ちゃんのために愛情込めて温めたんじゃからね!昨日の残りを!」
あまり質のいいベッドでは無いのか、背中から固い感触がする。
「んん?! あぁ……おはよう……。」
甘いミルクのような匂いが広がる。目を開けると、可愛らしい褐色の少女が写った。顔にかかる銀色の髪が、何だかこそばゆいような気持ちいいような…。これ、温そうだなぁ……。
湯たんぽのような温かい物体を手元に手繰り寄せる。
うん、やっぱり抱くと温かい。これでもう一眠りできそうだ。
「にゃ、にゃにを…!まだ、心の準備ができて、あれ?」
「すぴー」
「むぅ…。想定していたシチュエーションとは違うが、これもこれで安心感があって良いな! ぎゅ~っじゃっ♪」
抱き枕に抱き返された。異世界の抱き枕は凄いすぴー…。
「村長がイカズチを起こしに行ったはずだが遅いな。早くしないとご飯が冷めるではないか、全く…。って、コラ!ミイラ取りがミイラになってどうする!起 き ろ ~ !!!」
目が醒めた。
「~~♪♪♪」
「何で、グレラが隣で抱きついているんの?!」
「知らん!早く起きろ!」
「あんなに、情熱的に儂を求めてきたのに記憶が無いじゃと!?酷いのじゃ!」
「えっ、嘘でしょ……。」
え、もしかして俺、昨晩(実質)幼女相手に『卒業』しちゃったの!?
異世界初朝食(昨日の残り)は、何だか味を感じられなかった。
※※※※※
「そうじゃ、お主が寝ておる間に、ステータスと好きな起床シチュエーションを調べておいたのじゃ。」
朝食を食べ終わり、軽くゆすいで洗浄機に食器をいれていたところ、グレラに話しかけられた。
ちょっと待て、今聞き逃せないこと言ってなかった?
「ねぇ、好きな起床シチュエーションを調べたって……?」
「な、なんの話やらさっぱりわからんの~?ほれ、それよりステータスじゃステータス。心踊らんかの?そんなゴキゲンなニュースがなんと!デバイスから見れるのじゃ!ワォ!アメィジング!」
誤魔化された気がするけど、とりあえずデバイスを起動させる。
「ステータスチェッカーってアプリがあるじゃろ?そこを開けば見れるはずじゃ。」
ステータスオープン!と内心叫ぶ。大抵の異世界系では、ステータスを開くとチート能力が判明する。ご多分に漏れず、俺もそのパターンだろう。俺は詳しいんだ。きっとスキル欄には輝かしいオンリーワンチートが…。
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八後 雷
体力 287
筋力 174
改変 error
知力 1523
敏捷 91
スキル 死線察知A+ 言語理解B ???EX
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言語理解以外、よくわからない。???が気になるけど、ひとまずはわかりやすい数字から聞こう。
「数字の基準がよくわからないんだけど?」
知力だけ突出していて、後は3桁ぐらいだ。改変力はあまりに低いせいか、数字すら出してくれない。
「うむ、一般的なデックアールヴの200才、つまり成人に成り立てぐらいじゃと、大体全ステータスが5000前後になるかの。」
「なにその『ぼくがかんがえたさいきょうしゅぞく』みたいなステータス……。」
明らかに桁がおかしい。というか、俺はダークエルフの1/3以下の知能しかないんだ…。
「ステータスもそうじゃが、それ以上に仲間との連携とスキル『復讐』が強力無比でのう、実際、全盛期のは向かうところ敵無しだったのじゃ。今はもう滅亡寸前じゃがの。諸行無常じゃ……。」
遠いところを見るような目をする幼女。なんて声をかけていいかわからない。そんな俺の心情を察したのか、すまんすまんと気恥ずかしそうに、はにかんだ。
「そうじゃ、もし良ければなんじゃが見せ合いっこせんかの?いや、お主が嫌でなければでいいんじゃがの」
人差し指どうしをツンツンしながら、そっぽをむいている。なぜ恥ずかしそうにしているのかわからないけど、お安いご用だ。
言語理解以外、どう行ったスキルかわからないしね。
「いいよ。ほら。」
「まさかの即断即決!? ジタン族は自分のステータスを見せるのが恥ずかしくないのかのう…。どれどれ?」
興味津々と言った様子で、ステータスカードをながめる。
