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ファースト・コンタクト

鼻に水が入った。痛い。

慌てて頭を起こすと何かにぶつかる。

目を開けると周囲は暗闇。

頭をぶつけたところに触れると、ウィーンという機械音と共に少しずつ薄明かりが差し込んできた。



どうやら天井だと思いっていたけど、蓋だったらしい。

一旦、起き上がりぼんやりとした意識で周囲を見渡すと、

ごつごつした石でできている広い空間にいることがわかった。

周囲はぼんやりと明るい。

光源らしきものは見当たらないので、壁自体が光っているのだろう。



数m先には鉄の扉があり、その右横にはタッチパネルのような黒い板がついている。

体は謎の液体で濡れており、若干温いのが心地よい。

箱から出ると、またもや機械音がした。後ろからだ。

音のした方を向くと黒い金属製の箱が開かれていて、見慣れたリュックサックと衣服が中にあった。

俺のリュックと着ていた服だ。開けてみると、中身もバッチリ残っている。


「疑似転生システム ル・ヌ・ペレト・エム・ヘルを終了します」


無機質な音声がした。恐らく、先ほど俺が目覚めた箱(と言うより楕円形のカプセルだった)からしたのだろう。


…転生かぁ。となると、結局白髪天使は間に合わなかったことになる。別に、おれは悪くないと思うけど謎の罪悪感を覚えた。

もしかしたら、ドッキリ大好き病院(仮称)が意識不明の患者を驚かせるために、近未来カプセルと洞窟の隠し部屋をハイブリッドさせたカオスな部屋に収容した可能性も捨てきれない。無いな。


召喚者も見当たらないし、ドッキリ大成功のプラカードと共にワッハッハと笑い合う展開だといいんだけど…。

とりあえず、夕飯までに帰れなさそうなのはわかった。



※※※※※




することも無かったのでカプセルを観察したところ、ボタンやスイッチの(たぐ)いはなかった。

部屋も一通り見て回ったけど、カプセルと箱以外は何もない。

だいぶ体も乾いてきたので丁寧に畳んであった服を着る。

とりあえず部屋を出よう。


扉のとなり、ちょうど胸の高さについている黒い板に触れると扉が開いた。

通路だろうか。雰囲気は部屋と同じような感じだ。これまた、ぼんやりと明るい。

扉からでると、右横から人の気配、それも殺気のようなものを感じる。

確信じみた予感と共に、慌てて屈むと、頭上を何かが通過する。チャキッと小気味の良い音と共に、ソレは鞘に納められた。刀だ。

まさか犬耳が襲ってきたのか。戦々恐々としながら、音の鳴った方を向くと思わず息を飲んだ。


美しい和風のダークエルフが居たからだ。

見た目の年齢は高校生ぐらいだろうか。

儚い雪のような銀髪に、冬に凍る湖を思わせる青く澄んだ瞳。

格好は着物みたいだが、ミニスカートのように丈が短く豊かな胸を大胆に露出させているので、慎ましいイメージとはかけ離れている。


しかし、その美しい姿はアワアワした表情のせいでかわいらしい印象に変貌していた。


「bGPvnbobG.kGubooWMlvdfiMWbyuvublb.ufyuvlGsGlbcflbsbefuflGubzvf,nbnMoMuMcblbsG……yuvuekGubooWMlv?!」


何を言ってるかさっぱりわからないが、表情が驚きに変化する。

態度から察するに、どうやらわざと殺しにかかったわけでは無いようだ。

心のどこかでドッキリじゃないだろうなぁとは思っていたけど、ここまでツモったらもう無理。


ここ……完全に異世界じゃん……。



※※※※※


言語が通じない上に身ぶり手振りも通じるかわからない。

友好のために手を差し出したら、ダークエルフにとってのブーイングサインだった場合は目も当てられない。

今度こそ首さんぴょんぴょん不可避だろう。

もはや途方に暮れるしか無いかと思われたが、意外にもあっさり解決した。


「なにこれ?」


和風ダルフ(ダルフはダークエルフの略だ)が懐からシリコンのような半透明のシートを取り出したかと思ったら、いきなり俺の左腕に引っ付けてきた。

そして、俺の右手をとり、シートに触れさせる。すると、ホログラフィクでスマホのようなものが浮かび上がってきた。

あれは掴めと言いたいのだろうか?

