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プロローグ


「ついに見つけたぞ!ここが奴の住み処だ!他のチームからの連絡は……無ぇ!俺達が一番乗りだ!」


閑静な住宅街に男の歓声が響く。

コミケ会場であれば精巧な近未来系コスプレだと感心を集めるかもしれないが、現代日本ではただただ浮いている。


幸いなことに()()の周囲には人がいなかった。

いや、もしかしたら当然かもしれない。

いくら忙しい日本のサラリーマンと言えど、こんな時間から起きている方が稀だろう。

時刻は4時。まだ、太陽が出るまで2時間以上はある。

すでに暦は春だが、夜の闇で冷えきった辺りは冬のように冷える。


「おいおい、そんな大きな声を出すなよ。万が一奴に勘づかれたらどうする? 失敗したら同僚から赤ちゃん言葉で話しかけられちまう。初めてのお使いもできないんでちゅかってな。」


相棒らしき、黒いフルフェイスを被った男は下卑た声で笑う。

どうやらクールなのは格好だけのようで、中身が全く伴っていない。

モヒカンや肩パッドをしていないだけで、恐らく民度は世紀末出身クラスだろう。


「大丈夫だ、半径100mに起きている奴は居ない。こちらに気づく間も無く拉致れるだろう。それにな、万が一気づかれた所で原始時代同然の、この世界に俺達を阻める奴がいるわけがねぇ!」


端末を確認しながら、男はニタァと醜悪な笑みを浮かべる。

フルフェイスと違い、こちらは目元しか隠していなかった。

黒い液晶のような仮面に赤い光が灯っている。

無機物感溢れる装いと、汚ならしいヘアスタイルが実にミスマッチ。


「それもそうだな。作業ついでに、適当な女もさらわねぇか?しばらく、娼婦を雇わなくてすむ。猿みたいな頭でも腰振るぐらいはできるだろ?」


「違いねぇ!向こうに逃げちまえば、ここの連中は追って凝れ無ぇ。雇い主も依頼さえこなせば、五月蝿いことは言わないだろう。名前はたしかイカズチだっけか?さっさとさらって…」


不意にとんとんっと彼の肩が叩かれる。


「んだよ?テメ…????」


彼は最後まで言葉を続けられなかった。


()()()()()()()()


氷像となった相棒を見て、フルフェイスの男は本能的に、横に飛びのこうとした。

彼等の過ごす世界では、考えてから逃げるようでは到底生き延びれない。

事実、男は抜群の反射神経と本能を持って、20年以上裏の世界で生きてきた。

そんな彼が、今、まさに命運つきようとしている。

飛べないのだ。まるで地面に埋められたかのように、力が入らない。


「何で?!何で?!な…??」


男は気づけなかった。すでに自分の下半身が凍っていたことに。


「あっ……」


男はわからなかった。自分を襲った者が何者なのか。


男は思い至らなかった。何故、他のチームと連絡がとれないのか。


不意に、鈴が転がるような声がした。


「それにしても高々一般人に対して、精鋭100人はやりすぎだと思うのよね。万が一に備えたのかも知れないけど、だとしたらシンカク持ちに対する警戒もなかったし…。大方、斥候ってところかしらね」


少女はまるでフルフェイスが居ないかのように呟く。

すでに彼女にとっては「終わった」話なのだろう。

事実、目の前の男含めた全50ペア、計100人の敵対者はすでに全滅していたのだから。


まるで存在しないかのように扱われた男は、理不尽を感じた。

自分の死はこんなにも軽いものなのか、巫座けるな、世界に向かって吠えようとしたが、すでに口を開けることすらできない。

鋭利な刃物のような冷たさが全身を蝕む。

やがて甘美な眠気が男を襲い、静寂が訪れる。

男はかくして相棒と同じ運命を辿った。

表情が絶望に歪んでいることがフルフェイス越しでも予想がつく。


そんな男の最後を気にも止めず、少女は独り言を続けた。


「今は私が守りきれる範囲よ。でも本隊が来たら、お別れしなきゃいけない。世界を終わらせることができる私でも、世界を相手に庇いながら戦うのは無理なのよ。えぇ、哀しい。とても哀しいわ。」


その言葉に反して、彼女はひどく冷静だった。

まるで、あらかじめ何度も想像していたかのように。

結末を知っている童話を読んでいるときのように。

しかし、感情は無意識に表れる。

彼女の心を表すかのように、春の柔らかな大地に霜が降りた。


「身が引き裂かれるような…。それこそ、氷獄でうち震えるような孤独に気づき、温かな手を差し伸べてくれたのは他でもない。あなたなのよ。だからね、今度は私があなたを助かる。この手から温もりが抜けない限り、もう独りじゃないから。」


感情を抑えきれなくなったのか、悲愴な決意が彼女の言葉から滲み出る。

彼女は見据えていた。避けられない別れを。過酷溢れる運命を。


「さ~て、後平和に過ごせるのは1週間ぐらいと見たわ。とりあえず、ごみ捨てを済ませたらイカズチといちゃいちゃタイムよ!ひゃっほー!」


先程の態度とは一変、自らを奮い立たせるように元気な声をあげる。


2柱の氷像を抱えて、彼女は巨大な氷の翼をはためかせ飛び立つ。

その後、彼等がどうなったのか。彼女以外は誰も知らなかった。





※なんだか殺伐としていますが、本編は基本ギャグテイストです

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