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歓迎会



「ここが村の集会所だ。前はギルドと酒屋も兼ねていたが、二人しかいないからな。奥には拙者と村長の家もある。」


煉瓦でできた宮殿、というのが1番近い表現だろうか。

街に入った時から上のドームが見えていたが、全容が見える今、ことさら立派に感じられた。


近づくに連れて、食欲そそる香ばしい匂いが漂ってくる。

不意にお腹が空いてきた。

そう言えば、ここに来てからまだなにも食べていない。


年季を感じる木製の扉を開けると、パンッと小気味の良い音が聞こえた。視界に入った小さな紙吹雪でクラッカーだとわかる。


「ようこそ!デックアールヴの村へ!歓迎するのじゃ!」


まず目に入ったのは、カラフルな横断幕。異世界語なので読めないが、恐らく歓迎!ダークエルフの里へようこそ!とでも書かれているのだろう。

ところ狭しと飾られている風船や花が、ギルドっぽい施設をアットホームなパーティー会場へと変貌させていた。


右斜め奥の巨大なテーブルの上には、こんがりとした大きな肉やクリーム色のスープ、色鮮やかなサラダなど、ごちそうがこれでもかと並べれている。

文化圏の異なる世界だからゲテモノが出てもおかしくないと思っていたけど、どれもとてもおいしそう。

あの短時間でここまでクオリティーの高いパーティー会場をセッティングするとは、正直かなり驚きだ。



「どうじゃ!中々すごいじゃろ!褒めてくれてもいいのじゃぞ?」


あどけない声のした方を見ると、可愛らしい幼女のダークエルフが胸を張っていた。

かわいいのだが、なんというか、紐みたいな服装のせいで、目のやり場に困る。

ファンタジーに出てくるダークエルフも露出の多い服をよく着ているので、素なのか意図的なのかはよくわからなかった。


「紹介が遅れたの。ドーマから聞いておるかもしれぬが、儂が村長のグレラじゃ!ささっ、席に座るがよい。」


こういった場所にある椅子は固い木製なのが定番だけど、ふかふかのクッションと一体化したような、座り心地のいい椅子だ。

外の街並みや、橋といいダークエルフは凝り性なのかな?


「色々話したいことはあるが、とりあえず治療からじゃな。ほれ、これを飲むといい」


びんに入った緑色の液体を渡される。

バラエティーの罰ゲームにありがちな不味いドリンクなのは確定的に明らかだろう。

俺こういうの苦手なんだよなぁ。


「失礼、手拭いを外してから飲まんと大変なことになるからの。」


村長がさっと手拭いを外す。

何故か、それが処刑前に目隠しを外す、残忍な執行人の動作に見えて仕方なかった。


怪我を治すなら、普通は塗り薬なのではないだろうか?

疑問に思ったけど、これも怪我を直すため。

覚悟を決めてイッキ飲みすると、口の中に清涼感が広がり、遅れて優しい甘みが喉を潤す。


「おいしい……!」


思わずガッツポーズを取りたくなる。チョコミントは苦手だけど、これはいける。

てっきり青臭いor苦くて渋いパターンかと思っていたが、嬉しい誤算だった。


「ふっふっふっ、そうじゃろそうじゃろ、うまいじゃろ!味の改良にはこだわったからの!それより足を見てみい。」


「えっ?!」


足の傷口から緑色の粘液が滲み出たかと思うと、膜状に広がり傷を覆う。すると次第に肌色となり、すぐに怪我1つ無い体に戻っていた。

若干気味悪いかったけど、そんなことが些事と思えるくらい劇的な変化だ。

これ、もとの世界で量産したら一生遊んで暮らせそう。


「驚いてくれたようじゃな! これは治癒魔法のプロセスを薬に代行させたのじゃ。欠点は絵面が少し酷いこと、結構な量の蜂蜜が必要なこと、あまりに酷い大怪我は治せないぐらいじゃな!」