和風ダルフは自分の左腕の上の何もない空間を掴むような動作をしている。


試しにホログラフィックを掴む(?!)と何と実体化した。

スマホ?の画面によくわからない文字が踊ったかと思うと、いきなり流暢な日本語が流れる。

「使用言語認識完了。設定画面に移行します。」

マニュアルと自動設定のボタンが表れる。よくわからなかったので自動設定にする。すると、見慣れたスマホのホーム画面のようなものが現れた。

自動翻訳アプリがあったので起動する。

すると、流暢な日本語が聞こえてきた。


「うむ。これで拙者の言葉も通じるはずだな。先ほどはまことにすまなかった。行きなり壁から出てきた(ゆえ)、魔物と勘違いしてしまってな。怪我はなかったか?」


心底申し訳なさそうな顔で謝ってきた。

きちんと謝罪できるあたり、悪い人で無さそうだ。


「いや、怪我はなかったですし、気にしないでください。えっと…」


「拙者ははデックアールヴのドーマ・プラム=スカイゴットと申す。 気軽にドーマと呼んでくれ。後、できれば敬語は使わないで欲しい。拙者らデックアールヴは立場が対等な者に敬語は使わない。とても難痒く感じるのでな。」


まぁ、初対面で敬語を使うダークエルフっていまいち想像できないしね。


「俺は人間の八後(はちのち) (いかずち)。俺は後ろの部屋から……。」


と言って振り返る。しかし、そこにはもう岩壁しかなく、扉はなかった。


「さっきまでここに扉があったんだけどね…。」


「恐らく隠し部屋だな。一度出たら消滅してどっかに消えてしまう。稀に再出現(リポップ)する場合もあるが、滅多にないな。しかし、ジタン族は絶滅したと聞いていたが……。どこの階層から来たんだ?」


「さっき隠し部屋の中で目覚めたばかりだから、強いて言うならここの階層かな…。正直、ここがどこなのかさえわからない。」


そう言うと、ドーマは訝しげな顔をしてこちらを見つめてきた。端整な顔立ちの人にじっと見つめられるとドキッとするよね。

異性ならなおさらだ。


「うむ、嘘をついてる顔でもないし、狂ってる様子もないな…。どうしたものか…。とりあえず、村長に判断を仰ぐのが良さそうだな。頼れる者がいないのなら拙者らの村に来るといい。案内しよう。」


俺の不安を払拭するように、ドーマはニカッと笑った。


※※※※※※



移動中、スマホや現在地について一通り説明を受けた。


今いる場所はダンジョンの地下99階で、村は地下100階にある。

ダンジョン内には古代遺跡がいくつかあり、さっき渡してくれたシートも遺跡内で今でも自動的に作られているため有り余っているらしい。


スマホはシートから1m以上離れたり、壊れると自動的に消え、念じるか右手でシートに触れると出てくる。

他にも自動マッピングやステータス確認、写真撮影などもできるそうだ。

異世界のくせに技術力が高すぎやしませんかね…。


突然、ドーマが立ち止まり辺りを警戒し始める。なにがあったんだろうか。

すると突然、俺の手をつかみ走り始めた。


「この音はサルプァーか? 逃げるぞ!」


しばらくすると轟音が近づいてきた。振り返ると、蛇のような巨大な化け物がこちらをめがけて来る。

目は無く、体は半透明。臓器らしき赤い物体がフルーツのように浮かんでいる。

尻尾の先が見えないほど長く、口を大きく広げ石や岩を飲み込みながらこちらをめがけて来る。まるで濁流のようだ。

追いつかれたら巨大な口に丸飲みされるのは間違いないだろう。

必死に走ったが、無慈悲なことに距離は段々と縮んでいく。


「むぅ……致し方なしか。無益な殺生は好まぬが、逃げ切れぬ以上仕方あるまい。」


殺生……①生き物を殺すこと

②残酷なこと。酷いこと。かわいそうなこと


「いや、どう考えても無理でしょ?!これ下手な中盤ボスより強いよ!曲がり角か何かでやり過ごそうよ。」


「チューバンボスが何かは知らぬが、サルプァーは熱源を察知して移動する。やり過ごすのはそれこそ無理だろうな。なに、拙者の手にかかればあの程度の化け物、ぬかに釘を打つようなものだ。」