「ぐぬぬ……儂より知力以外のステータスが高いのじゃ。お主も改変力が0じゃからerror表記なのかのう? スキルは……。ふむ、とてもそうは見えぬが、死線察知が中々高ランクなあたり相当な修羅場をくぐったと見える。死線察知がどういうスキルか知っておるか?」
「いや、初耳だよ。死を回避できるってこと?」
「大体正解じゃな。 死の要因を察知して、回避できるだけの体力と筋力と選択肢、どう回避できるかを知っていれば、自動的に回避できるのじゃ。一種の未来予知に近いスキルじゃな。例えば、ドーマに斬られかけた時、認識していないのに、何故かこれから斬られることがわかって、屈んだ。何故か倒したはずのサルプァーから嫌な予感がしたのではないかの?」
「うん、その通りだけど、サルプァーの時は逃げようとか思わなかったよ?」
「いや、逃げようとは思ったはずじゃ。ただ、ドーマがあまりに落ち着いているから無意識のうちに選択肢から消してしまったんじゃろうな。」
「なるほどね。この『???』は?」
「儂のステータスカードにも書いてあるんじゃが、よくわからないのじゃ。ほれ。」
少し恥ずかしそうに、デバイスを見せてきた。
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グレラ・ ゲー=アイガ
体力 165
筋力 79
改変 error
知力 12854
敏捷 84
スキル 調合A 調理A 整体B 医療AA+ 裁縫B+
機械作成A+ 復讐D ???EX
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「俺の8倍賢い?」
「まっすぐな曇りなき疑問が、儂の心を抉る!? 儂、こう見えて900年生きてるからの!? 賢いかわいいグレラちゃんって里で評判じゃったんじゃよ!儂!」
勉強はできても……なタイプなのだろうか。発言する度に知的オーラが雲散霧消。
「後、これぞ理想の奥さん向けスキルに紛れ込むド直球バイオレンスな『復讐』の存在感。浮気したら絶対殺す的な覚悟を感じるよね。」
「デックアールヴの先天性スキルなんじゃから仕方ないじゃろ!?
復讐は簡単に説明すると、親しい者が亡くなった時、その無念や憎しみを吸収、力に変えるスキルなんじゃが……。すまんの、あまりこのスキルについては話したくないんじゃ。ドーマも多分同じじゃな。」
何かトラウマでもあるのだろうか?他に気になる所があったから、棚に置くことにした。
「今、拙者の話題がでなかったか?」
「いや、何でもないよ。ドーマのステータスも気になるんだけど、見せて貰ってもいい?」
どんなスキルか気になるしね。
「恥ずかしい故、断りたいのだが…。」
何故か顔を赤くしながら、もじもじしている。
「恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしいに決まっているだろう!無防備な自分を見せるようなものだ!だが、家族相手なら、見せるのが当然だろう…。ほら……。」
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ドーマ・プラム=スカイゴッド
体力 9845
筋力 8532
改変 9632
知力 10369
敏捷 8972
スキル 弓術A+ 剣術A 詩の詠み手AA+ 騎乗B 呪術A
千里眼D 死線察知B 潜伏B+ 言語理解A 魅了C
学習AA 召喚C 観察眼B 芸術B+ 不屈の精神C
天候操作A 気配感知D 怪異殺しA 復讐EX 心殻B
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「これのどこが無防備なんですかねぇ!? ステータスは平均的最強生物の2倍、スキル20個あって何かご不満でも!?」
「こんな発展途上のステータス、拙者の未熟を晒しているようで恥ずかしい限りだ。」
「あっ、これ知ってる。定期テストで90点代出しているのに、恥ずかしいとか、満点じゃないからとか言い出すタイプだ!しかも本人に悪気ないからたち悪いんだよ!!」
「落ち着くのじゃ、イカズチ。お主の過去に一体何があったのじゃ!?」
「むぅ、拙者は何か悪いことでも言ったのだろうか……。あっ、イカズチのステータスは」
「来ると思ったよ、チクショウ!」
やっぱテストもステータスも先に見せた方が傷が少なくて済むのかなって思った。