「凄いよコレ!こんな貴重な物をありがとう村長さん!」


「フハハハハ!儂は天才じゃからな!その程度の薬、いつでも作れるぞい!欲しくなったらいつでも遠慮なく言うがいい!」


「結構な量の蜂蜜、か。村長、まさかとは思うが勝手に私の蜂蜜を使った、何てことはないだろうな?」


いつの間にか、村長の真後ろで仁王立ちしていたドーマが、底冷えのするような声で訪ねる。なんだろう、俺が怒られている訳ではないのに寒気が止まらない。


「まままままさかそんなことする訳あるはずが無かろうううううう

採集にいくのが面倒じゃったから、ちょっとお主の部屋から拝借したとかそんな事情はないのじゃ。」


わかりやす!このロリババァわかりやす!目が泳ぎ方がもはやバタフライだ。バグったパソコンのポインターですら、あそこまでダイナミックな動きはしない。


「それはすまなかった。拙者の毎晩の楽しみ、大好物である蜂蜜を断りなく使う、なんてあるわけないもんな。」


ホッと村長が息をつく。良かった。いきなり修羅場は怖いもんね。

ところで、とドーマが言葉を続けた。


「蜂蜜を使ったかどうかは訪ねたが、出所までは聞いていないのだが? 」


ドーマの眼光が鋭くなる。ヒェっと村長が声を漏らした。止めたげてよお!


「それに、万が一拙者の蜂蜜を勝手に使ったのだとしても、別に怒らんぞ?本当に必要だったのならな。確か、前作っていた『染みない即効く キズぐすり』が残っていたよな?アレはどうしたんだ?」


「アレは……その……常に挑戦を続けてこそイノベーションがもたらされるというかじゃな……。」


「今までの話を総合すると、特に必要は無かったけど新しい薬を試したいし、材料が足りないからこっそり貰っちゃおう!みたいな救い用の無い話になるんだが。違うか?」


「……はい、ごめんなさいなのじゃ。」


ふっ、とドーマが微笑む。先ほどの金剛力士像フェイスが嘘のようだ。


「まぁ、傷が治ったのは村長のお陰だからな。それに、イカズチを思っての行動だろう? 今度からは、ちゃんと聞いてから使ってくれればいい。約束してくれるか?」


「うん!」


パアァっと村長の顔が明るくなった。奥さん、信じられます?この子900才ですって!


「とりあえず、明日、蜂蜜をとりに行って貰うとして、冷める前にご飯をいただくとするか。」


「あ、儂が蜂蜜を取りに行くのは既定路線なんじゃな。」


「当たり前だ。うん。村長の作ったご飯はいつもおいしいが、何だかいつもよりおいしく感じるな!」


「今日は腕によりをかけたからのう。イカズチ、どうじゃ?口に合うと良いのじゃが…。」


さっそく、大きなローストチキンのような形をした肉をを切り分けて口に運ぶ。カリッとした表面に、柔らかいながらもしっかりとした肉の食感。ふわっと広がるナッツの香りとガツンとした旨味が同時に襲ってきた。


「すごく美味しいよ!手が止まらない!」


「正直、ジタン族とは好みが異なる可能性も考慮していたから良かったのじゃ! お代わりはいくらでもあるからガンガン食べるがよい!」


サラダに手をつける。うん。新鮮な野菜特有のみずみずしさと甘さを感じる。肉と組み合わせると、凶悪な無限ループが完成しそうだ。

ふと、脳裏に幼馴染みのことがよぎる。音芽はもう夕飯を食べたのかなぁ。きっと独りで寂しい思いをしているに違いない。


「どうしたんだ?浮かない顔して。サラダはあまり好きじゃないのか?」


フォークを止めて、ドーマが不思議そうにじっと見てくる。


「いや、おいしいよ。ちょっと疲れててね。」


疲れているのは事実だ。嘘は憑いていない。


「確かに、今日は色々あったからな。無理もないだろう。ご飯を食べ終わったら、寝るといい。いくらでも時間はある。色々なことは明日以降考えよう。」


ひとまず、納得してくれたようだ。


「無理して食べんでも大丈夫じゃからな?保存は効くからの。夫が疲れている時に、そっと気づかえる儂、マジ良妻」


「村長、そういう脳内設定は言わぬが花だと思うぞ…。」


「これから現実にするから無問題じゃ!のぅ、イカズチよ?」


「流石に10分前に知り合ったばかりだし……。」


かわいいし、スペックも高いのはわかるんだけどロリコンじゃないしなぁ。


「むぅ。なら、しばらくは家族で妥協するかのう。」


意外な返答が帰ってきた。


「えっ?家族?」


「まぁ、空いている家がここしかないからな。それとも、拙者らと暮らすのは嫌か?」


「俺は嫌じゃないけど…。逆に、2人はいいの?」


「もちろんだ!家族が増えるのは嬉しいことだからな!」


「無論、儂も歓迎じゃ。それと、これから儂のことはグレラと呼んでくれると嬉しいの!」


「ありがとう、ドーマ、グレラ!これからよろしくね!」


こうして、ダークエルフの2人と異世界での共同生活が始まった。

……これ、音芽にバレたらキレられそうだなぁ。




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