そう言って、立ち止まり化け物の方を向く。

後、そのことわざの使い方はたぶん違う。

が、ニュアンスは伝わってきた。


「我が手に来たれ 梓弓(あずさゆみ)!」


虚空からドーマの手元に弓が現れる。

すると、水のような滑らかさで矢をつがい、放った。


「GIYAAAaaaaaaaa?!」


矢が吸い込まれるように大蛇の臓器に当たり、透明な体が赤く染まる。あちこちに飛び散った透明な肉塊が、威力の凄まじさを物語っていた。

ゼリーの化け物が怯んでいる隙に高速で矢を穿っていき、その度にすでに血色に染まった体がより濃く染まっていく。

やがて、全ての臓器を撃ち抜いたのか、蛇の化け物はシンと動かなくなった。


「フッ、恨むなら拙者に出会ってしまった己が不運を呪うんだな」


ドーマがキメ顔で呟く。さっき首が跳ばなかったのは本当に幸運だったんだな。生まれて初めて神を信じてもいいと思えた。


※※※※※※


ドーマが休憩を提案した。

やはりあの技は相当な体力と集中力を要するのだろう。

そんな俺の察した雰囲気を感じたのか、


「無理しないことがダンジョンで生き延びるコツだからな」

と独りごちる。


先ほど倒れた透明な化け物(サルプァー)を見ると、すでに血が抜けたのか、ゼリーのような肉塊がぼろぼろ崩れ落ち始めていた。


「サルプァーの死体が崩れ始めてるんだけど、大丈夫かなぁ。」


何だか、嫌な予感がする


「なんだ、イカズチは知らないのか?すべての生き物は死んで、しばらくすると光に帰る。きらきら光って中々きれ……。」


そう言ってサルプァーの亡骸を見る。

すると、暑くもないのにドーマの顔から汗が出始めた。


「あっ、不味い。核を撃ちそびれた。」


顔全体にやっちまった雰囲気がありありと出ている。

口調も思わず素が出ているがつっこまないのが優しさだろう。


「撃ちそびれるとどうなるの?」


答えは聞く前にわかった。

無数のこぼれた肉塊が、こちらに向かって殺到してくる。

良く見ると、肉塊は饅頭のような形をしていて、真ん中をぶったぎったような大きな口からは凶悪な牙が覗いていた。

追いつかれたら喰われる。

知識がなくてもフォルムを見れば明らかだ。


示し合わせたように俺とドーマは立ちあがり、共に走り始めた。

性質(たち)の悪いこと蛇型の時よりずっと速い。


「あいつらさっきの凄い弓術で仕留められないの?」


「幾らなんでも数が多すぎる!100匹ぐらいなら何とかなるが、この量になると狙いが絞りきれない!」


「じゃあ何か魔法みたいので消せないの?極太ビームぶっぱみたいな!」


「そんなことしたら奴等が余計に活性化する!あ、いや、知らないのだったな。すまない。奴等は魔法を吸収して己の力に変える性質を持っている。とにかく急ぐぞ!」


ドーマは素早く俺の腕を握ると先ほどと比べ物にならないくらい速く走り始めた。

必然的に足がもつれ、引きずられることになる。


「痛い痛い痛い痛い!小石が、砂利が、摩擦がぁ!」


小石や砂利が食い込み、摩擦で皮を剥かれた足が血みどろになる。

先週買ったばかりの真新しいジーンズが早くもダメージジーンズと化した。

ドーマは逃げるのに必死で、こちらの惨状に全く気がついていない。

拝啓、クソッタレな神さまへ クーリングオフするので転生先を選び直させてください……。

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